王子様は妹から彼女を救います
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幼い頃とは違う來兎の手に私はドキドキしてまたお姫様になったようでした。
來兎が王子様なのだから自分をお姫様と勘違いしても仕方ないのです。
そう自分に言い聞かせていますが好きになってはダメなんだとも言い聞かせます。
今日は休日に來兎の部屋へ久し振りに遊びに行きます。
來兎がゲームを一緒にしてほしいって言っていたので仕方なく私は行くことにしました。
私はゲームが苦手です。
何故ならボタンの操作を覚えるのに一苦労だからです。
『ピンポーン』
來兎の家のインターホンを鳴らします。
すぐドアが開いて來兎にそっくりな女の子が出てきました。
彼女は中学生の來兎の妹の來花ちゃんです。
彼女とはちょっとだけ仲が良くありません。
「何であんたが来るの? 来なくていいから」
はい。
すみません。
嘘をつきました。
來花ちゃんとはちょっとどころじゃないですね。
とっても仲が悪いです。
私は仲良くしたいのですが來花ちゃんが仲良くしてくれません。
「來花。俺の繭をいじめるなよな」
ん?
俺の繭?
私の聞き間違いでしょうか?
私は耳がおかしくなったのでしょうか?
「ちょっと何してんの? はやく入りなさいよ」
「あっうん」
そして私は來兎の部屋へ行きました。
「はい、これは繭のだろう?」
「うん。ありがとう」
來兎が私に渡してくれた物は、私のお気に入りの猫のクッションです。
ふわふわ、もふもふしている猫ちゃんの形をしたクッションです。
柄はアメリカンショートヘアです。
可愛いです。
私は一時、顔をクッションに埋めて、もふもふを楽しんでいました。
満足したら顔をクッションから離します。
「落ち着いたか?」
來兎は私が顔を上げると言います。
ちゃんと待っていてくれるのが王子様ですね。
優しいです。
私、何かを忘れているような気がします。
もふもふしていて忘れていました。
そうです。
來兎は私を俺の繭って何故、言ったのかを聞かなければいけません。
「來兎に質問よ」
「何だよ。いきなり」
「俺の繭ってどういう意味なの?」
「ん? そのまんまの意味」
「私は來兎のモノになった覚えはないけど?」
「だって繭を助けるのは俺だろう? それなら俺の繭だ」
「何よその理由は。私は來兎のモノじゃないわよ」
「そうだな」
來兎は苦笑いをしました。
何で苦笑いをしたのでしょう?
私は変なことを言ったのでしょうか?
「さっ、ゲームをするか」
來兎の顔に苦笑いはなくなっていました。
いつものキレイに整った王子様の顔です。
気のせいだったのでしょうか?
それから私は來兎と一緒にゲームをしましたが難しいです。
來兎は簡単だと言っていますがボタンの位置を覚えられない私には、もう訳が分かりません。
ギブアップです。
お手上げです。
來兎の役には立てないみたいです。
「ごめんね來兎。役に立てなくて」
「いいんだよ。繭がやってくれただけでいいんだ」
そんな優しいことを言ってくれるのは王子様だけです。
やっぱり來兎は王子様です。
「ただ、やってもらうだけで経験値が貰えるからいいんだよ」
私の耳元で悪魔の囁きが聞こえました。
空耳なのでしょうか?
いいえ、違います。
來花ちゃんがいつの間にか部屋に入って来ており、私の耳元で囁いたのです。
何てヒドイ悪魔なのでしょうか?
彼女はいつからこんなになったのでしょうか?
昔は私の後をつけてきてとっても可愛かったのです。
昔の來花ちゃんの話をしましょう。
◇
來花ちゃんが小学生、私が中学生の頃です。
私は最近、毎日のように來兎の家に遊びに行きます。
それは可愛い來花ちゃんに会うためです。
來花ちゃんは王子様の妹だけあり、とても整った可愛い顔をしています。
來兎が王子様なら來花ちゃんはお姫様です。
二人が並んで歩くとまるで芸能人が歩いているかのように通行人は二人を見ます。
私は二人の邪魔にならないように気配を消して後ろを隠れるように歩きます。
するとそれに気付いて來花ちゃんが私の腕に腕を絡め甘えてきます。
可愛い來花ちゃんに私はメロメロです。
そんな可愛い來花ちゃんと毎日のように遊んでいた私でしたがテスト期間に入り次は來花ちゃんではなく來兎に会いに行くようになりました。
來兎は頭がいいので分からない所を教えてもらっていました。
そんな私達を見て來花ちゃんは私に嫉妬をしたのでしょう。
お兄ちゃんを取られたのがショックだったのでしょう。
それから私への態度がヒドイものになりました。
テスト期間が終わっても來花ちゃんの態度は変わりませんでした。
一度だけ來兎が來花ちゃんを怒ったことがあります。
「來花。いつまでも拗ねるなよな」
「拗ねてないもん」
「それなら繭に謝れよ。來花の態度は繭を傷つけていることが分からないのか?」
「來花だって傷ついてるもん」
「來花。繭は何もしてないだろう?」
「來花は何も悪くないもん」
來花ちゃんはそう言って自分の部屋へ戻りました。
その後、ちゃっかり來兎は助けた見返りは? って言ってニッコリ笑い私に來兎の宿題をやらせました。
分からないから來兎に聞きながらだったんですが。
◇◇
來花ちゃんの機嫌は來兎でも直せないのならもうダメですよね?
