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王子様は先輩から彼女を救います

 彼は昔から王子様でした。

 私達が幼い頃、私が男の子にいじめられていると助けてくれました。

 そしてニコッと笑って言います。


「助けた見返りは?」


 そんな言葉をキレイに整った可愛い顔で言ったのです。

 幼い彼は本当に可愛い顔だったので私はその言葉にショックを受けたのを覚えています。


 しかし、幼い子供がこんな言葉を言うのでしょうか?

 この言葉はその当時、流行っていたヒーローのセリフだったんです。

 彼はヒーローになりきって言ったのでしょうが私の心には響かず、ただ嫌な思い出になりました。

 私がそのヒーローのことが嫌いなこともショックを受ける原因の一つです。

 彼はヒーローになりきっていたので良い思い出だと思っていると私は思います。

 だって彼は今でも言うのです。


「助けた見返りは?」


 私はまさに今、言われました。

 何があったのかお話をしましょう。



 現在、私は高校生になって一ヶ月ほど経っています。

 まだ高校生活にドキドキ、ワクワク感を抱いている頃です。

 友達と仲良くスイーツの話や芸能人の話、恋の話で盛り上がり相手を知ろうとする頃です。

 私もそんな女の子達と話をしていました。


 その時、私は女の先輩に呼び出されました。

 知らない先輩です。

 先輩に逆らうことはできず、ただ先輩の後をついていきます。

 そして先輩は学習室へと入りました。

 私も入ります。


 するとそこには二人、女の先輩がいました。

 合計、三人です。

 私は何故、先輩達に呼び出されたのでしょうか?


「あなた、王子様と一緒に学校に来るのは止めてもらえる?」


 一人の先輩の一言で私は全てを理解しました。

 先輩達は幼馴染みの王子様が好きなのです。

 王子様が好きなのは分かりますよ。

 でも私にそんなことを言って何か利益があるのでしょうか?

 私をいじめようとしている先輩達を王子様は好きになるでしょうか?


「何してんの?」


 いつものようにやってきました。

 王子様。

 白馬に乗ってきた訳じゃありませんよ。

 王子様はダルそうに両手をズボンのポケットに入れ、学習室のドアに背を預け立っています。


 眉間には皺が見えますね。

 王子様は只今、超絶に機嫌が悪いです。

 しかし王子様の顔は眉間に皺があっても気にならないほど美しく整っています。


「あの、王子様はどうしてここへ?」


 一人の先輩が王子様に恐る恐る聞いています。


「こいつの匂いがしたから来たんだ」

「えっ」


 先輩達は全員が驚いています。

 だって王子様が匂いフェチなんですって言ってるようなものですよね?

 匂いで誰だか分かるなんて匂いの違いが分かる人じゃないと無理ですよね?


 私が少しだけ焦がしたホットケーキも王子様はキッチンに入ってきてすぐに気付いたんです。

 ほんの少し、黒くなっただけで、甘いホットケーキの匂いが充満していたのに分かったんです。

 王子様から匂いフェチなんて聞いたことはありませんが私の中では王子様の匂いフェチは確定しています。


(まゆ)。こっちに来いよ」


 あっ、私の名前を言っていませんでしたね。

 私は(まゆ)と申します。

 特技と趣味が無しの自慢することさえ何も持ち合わせていない顔も中身も普通の女の子です。


 そして私を呼び捨てで繭と呼ぶ王子様。

 彼の名前は來兎(らいと)です。

 私も呼び捨てで呼びます。

 來兎の説明は誰もが口を揃えていいます。

 王子様と。


 王子様とはイケメンで何をするのも格好良く見える人。

 そして優しくて笑顔が素敵で女の子をお姫様扱いしてくれる人だと私は思っています。


「今回は大丈夫よ」

「何、言ってんだよ。お前は俺と来るんだ」

「だって折角、高校生活は楽しく過ごそうって思っていたのにここで來兎に助けてもらったら私のハッピーライフは来ないのよ」

「繭には無理だって。諦めろ」

「嫌よ」


 そんな私達の会話を聞いていた先輩達はもう、いいわよって言って学習室を出ていきました。

 これってもしかして來兎に助けてもらった感じになっちゃうよね?

