世界の母ー04
「ふひひ、そこでリングだよぉ……っ」
エリはようやくのぼせて来た頭がすっきりしたのか、立ち上がってリングをはめ込み、氷結のアイコンをかざした。
〈Progressive・ON〉
「ふひぃっ、変身――ッ」
氷結のアイコンを上方へ放り投げると同時に右足を軸に一回転すると、その間にアイコンは形を変え、小さい球体五つへと変形し、それがエリの周りを囲むように浮いた。
〈Progressive Gun Magically.〉
「ふひ、この状態だと、MP消費を可能な限り抑えてくれるんだぁ……っ!」
「実際瘴気の谷にいるモンスターは比較的デバフが聞きにくいんすが、リング使用してデバフ魔法ガン乗せしまくれば何とかって感じっすわぁ」
「ふひ、まぁマジックウェポンとスティックの場合、リングの作用がどんな風になるか私は知らないけどさァ……ミサトさんはスティックなんでしょ?」
頷き、かつて一緒に戦ったミサトさんが変身したプログレッシブ・フリーズを思い出す。
彼女の場合は武器をミュージアムで入手できる一番いいスティックにしているだろうが、あの無数のプレートを展開し、防御と攻撃、そしてバフデバフの両方を同時使役出来る彼女の動きから推察するに、エリのマジックウェポンと同様にMP消費を可能な限り抑えているという可能性がある。
「ちなみにリング取得イベでリングは使用したんすわぁ?」
「使用したけど、技術のアイコンを使ったプログレッシブ・テクニックにしてたからな。MP消費はともかく、戦い方は基本動きを機敏にさせるものだったしな」
となると、カーラさんは氷結のアイコンを入手した方がいいかもしれない。
で、オレは――
「ツクモ、エリ、今まででアイコンはどんなのが手に入った?」
「言うてそこまで大したものは手に入ってないっすわぁ。ただリッカ氏も氷結のアイコンが欲しいなら、自分があまり使わないので貸しますわぁ」
「サンキュ」
フレンド機能を利用したアイテムの受け渡しを済ませ、氷結のアイコンを譲り受ける。貸してくれてるだけなので、無くしたりするのを避けた方が良いだろうが。
「そういえば……リングって物理攻撃ばっかりだけど、魔法攻撃も出来るのかな?」
「灼熱のアイコンで攻撃する時、あれ魔法攻撃じゃないんすわぁ?」
「多分別枠魔法攻撃として少しは通ってる可能性はあるけど、基本物理だろうな」
それに、物理攻撃メインとなるソードやツインソード等が魔法攻撃できないのに、リングは物理も魔法もイケるってのは何だかズルい気もするが、しかしリングだけ利用の場合は殴る蹴るの形式しかないんだし、もう少し何かあっても良い気がする。
「やっぱリングが欲しい所にはなるけど、今は探してる時間がない」
「すぐ戻るんすわぁ?」
「いや、そうしたいのは山々だけど、今日は一旦この宿屋に泊まって明日出発。明日になればアルゴーラにマリアと先輩も戻ってくるだろうし、先輩に届く範囲でバフかけて貰うよ」
正直リリナ先輩の歌姫ジョブから放たれるバフはかなり尋常じゃない効果量を発揮するしな。
「でもそれってクエスト参加してるって事にならないっすわぁ?」
「……メイド、メイドー!?」
『なりますよ……それ目的で歌ってバフが掛かったら勿論なりまーす……』
「ちょっと待ってそれ結構詰んでってもういない!?」
完全に誤算だった。先輩がクエストに参加しなくてもバフさえかけてくれればそれでいいと思ってたのに!
「ば、バフ無いと、ヤバい感じ? ふひ」
「ヤバいかも。デバフだけだと削り切れずにこっちが押し負ける……かも」
いや、勿論イケる可能性も十分にある。カーラさんがリングを取得したし、前回よりは状況が改善されているのだ。ならば勝機自体はあるけれど、少なくとも五分五分、と言った所か。
「ちなみにエリ、お前装備屋も買い占めてたよな?」
「ふひひ、うん。だから――リッカ君の防具やカーラさん用の装備も、ホレこの通り!」
アイテムポーチ内にある装備品一覧を出したエリに、オレ達三人が思わずオオッと声をあげた。
「スゲェ……いや正直舐めてたけど、こう言う行動力はホントに見習うべきだな」
何せ装備品一覧は既にパンパンとなっていて、これ以上入りきらない程に埋まっている。
「アルゴーラに貸倉庫があって、そこに行けばもうちょっと種類あるけど、品としてはこの中にある物の方がいいかなぁ……ふひひ、お姉さん、リッカ君とカーラさんに貢いじゃうよぉ……っ」
「こう言う貢ぎ物はあまり受け取らない主義だけど、今回ばかりはありがたく使わせて貰わないとな」
「デスネ! じゃあ――」
カーラさんは、現在装備しているスティック【フリックアウト】から、エリの持っていた【ブレイトン・フリッカー】へと変更する。
使用できる魔法の種類が増え、今のバリアマウントやアイスレイジ、雷電に加えて【暗闇】と【熱線】、【轟雷】、【鼓舞】を使用できるようになる他、アイコン装備可能数が現在の一から二に増えるので、戦術の幅が広がる点が強みだろう。