私が何か言っても意味はないですよね?
「來花。何で勝手に俺の部屋に入るんだよ」
「いいじゃん。お兄ちゃんが変なことをしないように見張ってるの」
「來花ちゃん。変なことって、來兎がすると思ってるの?」
「当たり前じゃん。お兄ちゃんは信用できないよ」
「來花。何処を見て俺がそんな奴だと思ってんだよ」
來兎が言った後に來花ちゃんは私を睨みます。
私?
私を見て來兎が何かすると思うってことなのでしょうか?
「來花。もしかしてお前は俺が繭に取られたからじゃなくて繭が俺に取られたから怒っているのか?」
來兎が言うと來花ちゃんは頷きました。
私が來兎に取られた?
さっきも言ったけど私は來兎のモノではないですよね?
「ねえ、來花ちゃん。あなたの部屋で話そうか?」
「うん」
そして私と來花ちゃんは來花ちゃんの部屋で二人、向き合って座り話をします。
「私は來兎のモノじゃないよ?」
「そうなの?」
「そうだよ。私は來兎の幼馴染みってだけだよ?」
「でもお兄ちゃんは繭ちゃんを独り占めするじゃない?」
「えっそうかな?」
「そうだよ。どんな相手も繭ちゃんに近づけないようにしてるの。繭ちゃんは私のなのに」
「來花ちゃん」
私は來花ちゃんを抱き締めていました。
可愛い。
妹にしたいくらいに可愛いのです。
しかし兄妹、揃って私の気持ちなんて関係なく自分のモノだと思う所はそっくりですね。
「ねえ、來花ちゃん。また私のお友達になってくれる?」
「うん。お友達だちじゃなくて妹になってあげる」
來花ちゃんは私に笑顔を見せてくれました。
可愛い笑顔の來花ちゃんは何処か來兎にも似ています。
來兎は今、何をしているのだろうか。
「繭ちゃん」
「ん? 何?」
「お兄ちゃんに似てるって思ったでしょう?」
「えっ、そっそんなこと思ってないわよ」
「繭ちゃんって嘘が下手なのよね。分かりやすいよ」
「そういえば來兎にも嘘が分かるって言われた事があるの。何処が分かりやすいの?」
「それはお兄ちゃんに聞いた方がいいと思うよ」
「來花ちゃんは教えてくれないの?」
「お兄ちゃんの方が繭ちゃんの事を知ってるからね」
「どういう意味なの?」
「ほらっ、お兄ちゃんが心配してるからお兄ちゃんの部屋に行きなよ」
來花ちゃんは私の背中を押して部屋から出そうとします。
「來花ちゃん。今度また遊ぼうね」
「うん」
そして私は來花ちゃんに押され來花ちゃんの部屋を出て來兎の部屋へ向かいます。
ノックをして部屋へ入ります。
「どうだった?」
來花ちゃんが言う通り來兎は心配した様子で私に聞きます。
それほど妹の事が心配だったのでしょう。
いいお兄ちゃんです。
「來花ちゃんは私が來兎とばかり仲良くしてたのが嫌だったみたいなの」
「それって兄妹で繭の取り合いをしていたってこと?」
「まぁ簡単に言えばそうね」
「繭は俺のだから」
「それは分かったから。いつもの言わないの?」
「繭から言うなんて珍しいじゃん」
「だって今日は本当に來兎に感謝してるからね」
「いつもは感謝してないのかよ?」
「いつも感謝してます」
「助けた見返りは?」
彼はニコッと笑って言いました。
「今日はとっても感謝してるからハグでもいいよ」
「それなら遠慮なく」
來兎は私を抱き締めました。
私をワレモノを扱うように優しく包んでくれました。
これを幸せと言うのなら私はこの幸せを手に入れる事はできないのでしょう。
私はお姫様じゃないですから。
彼がハグに満足するまで私は彼の後ろにある本棚に目を向けました。
彼の後ろにある本棚に気になる題名を見つけました。
それは私がこの前、読んだヒーローの本です。
しかし少し題名が違います。
私は気になり來兎から少し体を離して來兎を見上げます。
「ねえ、來兎」
「ん?」
來兎は私を見下ろし見つめます。
優しい眼差しに私は見惚れそうになるのを我慢して話を続けます。
「私、あなたの好きなヒーローの話を本で読んだの」
「何でヒーローになったかとか書いてる奴?」
「うん。でもこの部屋にあるのは私のとは違うよ?」
「そうだよ。あれは前の話のその後なんだ」
「その後?」
「前の話は彼がヒーローになってそして色んな人を助けて話は終わっただろう?」
「うん」
「次の話はヒーローが彼女を殺した相手が出てきて……」
「待って。ネタバレは禁止よ」
私は來兎の言葉を遮って言いました。
ネタバレは止めてほしいです。
そしてここで聞いたら泣いちゃうかもしれないので。
前作も泣いた私は必ず泣く部分はあると分かっています。
「本を貸そうか?」
「うん」
彼は私に本を貸してくれました。
家に帰って見ようと決めて私は本を抱き締めました。
どうかヒーローが幸せになりますようにと願いながらです。
結果はもう書かれているのですが願いたくなるほど私はヒーローを好きになっていたのです。
読んで頂きありがとうございます。
次のお話なんですがほとんどがヒーローと彼女のお話です。
感動できるお話なので読んで頂けたら幸いです。
繭と來兎も少しは出ますよ。