 私は恐る恐る來兎の顔を見ます。

 來兎は満足そうな顔をしています。


「助けた見返りは?」


 言われました。

 恐怖の言葉です。

 來兎はニコッと笑って言います。

 他の女の子が見たらそれは格好良く見えるでしょう。


 しかし私は幼い頃の記憶がフラッシュバックします。

 嫌な記憶と今の來兎が重なります。

 だから私は來兎が嫌いなのです。


「今日は何?」


 私は当然のように來兎に聞きます。

 來兎は当然のように私に見返りを求めます。

 今までの見返りを教えましょう。


 來兎の好きなパンを買わされたり、來兎の好きなジュースを買わされたり、來兎の宿題をやらされたり、來兎の肩を揉んだり、來兎の日直の仕事を代わりにさせられたり、これはもう私はパシリです。


 一番イラッとしたのは來兎がコンビニで十円が足りないから私に今度助けるからその見返りの分で十円頂戴って手を出してきたのにはこれって嫌がらせなの? なんて思うくらいでした。


「俺達って高校生になったんだから、見返りを一つ上にランク上げをさせてもらうよ」


 ランクって何?

 見返りにランクがあるの?

 もしかして現金が発生しちゃう?

 そんなお金は出さないんだからね。


「ランクがあったのも知らないけど、勝手にランクを上げるのは止めてもらえる?」

「だって繭が俺の見返りに慣れてしまって面白くないからね」

「面白がってたの?」

「当然じゃん。繭、可愛いし」

「なっ何、言ってんのよ」


 來兎はケラケラ笑っています。

 私をバカにしています。

 それならランクが上がった見返りも態度を変えないんだからね。

 そして飽きてもらえれば私のハッピーライフが始まるのです。


「それじゃあ高校での最初の見返りは俺の頭を撫でて」

「えっ」


 さっき決めた態度を変えないのは無理です。

 頭を撫でるって何?

 頭の撫で方は分かります。

 何で私にそんなことをさせるのでしょう?


「早くしてくれる?」

「分かったよ」


 私は訳も分からず來兎の頭に手をやりますが背が高いので私は背伸びをしてやっと頭に手が乗りました。

 そして私は優しく撫でます。

 すると來兎は嬉しそうに笑っています。


 そこで昔の來兎を思い出しました。

 來兎の幼い頃の笑った可愛い顔はまるで天使でした。

 その天使が今、私の目の前にいるのです。

 私の短い腕は來兎の顔と私の顔が近づかなければ頭には届かないのです。


 來兎のこの顔は萌えです。

 ずっとこの顔だったら私も來兎を王子様と認めましょう。

 しかし來兎はいつから私の中で王子様ではなくなったのでしょう?

 來兎が変わったのは見返りを求め出してからかもしれません。

 あのヒーローのせいなのです。


 來兎は満足すると逆に私の頭を撫でて、ありがとうと笑って言い自分の教室へと戻って行きました。

 何故か來兎がいつもと違って見えました。

 なんだろう?


◇◇


「ねぇ見てよ。懐かしいよね?」

「俺、このヒーロー好きだったんだよ」


 私が学校から家へ帰る途中に本屋さんの前でカップルが懐かしい本を見つけたのか仲良く一冊の本を手に取って見ています。


「あのセリフってなんだっけ?」

「俺、覚えてるよ。助けた見返りは?」

「そうそう。それよ。私はその言葉はあんまり好きじゃなかったの」

「どうして?」

「だってなんか怖い言い方でしょう?」

「それは君がこのセリフの真実を知らないからだよ」

「真実?」

「そう」

「真実って何?」

「それはここでは言えないよ。ネタバレになるからね」

「それなら帰って教えてよ」

「いいよ。君は絶対にヒーローを好きになるよ」

「楽しみ。早く行こう」

「そうだね」


 そしてカップルは本屋から離れていきました。

 気になります。

 ヒーローのセリフの真実とは何なのでしょう?

