呪いの指輪を無理やりつけられたけどかなり簡単に外してもらった件
そんなに長くない短編です。
ゆる〜い気持ちで、どうぞ!!
ちなみにR−15は念のためです。
普通に年齢制限はいらない気もしたんですが……一応ね……?
学校からのいつもの帰り道。
何も特別なことなど無い。
学校の近くにできた真新しいカフェでお茶して、みんなでワイワイ話をした。
その帰り道でソレは現れた。
「やっと見つけた! 私の妃!」
なんかやたらとカッコいいイケメンが、コッチを見つめている。
その視線はやけに熱っぽく色気がダダ漏れしていた。
はあ〜。
こんなイケメンに熱視線を送られるなんて、さぞかし綺麗な女の人が私の後ろにいるんだなぁ。
見てみたかったけど、ここで振り返るといくらなんでもあからさま過ぎるだろうと、私は諦めて道の端に寄った。
人様の恋路を邪魔するほど野暮では無いよ。思う存分ドラマを展開して下さい!
そう思いながら通り過ぎようとしたんだよ。
私は!
……なぁオイ。イケメンさんよ。
何で貴方は私の手を掴んでるんですかね?
後ろにいるはずの貴方のお相手はどうした!?
驚き過ぎて声も出ないまま、背後にいるだろう人物に助けを求める為に振り返ってビックリ。
誰もいない……だと!?
はっ? 何で??
じゃあ、さっきこのイケメンが話しかけていたのは、誰だったの?!
頭の中は大混乱だ。
そんな一人パニックの中、件のイケメンさんが腕を引っ張って来たものだからよろけて彼の胸の中にダイブ。
抱き止められました。
乙女ならば憧れのシュチュエーションにトキメクのだろうが、生憎そういう可愛げは私には無い。
というか、やめてくれ!
恥ずか死ぬ!!
「ようやく会えたのに無視しようなんて。冷たいな我が妃は」
「……あの……人違いです」
どうしよう。
この人厨二病患者だ。
対処の仕方が分からん。
「人違いでは無い。其方が私の妃だ。美波」
「!?」
何で私の名前を知ってるのこの人!?
「何を驚いて……あぁ、そうか。 其方は私の事を知らないのか」
一人で納得しているイケメンさんよ。
とりあえず離してくれないだろうか。
さっきから力を込めて離れようとしてるのに、ビクともしないなんてどういう事だ!
「私の名はシャイレンディオ。レンとでも呼べば良い。美波を迎えに来た」
「…………とりあえず、離して下さい」
えっ?
この状態のままで自己紹介?
ありえねー! というツッコミを飲み込んで冷たく言ってみた。
凄く悲しそうな顔をされた。
イヤイヤ!!
初対面の女子を抱き締めてる時点でアウトだからね?
これ、れっきとした痴漢行為だからね⁈
「で。迎えって何の事ですか?」
こういう時は簡潔に聞きたい事だけ聞き出して、さっさと警察に駆け込もう。
「ん? ご両親から聞いていないのか?」
「はっ? 何を??」
親?
まさかとは思うがウチの能天気な両親が何か約束でもしたとか?
「美波が15歳になったらお嫁に貰ってくれと、ご両親が言っていたんだが……」
……おぉっふ……。
諦めの境地なんだろうか。
怒りより只々ため息が湧き上がる。
詳しく話を聞くと私がまだ赤ん坊の頃、ウチの親達が(信じがたいが)彼の両親を助けた事があったんだそうな。
そしてその時、私が大きくなったらお嫁にやると約束したらしい。
オイ。
私の意思はどこに行ったんだ両親よ。
そして助けたというのが本当ならば、それ断れなかっただけなんじゃ……?
にしてもこのイケメン、嬉しそうに話してるんだけど嫌じゃ無いのかな?
「……嫌じゃないの?」
「何がだ?」
ちょっと首を傾げてキョトンとしたイケメン。
可愛いな。
私より女子力高いんじゃ無い?
「貴方の好みガン無視で、嫁がコレとかただの罰ゲームじゃない?」
自分で言うのも悲しいが、私の見た目は中の中。
つまりど平凡。
その上、中身は女子力とは何ぞや? な残念女子。
こんなんと結婚とか、ただの罰ゲームでしょ。
いや、拷問か?
相手なんか選びたい放題のはずのイケメンが、嬉しそうに私を嫁呼びする事に純粋な疑問しか湧かない。
「まさか‼︎ 我ながら私ほどの幸運の持ち主もなかなか居ないと思うぞ?」
笑いながら否定するシャイ……何だっけ?長くて忘れた。
レンって愛称なんだろうけど此処は仕方ない。
遠慮なく呼ばせてもらおう。
だって忘れちゃったし!
「其方と会ったのは赤子の頃以来だが、美しい少女に育っていて私は幸せだよ」
そう言いながら彼はやっと私の拘束を解き少し距離を取ってくれる。
ホッとしてたら彼は優しく私の左手を取り、薬指に指輪をはめた。
え?
