世界の母ー02
「でも、ご飯は母さんが用意してくれてるし、そういう経理は結局、父さんの用意した経理部がやる事になってるし……オレがやってることは、ただゲームをしてるだけ」
「じゃーシャチョーのオトーサンは、ナンでもヒトリでやっちゃいマスか? リッカのママさんは、ジブンでおカネをカセいでマスか?」
首を振る。
親父はIT企業の社長をしているし、勿論本人にもスキルはあるだろうけれど、今はあくまで経営しか行っていない。
もし一斉に部下が退職でもすれば、事業は畳まなければならないだろう。
母さんも、昔がどうだったかはわからないけれど、専業主婦で稼ぐ手段はほとんどない筈だ。
親父やオレの収入があって、初めて家族に与える食事の材料を買う事が出来る。
「リッカのゆーオトナは、うん、タダしーです。ジブンのコトをジブンでやる、ナニかあってもセキニンをジブンでセオえるヒト、それがオトナなのかもシレませんネ」
デモネ、カーラさんの言葉はこう続いた。
「ニンゲンはミーンナ、ヒトリじゃイキていけナイのデス。だから、オクさんがリョーリをツクってダンナさんがハタらいて、コドモはベンキョーしてワラって……そーしてヒトリヒトリ、ジブンがデキるコトを、シーッカリやるノがダイジなのデス。
ワタシは――オトナってゆーのハ『ダレかにエガオをトドけるコトがデキるヒト』のコトだとオモいマス。
おシゴトをしてダレかのエガオにツナげたり、コドモをゲンキにソダてたり、リョーリをツクってダレかにタベてモラったり、そんなフーにミンナがシャカイでイキていくコトで、オトナはセカイをツクるんです」
だからリッカもリッパなオトナですよ。
彼女の言葉が、オレの胸にスッと落ちてくる。
年齢じゃない。心の強さだったりじゃない。出来る事の大きさじゃない。
大人は誰もが働く人じゃなくて、時にはニートだったり社会に貢献しない人は大勢いる。
けれど、そういう人たちも、自分に出来る事を一つ一つこなしていって、それが回りまわって誰かの幸せに繋がるのだという。
勿論、カーラさんの考えが必ずしも正しい訳じゃないし、大人っていう言葉の意味なんかは、それこそ辞書を引いて出てきた言葉の額縁通りに受け取る人もいれば、彼女の様に自分なりの意味を持っている人もいる。
――それでも、オレはカーラさんの言う大人になりたいと思った。
年齢がどうだとか、自分と他人の違いとか、そういうのはどうでもよくて、ただ自分に出来る事をしっかりとこなす、そんな大人になりたい。
十三歳のオレは、その時確かにそう思ったのだろう。
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前回のあらすじ。
カーラさんがエリに告白して婚約をお願いした。
……すみません、真面目にやります。
ズシンと、その巨体を倒れさせた岩石獣【ガルトルス】は最後に爆発四散して鍾乳洞内に爆風をまき散らしていき、オレとカーラさんはホッと息を付きながら、リングを外した。
「コレで、リングゲット、ですね!」
「意外とカーラさん一人でも何とかなりましたね」
「ワタシだって、ずぅーっとおミセだけケーエーしてたワケじゃナイんデスからね?」
今、リング取得イベントを攻略したオレとカーラさんだが、オレも一応変身して臨戦態勢は整えていた物の、戦闘はカーラさん一人で事を済ませた。
ガルトルスとの戦闘は、以前四体のレイドボスが同時出現した時にマリアがやっている所を見ていたが、基本コイツは防御力が高い上、自身に纏う岩石を飛ばしてくる傾向があるから物理攻撃を得意とする面々では苦戦するのだが、その辺はスティックとマジックウェポンの場合がやりやすいようだった。
「それより、ハヤくバスラノーソンにイッちゃいましょー! ハヤくエリとケッコンしなきゃデスねっ」
「エリとカーラさんが婚姻かぁ……オレが提案しときつつ何ですけど、スッゲー引き留めたくなる組み合わせなの何でだろ……」
いや、ほぼニート状態な上ホスト通いのエリと母性の塊であるカーラさんの組み合わせだと、なんか嫁の稼ぎをキャバクラで散在するダメ夫みたいな組み合わせに見えるからとは分かっているのだが、エリもああ見えて普通にやるべきことはやる女だと自分を言い聞かせる。
「それで、エリに連絡してから返信は無いんですか?」
「そーナンですヨォ。なーんかおフロハイッてたみたいで、ケッコンしてくださいってオネガイしたらそのままツーワがキレちゃいました」
「このクソ忙しい時に何してんだアイツは……」
バスラ農村へと向かうと、そこにはリリナ先輩の描かれた看板があって【璃々那アラタ発祥の地!!】とメッチャ宣伝しているし、以前来た時よりも若い人が多くて、先輩の宣伝効果スゲェなと分かる。でも先輩が発祥したのはこの地じゃない。