ヒーローは孤独から彼女を救います
ブクマや評価、感想など本当にありがとうございます。
私は來兎にハグをされ、その温もりを思い出しながら來兎から借りたヒーローの本を開きます。
最初のページには亡くなったヒーローの彼女が大きく書かれていました。
とても美しい女性です。
この絵を書いた作画さんに拍手を送りたいくらいです。
そしてこのヒーローの話を作った作家さんにもです。
それでは本編を読みましょうか。
私は彼女の絵とサヨナラをして次のページを開きます。
◇
ヒーローは彼女の復讐をする為に戦い続けていました。
どんなに苦しくても彼女よりは苦しくない。
どんなに悲しくても彼女よりは悲しくない。
どんなに痛くても彼女よりは痛くない。
どんなに寂しくても彼女よりは寂しくない。
ヒーローの願いはただ一つ。
彼女が戻って来ることだけ。
そんな願いは叶うことはありません。
だからヒーローは彼女の為に戦い続けるのです。
そうすれば彼女に会えるから。
違います。
助けた人に彼女を重ねる事ができるから。
「ヒーロー。お前があの花の力を手に入れたのか?」
「お前は?」
「彼女は死んだのか? どうだ? 苦しんでいたか?」
ヒーローはやっと彼女を殺した相手に出会いました。
その相手は彼女が苦しんでいたことを知り嬉しそうにしています。
そんな相手にヒーローが怒らない訳がありません。
ヒーローは相手に戦いを挑みます。
しかし相手は強かったのです。
ヒーローがボロボロになった所を何の力もない人間達に助けられました。
ヒーローは人間達に感謝をしました。
ヒーローが今、死んでしまえば復讐はできません。
人間達はヒーローに教えてくれたのです。
自分が死んでしまっては意味がないということを。
彼女の為に戦うのは変わりません。
しかし自分の命は大切に戦うようになりました。
彼女を殺したあいつに復讐をする為に。
彼女を殺したあいつはいつまで経っても出てきませんでした。
そして平和な日が続いていたある日、先生がいる研究所に彼女を殺したあいつが現れました。
あいつは先生を刺し殺し、また何処かに姿を消しました。
あいつはずっとヒーローを助けてくれていた先生まで殺したのです。
ヒーローはもう、怒りしかありませんでした。
その怒りを何処に向ければいいのか分からずヒーローの中で貯まっていきました。
ヒーローは怒りが貯まり自分を制御できなくなりました。
ヒーローはヒーローではなくなりました。
町で暴れ色んな建物を壊していきました。
しかし何故か誰一人として犠牲者は出なかったのです。
ヒーローはまだ中に生きています。
人間がヒーローを呼びます。
あっちから。
こっちから。
向こうから。
遠くから。
海の上から。
空の彼方から。
色んな所からヒーローを呼ぶ声が聞こえます。
一人の声は小さくてもそれが集まれば大きくなります。
世界中の人がヒーローを呼べば必ずヒーローに聞こえます。
人間達は願います。
人間達は叫びます。
人間達は待っています。
あのヒーローを。
彼女の為に戦い続ける優しいヒーローを。
「ヒーロー」
人間達の叫びは願いはヒーローに届きました。
ヒーローは元のヒーローに戻りました。
人間達の声が聞こえていたヒーローはその時、一粒。
たった一粒だけ涙を流しました。
その涙はヒーローの怒りの欠片だったのかもしれません。
ヒーローが暴れていたのを知って彼女と先生を殺したあいつが現れました。
しかしヒーローは落ち着いています。
「お前はここで死ぬんだよ」
相手はそう言いますがヒーローには何も響きません。
ヒーローには恐怖なんてありませんでした。
ヒーローには見守ってくれる人間達がいるのです。
ヒーローの為に人間達は願い、叫びます。
そんな人間達の思いを受け取りヒーローは強くなります。
強くなったヒーローに相手は苦戦しています。
相手に一つ攻撃をすれば相手は死ぬという所でヒーローは手を止めました。
人間達は叫びます。
「ヒーロー。彼女と先生の為に」
ヒーローは人間達を見て言います。
「彼女はこいつの死なんて望んでいない。先生もそうだ。彼女も先生もこの世界が幸せになることを願っているんだ。それならこいつを死なせる必要はないんだよ」
そうヒーローは言って相手の顔を殴り気絶させました。
彼女と先生を殺した相手は先生の残した研究所の地下で死ぬまで孤独に生きていくでしょう。
「ヒーロー」
「どうした?」
先生の息子であり助手だった男がヒーローを呼んだ。
「君にずっと秘密にしていたことがあるんだ」
「秘密?」
「彼女のことさ」
「彼女がどうしたんだ?」
「怒らないで聞いてくれるか?」
「分かった」
「彼女は…………」
ヒーローは先生の息子の話を聞いて走り出していました。
そしてヒーローはある場所へ着きました。
それは焼けてしまったはずの彼女の家です。
新しい家が立っています。
何年も前から立っている家。
ヒーローは彼女を思い出すからとほとんどこの場所には来ていませんでした。
しかしヒーローがこの場所に来ているのは何故でしょうか?