ちょっと待って⁉︎
何でナチュラルに指輪はめてんの⁈
私まだ全く了承も納得もしてないんですけど⁉︎
無言で睨みつけながら手を振り払ってやったが、苦笑されました。
仕方ないなって顔するのやめてくれないかな?
私が聞き分けない子供みたいじゃん!
ムカムカしながら指輪に手をかけた途端、今度は私の肩を優しく抱き寄せて来た。
「……やめて下さい」
「ん? あぁ済まない。直ぐに終わる」
何が? って言う言葉は飲み込まざるを得なかった。
だって周りがどんどん滲んで何もかもが輪郭を無くして行くし、足元では幾何学模様、ってか魔法陣(?!)みたいなのが光ってたから。
「…………!!!!」
驚いている内に光に包まれ、眩しくて思わず目を瞑る。
「もう大丈夫だ」
声をかけられて恐る恐る目を開く。
目の前には笑顔のイケメン。
だが優しく微笑まれた所で安心なんてちっとも出来ない!!
「今の何?!」
「ただの時空転移だ。問題ない」
サラッと爆弾発言されました!
どこら辺が問題ないと言うのだろうか?
問題アリアリだよ!
「時空転移?!」
どこのラノベだ!! とか思ってしまった私は悪くない。
むしろ口に出して突っ込まなかった私を誰か褒めて!!
キョロキョロと周りを見渡してみると、そこはもう私の知ってる帰り道では無かった。
何処かの部屋の中。
でもこんな部屋見たことない。
アニメやゲームでしか見たことない様な、魔法陣っぽい模様が描かれた床。
天井からぶら下がっているのは極薄の布。
魔法陣っぽいものから立ち上っていた淡い光が消える頃に、ようやく私は正気に戻った。
「もとの場所に戻して下さい! それからこの指輪もお返ししま……?!」
指輪が外れない?!
ピッタリと指に嵌まっていても普通多少は動くのだが、この指輪は全く動かない。
左右に回そうとしても、上下に動かそうとしても、ピクリともしなかった。
力付くで外そうと躍起になっていた私の耳が小さな笑い声を拾う。
顔を上げるとくつくつと笑うレンさんの顔があった。
何で笑ってんのこの人?!
「……何ですか?」
「いや。焦ってる姿が面白……可愛らしくてな」
「……今、面白いって言いかけてませんでした?」
「まさか」
顔笑ってますけど?!
何なのこの人!
人がテンパってる姿見て笑うとか、性格悪っ!
「……あの。お手洗いお借りできますか? あと洗剤も」
「洗剤?」
唐突な申し出が理解できないのか、首を傾げてるレンさん。
そんなに変かな?
洗剤つけて手を洗うと指輪が外れ易くなるのは常識じゃ無いの??
「洗剤で洗っても外れないぞ。それ」
背後から低音の良い声が聞こえて来た。
ぞくっとする程良い声で腰が砕けそうになる。が、言ってる不穏な言葉の方が今の私には気になる。
バッと後ろを振り返ると、背の高い美人さんが腕を組んで仁王立ちしていた。
男の人……で良いんだよね?
中性的な顔立ちで長髪だと判断しにくいけど、体つきは男性ぽい。
じろじろとその男性? を眺めていると後ろから声がかかった。
「ジオ見てくれ! 私の花嫁だ!!」
レンさんが嬉しそうに声を掛けても、ジオと呼ばれた人は私から視線を離さない。
何? 何なの?
無表情で眺められると怖いんだけど?!
まさか、私がガン見してたのが気に入らなかったの?!
「……レン……本当に異界から攫ってきたのか……」
大きなため息を吐きながら呟くジオさんとやらは、私を気の毒そうに見つめて唐突に頭を下げた。
「申し訳ない。異界の少女。貴女にとって何不自由の無い生活は保証する。だが、元の世界に帰ることは諦めて頂きたい」
「……へっ?」
矢継ぎ早に告げられる言葉に、頭がついて行かない。
間抜けな声しか出なかった。
美人な顔を歪めて、痛ましそうに私を見つめるジオさん。
「……帰れない?」
「ああ」
「……もう……お母さん達に……会えないの?」
「……すまない」
頭を下げて謝るジオさんを眺めながら、私の頭はグルグルと考えが空回る。
帰れない?
もうみんなに会えない?
お母さん、お父さんやお兄ちゃんにも会えない?
友達にも?
やり始めたばっかりのバイトにも行けない?
あぁ、ゲームも途中だし友達と一緒にハマってる漫画の新刊、来週出るから楽しみだったんだけど?