 私は本屋に置いてあるその本を手に取ってそしてレジへと行きました。


 本当は中をこそっと見ようと思ったのですが、綺麗に包装しており中は全く見えませんでした。

 家に帰ってすぐに本を読みます。

 一番最初にその真実は書いてありました。


◇◇◇


 これはヒーローがヒーローになる前の話。


「キャッ」


 女の子が何かに足をとられたのか転びそうになります。

 その女の子の隣にいる男の子が支えます。


「大丈夫?」

「大丈夫だよ。ありがとう。はい、これ」


 女の子はそう言って紫色でキレイな一輪の花を男の子に渡します。


「またくれるの?」

「うん。だってまた助けてもらったんだもん」

「僕は君に何かをもらう為に助けてる訳じゃないよ?」

「分かってるよ。でも私はあなたにありがとうをいっぱい伝えたいから」


 女の子は男の子に笑いかけて言いました。

 そんな二人は少し大きくなりました。

 それでも彼女はまだ彼の隣で転びそうになります。


「キャッ」


 彼は幼い時とは違う大きな腕で彼女を支えます。


「ありがとう。はい、これ」


 彼女はいつものように紫色で綺麗な一輪の花を彼に渡します。


「そんなのはもういらないから。そんなもので喜ぶ歳じゃないよ」


 彼は彼女の差し出した花を受け取りませんでした。

 彼女が悲しそうな顔をしているのも彼は知っています。

 しかし思春期の彼には恥ずかしくて正直にはなれなかったのです。


 そんなある日、彼は彼女と待ち合わせをしていたのに彼女はいつまで経っても来ません。

 彼は彼女が心配になり家へと向かいます。

 すると彼女の家が燃えていたのです。


 彼は急いで彼女が中にいるのか確認をします。

 いつも履いている彼女の靴は玄関にありました。

 彼女は確かに中にいる。

 彼は家の中に入ります。


 彼女の部屋へ入ると彼女が花を持って倒れていました。

 彼は彼女を抱きかかえます。


「おいっ大丈夫か?」

「来てくれたの?」


 彼女はうっすらと目を開けて苦しそうに言いました。


「話さなくていいから」

「これ」


 彼女はそう言って彼に花を渡してきました。

 彼はその花をしっかり受け取ります。

 彼女はありがとうと口を動かして力なく腕は床へ落ちました。


 体の力が失くなった彼女をギュッと抱き締め部屋の真ん中で、彼は迫ってくる炎から逃げようとはせず、ただ彼女の部屋から離れようとはしませんでした。


 だって彼女の部屋には、プランターにたくさんの青い花が咲いていたから。

 彼女の大事な花を置いて離れることは、彼の選択肢にはありません。

 彼女を失った彼は自分の命よりも、彼女の大事な花と彼女と一緒にいたかったからです。


 それから彼が目を覚ますと彼はベッドの上でした。


「起きたかな?」


 彼に声をかけたのはこの先、色々と力になってくれる先生でした。


「彼女は?」

「彼女は残念だが亡くなったよ」

「そんな」

「しかし君は彼女に助けられたんだよ」

「彼女が助ける?」

「君がいつも貰っていた花は不思議な力を持つ花でな、それを持っていると不思議なことが起こると言われておる」

「不思議?」

「君は本当だったら死んでいたんだが彼女がくれた紫色の花が君に力を与えたんだ」

「力?」

「鏡を見てごらん」


 近くにある鏡の前に彼は立って驚いていました。

 何故なら彼の瞳や髪の毛は紫色になっていたからです。


「これは?」

「君は紫色の花のお陰で力を得たんだ。君はこれからヒーローと呼ばれるだろう」

「俺がヒーロー?」

「彼女はこの紫色の花を狙っている魔物に殺されたんだ」

「そいつは何処に?」

「分からないが君がヒーローになれば必ず現れるはず」

「分かった。俺はヒーローになるよ」


 そしてヒーローは彼女の為に人を助ける。

 助けた人が彼女のように花をくれるように、助けた相手に彼女の面影を重ねて言うのです。


『助けた見返りは?』


◇◇◇◇


 知らなかったです。

 こんな話だったなんて。

 愛する人の為に戦うヒーロー。

 本当のヒーローです。


 私は泣いていました。

 この話を多分、來兎は知っているのでしょう。

 この話を知った私は來兎に対していつもと違う感情が生まれました。


 それは淡く儚く。

 それでいて力強く燃える炎のように。

 私の心に灯りました。

 それをもっと簡単に言えば恋と言うのでしょう。


 私は王子様に恋をしてしまったのです。

 お姫様の要素なんて一つもない私には王子様を好きになってはいけないのです。

 好きになって気付きました。

 好きになってはいけない人を好きになってしまったと。

読んで頂きありがとうございます。

ドキドキワクワクして頂けたら幸いです。

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