それはたった一人でずっとその家に住んでいる人が知っています。
「あら? 誰かお客様なの?」
「ああ」
「えっその声は、あなたなの? 私が会いたくて仕方なかったあなたなの?」
「そうだよ。俺も会いたくて仕方なかったよ」
「あなたの顔を見たいわ」
「でもどうすれば?」
ヒーローは死んだはずの彼女に会えたのです。
彼女もヒーローと同じで花の不思議な力で死ぬことはなかったのですがヒーローとは一つだけ違う事が起きていたのです。
彼女の髪の毛は紫色でヒーローと同じです。
彼女の目は紫色でヒーローと同じです。
ヒーローと違うのはどうしてなのか分かりませんが視力を失ったことです。
そんな彼女は一番、魔物に狙われやすいのでこの家から一歩も出ることなく今まで過ごしてきたのです。
「俺が君の目を治してあげるよ」
ヒーローはそう言って彼女のおでこに自分のおでこをつけます。
ヒーローに傷を治す力などありません。
それでも彼がそうしたのには訳がありました。
それは彼女の手にあの紫色の花が握られていたからです。
必ず花が力を貸してくれると信じて彼は願います。
彼女も目を閉じて願います。
いつの間にか二人は手を握っていました。
ヒーローは花を大事に持っている彼女の手をおでこに近づけます。
そしてヒーローの目からたった一粒の涙が流れ花に落ちます。
すると彼女の目からも一粒の涙が流れ花に落ちます。
二人の涙が混ざった時、不思議な風が二人を包みました。
暖かく何処か懐かしい風は二人の前からいなくなりました。
二人は目を開けると驚いています。
「紫色じゃない」
ヒーローは彼女に言います。
「全然変わらないわね」
彼女はヒーローに言います。
「見えてるのか?」
ヒーローは彼女に嬉しそうに言います。
「見えてるよ。あなたもこの綺麗な白いお花もね」
そうなのです。
二人は元の二人に戻り花は紫色ではなく白色になっていました。
もう何処にも紫色の花はありません。
だから特殊な力を持つ人もいません。
そして魔物や悪い者もいません。
この世界は幸せで溢れる世界になりました。
ヒーローはもういません。
でも彼女だけにはヒーローはいます。
「キャッ」
彼女がこけそうになる所を彼が嬉しそうに支えます。
「ありがとう。はい、これ」
彼女は白いお花を彼に渡します。
彼は白いお花を受け取って言います。
「お花もいいけど俺達はもう、大人だよ? ランクアップさせようよ」
「ランクアップ?」
「そう。助けた見返りは?」
彼はいつものセリフを言います。
そんな彼のセリフに彼女は嬉しそうに笑って言います。
「それなら私をあげるわ」
「それは喜んで頂くよ」
彼はそう言って彼女を横抱きにしてキスをしました。
まるで彼は王子様で彼女はお姫様のようです。
ヒーローはいなくなりました。
しかし、王子様とお姫様はいなくなりません。
だって人間みんな王子様にもお姫様にもなれるのですから。
◇◇
やっぱり私は泣いていました。
でも悲しい涙ではありません。
嬉しい涙です。
本を読んだら來兎に会いたくなりました。
でも今は泣いているので会うのは止めておきます。
なので電話をしました。
「もしもし」
「來兎? 繭だよ」
「うん。どうしたんだ?」
「全部、読んだよ」
「そっか。もしかして泣いた?」
「なっ泣いてないわよ」
「そうか。それならそういうことにしておくよ」
來兎はクスクス笑いながら言いました。
「私、最初のページに載ってた彼女の絵が好きなの」
「彼女の絵なら表紙を取っても書いてあるよ?」
「表紙?」
「表紙をまず取ってみて」
私は來兎に言われるまま表紙を取りました。
すると両面が紫色になっています。
「全部紫色よ」
「よく見てみろよ」
私は紫色の本をよく見ました。
するとうっすらと何かが見えてきました。
「ヒーローがいるよ」
「そう。その絵は紫色の濃い薄いの違いで描いているんだ」
「すごい」
「反対の方は彼女がいるはず」
「本当?」
私は反対をよく見ると確かに彼女がいました。
あれ?
二人の絵には違和感があります。
そして私は二人の目線が真っ正面を向いていないことに気付きました。
「來兎。二人の目線が変な方を向いてない?」
「うん。それは二人が見つめ合ってるから」
「でも二人は表と裏にいるのよ? どうやって見つめるの?」
「その本の真ん中のページを開いて、開いたページを机に向けて置いてみてよ」
「うん」
私はだいたい真ん中のページを開き、開いたページを下に机に置きました。
紫色の二人は見つめ合っています。
彼女はヒーローを見上げながら見つめ、ヒーローは彼女を見下ろしながら見つめています。
これはまた涙が出そうです。
この絵を描いた方にまた拍手を送りたいです。
私は泣くのを我慢している為に何も言えませんでした。
「その絵を描いたのは本の作家の奥さんなんだよ」
「えっ」
「夫婦だからこそ描ける絵なんだと思う。長年一緒に生きてきた二人だからお互いの思いが言わなくても分かっているんだって思うんだ」
「それならこのヒーローと彼女は作家さんと奥さんみたいだね」
「どんな苦難も乗り越えてきた二人でしょう?」
「そうだと思うよ。今は奥さんが苦しい時だと思うけど」
いきなり來兎が悲しそうな声で言いました。
何で? と聞きたかったですがその答えは悲しいものだと思うと私は彼の言葉を聞きたくないと思ってしまいました。
「來兎」
「何?」
「奥さんが苦しいのは何で? って聞きたいけどその話を聞いたら私は泣いちゃうと思うの。だから電話で聞きたくないよ。直接、來兎に会って聞きたいの」
「そうだな。繭を一人で泣かすことはしないよ」
「分かったわ。それなら明日、來兎の家に行くよ」
「うん。何時でもいいからおいで」
「うん」
そして私は來兎との電話を切りました。
もう一度、紫色のヒーローと彼女を見ると二人は本当に幸せそうに笑って見つめ合っているように見えます。
この二人はハッピーエンドなのに、この作家さんと作画さんはハッピーエンドじゃないのかなぁ?
そう思いながら表紙をつけて本を机に置きました。
読んで頂きありがとうございます。
ヒーローのお話はどうでしたか?
心が温まるお話だと幸いです。