頭が取り留めなくどうでも良い事まで考えていると、肩を掴まれ軽く揺さぶられてハッと気づく。
肩を掴んでいたのはジオさんだった。
「大丈夫か?」
「……何でこんな事に……変な場所に連れて来られるし、変な人に嫁とか言われて指輪つけられるし……しかも外れなくなっちゃったし……」
もう、限界だった。
非現実的な今の状況が全部嫌だった。
だけど、どんなに嫌でも、私の良いとは言えない頭でどんなに考えても、解決策なんか思い浮かばない。
文句すら出てこない。
泣き喚くための罵詈雑言も思いつかない。
馬鹿の一つ覚えのように家に帰りたいしか思えなかった。
涙が勝手に流れて行く。
悲しいのか、悔しいのか、腹が立っているのか、自分でも分からないまま、ただ茫然としたまま涙だけが頬を滑り落ちて行った。
「……すまない。家に帰すことができないのに、こちらに君を攫って来てしまった我らを、許して欲しいとは言えない。だが、君を全力で守ろう」
「……守る?」
「ああ」
「……そこの人からも?」
「私?!」
レンさんが自分を指差して、素っ頓狂な声を上げる。
何、驚いてるんだろう?
帰れなくなった元凶なんだから、私の敵として認定されて当然でしょ?
「ああ。必ず守ってみせよう」
「ジオ!!」
深く頷くジオさんを咎めるように、レンさんが声を荒げる。
ビクッとなった私を安心させるように笑いかけてくれたジオさん。
美人だからかな?
それとも守るって言って貰えたから?
笑いかけられただけで、スッと安心した。
「異界から彼女を攫って来たんだ。憎まれて当然だろうが」
「彼女のご両親から提案された事だぞ?」
「彼女は我々と違う。自由に結婚相手を選べる立場だったはずだ。ご両親も娘の意思を無視してまで、お前との結婚を望んでた訳じゃないだろ。それにこちらに連れて来る前に、ご両親から許可は頂いたのか? 彼女の意思確認は? やってないだろう? 拐って来た時点でお前の勝手な暴走だ」
ぐうの音も出ないのか、レンさんは顔を歪めて俯く。
黙ってしまったレンさんを見て頷くと、ジオさんはこちらを見た。
「俺にできることなら、可能な限り力を貸す事を約束しよう。コイツとの結婚は、君が望まない限りさせないから安心して欲しい。他には何かあるか?」
「……この指輪……外したい」
「そうか。そういえば言ってたな。……手に触れても、良いか?」
私を心配そうに見つめるジオさんに、私ははっきりと頷く。
多少ぎこちなかったのは勘弁して欲しい。
色々キャパオーバーしてるんで、体が勝手に過剰反応してるだけなんです。
だから触られる瞬間にビクってなったのは見なかった事にして下さい!
ビクつく私に配慮してか、ジオさんは一声かけてからそっと手に触れる。
左手の薬指に嵌められてビクともしなかった指輪が、ジオさんの手であっけなく外れた。
「えっ?!」
覚悟してた痛みが全く無かった!
あんなにピッタリはまって、ピクリとも動かなかったのに!?
「何で?!」
叫んだ私にジオさんは笑いながら指輪を見せる。
「これは特殊な指輪でね。魔力を流しながらじゃなければ、動かす事すらできないんだよ」
「呪いの指輪……?」
「まあ。人によってはな」
そんな物、人の了承も無く付けたのか、この人!?
レンさんを睨み付けると何故か微笑まれた。
何で睨まれても嬉しそうなんだ!
まぁ何にせよ良かった。
呪いの指輪なんて御免被る。
「コレ。どうしたい?」
「二度と私の指につけたく無いです!」
「分かった」
笑いながら了承したジオさんの手から唐突に炎が噴き出した!
その炎に包まれてあっという間に指輪は溶けて無くなる。
呆然とそれを眺めていたらクスクスと笑う声と、あ〜!! と言う叫び声が同時に聞こえて来た。
「……何ですか?」
「いや。怖かったか?」
「いえ別に怖くは無かった。ですけど……」
「それは良かった」
レンさんが横から突っかかってるのに全く聞いてないジオさんは、私に何か言おうとして驚いたように目を見張り、口もとを手で覆い隠した。
どうしたんだろう?
突然気持ち悪くなっちゃったとか?
「俺とした事が君の名前を聞き忘れてた。まずは自己紹介からすべきだったな」
苦笑を浮かべたジオさんに何故かドキッとした。
何で?
「俺はジークフリード・オグマ・アスティアス」
「私は田畑美波です」
軽く頭を下げて挨拶をしたあと顔を上げると、ジオさんと目が合った。
この異常事態の中で、自己紹介をし合っている状況が何だか可笑しくなってきて、笑ってしまった。
私に吊られたのかジオさんも一緒に笑い出す。
無視されまくって憮然としていたレンさんは、私達が笑うのをポカーンと見ていたがそのうち苦笑してた。
呪いの指輪をつけられて異世界に拉致されたけど、案外簡単に外して貰えた私はもしかしたら案外運が良いのかもしれない!!
だから、うん、大丈夫だ。
私はこんな事で負けないよ。
今は無理でもいつか元の世界に帰るんだからね!
因みに後日、色々と驚愕の事実とかが判明する事があったりしたけど、それはまた別の話だ。
どうでしたか?
少しは楽しんでいただけたでしょうか?
ちなみに作者は初投稿に、ドッキドキです!!(笑)
色々ツッコミどころ満載な話ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです!!