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作者: ぜん

厳しい現実に苦しむ毎日を送る貧乏人。

しかし、物事というのは見方、考え方によっては大きく変わるものである。

新しい一日が始まりました。

どこから新しいのかということは、僕にもわかりません。

時刻的には午前零時、まだこれから化物たちの活動が活発になり始めるよりも前の時間帯ですが、

どうやらそのことを指しているようではないようです。

太陽が隣の家の屋根から昇り、ちょうど僕の寝ている部屋に希望のような一筋の光をもたらす。

それが新しい一日の始まりではないでしょうか。

少なくとも僕はそう信じます。

なぜなら、新しい一日と名付けたのは僕なのですから。決定権は僕にあると言っていいでしょう。

ところで、僕は毎朝、起きるたびに死んでしまったのかと思います。

太陽の温かさと強い光が、僕に幸せという幻想を運んでくるからです。

太陽には感謝します。

僕は貧乏な暮らしをしています。きっと僕の容姿を見れば、言わずとも理解できると思います。

先ほど、格好をつけて僕の寝ている部屋、などと言ってしまいましたが、

一つしか部屋のない家に住んでいるのですから、僕の寝ている部屋とは僕の家のことです。

それが僕の唯一の財産なのです。

毎朝、太陽が僕を起こします。

きっと太陽は、時計よりも正確な目覚まし時計であるに違いないのです。

だから毎朝、目を覚まして、最初に太陽に感謝します。

「ありがとう」と、言葉に出して。

なにせほかに言葉を発するべき対象など僕の周りにはいませんから。


疲れて帰るのが当たり前の生活です。

それも天国からの光など全く見えない、闇の時間帯に帰ります。

疲れて帰ることが一つの義務のように感じられるほど、疲れないで帰るということはありません。

時々、僕は家の場所を忘れてしまいます。

化物たちに一時的に隠されてしまっているのでしょうか。

だとしたら納得がいきます。

もう何度も帰っている家の場所を忘れてしまうなんて、おかしいじゃありませんか。

ちょうど昨日も、家に疲れて帰ってきました。

危うく家の場所を忘れるところでした。

そして今日も、ちょうど疲れて帰ることになるでしょう。

それでは、明日もちょうど疲れて帰ってくるでしょう。

だとすると、明後日もちょうど疲れて帰るはずです。

あぁ、ついに先まで見えてしまった。

大量生産のために何度もベルトコンベアに向かって商品を載せ続ける、機械を思い出します。

否、実際にこの目で見たことはありませんが、どう働くかという基礎知識ぐらいはあります。

ちょうど僕の毎日はそれに似ています。

新商品でも開発されない限り、僕は同じ毎日を送ることになってしまうのです。

なんと新鮮味のないことでしょう。

きっとこの工場から排出される煙とやらは、人の心を憂えむような色に違いありません。

商品を作り出す過程で僕が何回とため息をついていることやら。

それほど疲れるのが当たり前の生活なのです。

はぁ、新商品の開発、そんな機会があるのなら、是非投資してみたいものです。


そんなことを考えていると、一つ考えが思い浮かびました。

僕が新商品を作ればいいのです。

工場長がいるなら姿を見せてください。

僕は貧乏ながら、裕福な考えが思い浮かびましたよ、と。

勿論、僕には言葉を発して意思疎通を図るべき相手など周囲にはいないため、

心の中で工場長とのやり取りを楽しんでみたまでです。

さて、新商品、といっても、僕にはこの部屋と僕とペンと永遠に続くカレンダーしかありません。

それに残念なことに、カレンダーは何重にも重なっていますが、すべてが同じ月なのです。

何度めくっても同じ月が現れるだけです。

めくる意味もないとだいぶ前に気づいてからは、カレンダーをめくることはなくなっていました。

しかし、工場長に対して今すぐにでも新商品について伝えたい僕は、興奮していました。

すぐさま駆け寄って、試しにカレンダーをめくってみました。

工場も工場長も、それから商品というのも単なる僕の想像に過ぎないのですが、

人は興奮すると虚実の分別がつかなくなるものです。

脳みそが回転して勝手に新商品を作り出しても、僕のめくったカレンダーに変化はありませんでした。

残念で、それもかなり落ち込んで、その場に座りました。

あぁ、せっかくいいことを思いついたのに、また疲れて帰る毎日を送るのか、と。


気づけば外も、僕の気持ちに沿ってくれていたみたいで、闇しかありませんでした。

数時間、いや、もっと長い間、肩を落としていたと思います。太陽が再び昇るまでは。

太陽がいつものように、隣の家の屋根から顔を出します。これは普通のことです。

つまりまた一つ、商品がベルトコンベアに載せられた、ということです。

それが意味するのは、僕は今日の夜、疲れて帰ってくるということです。

これが普通です。僕の変わることのない毎日なのです。


ふと床に転がっていたペンを見つけたので、別に夢を見ようとしているわけではありませんが、

めくって新しくなった、壁にかかっているカレンダーの一日の枠内に、新しい一日、

と書き込んでみました。

別に僕がしたことはそれだけであって、何の面白みもないでしょう。

貧乏人というのは、せいぜいそんなものです。

僕は疲れてしまったので、そのまま寝ました。


ついに僕も天国へやってきたようです。


いや、この光景には見覚えがあります。自分の部屋でした。

また間違えてしまいました。

こんなに毎朝起きるという行為を繰り返しているのに、同じ間違いを繰り返すなんて、

自分がまるでそれを望んでいるようにも思われて仕方ありません。

手元にはペンが握られています。

そして、足元には破られたカレンダーがひと月分、落ちています。

どうやらずいぶん長い間寝てしまったようです。

そして外に出ることを、一日忘れてしまったようです。

しかし何でしょう。妙に胸が軽いのです。

今まで味わったことのない、浮遊しているような気分です。

ついつい、太陽が見える窓に向かって、「おはよう」と、

いつもとは違う挨拶までしていまいました。

何かが違います。いつものようではありません。

じっとしていたくない気分です。ジャンプしてみました。

声を出してみました。

自然と外に出たい気分になりました。

外に出ようとしたとき、ふと壁にかかっているカレンダーに目がいきました。

あぁ、そういうことか。


新しい一日が始まりました。



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