カーラ・シモネット-07
『いいか律、スポーツというのは金がかかるものだ。もしスポーツをやるのならば、金を回収できるプロになれる素質がある者だけがやるべきだ。
水泳の世界は、小さな頃からいっぱい練習して、年上の人達よりも早い子供たちが真剣に打ち込んで、ようやく世界レベルで活躍できる選手になれるんだ。お前がそうなれるのか?
父さんは確かに社長で金もある。けれど、無駄に金を浪費する事は何よりも苦痛で仕方がない』
そう言われてオレが水泳部を辞めた翌日から、母さんは親父と距離を置くようになった。
元々親父と母さんは、あまり仲睦まじい関係と言うわけではなかったが、それでも最低限夫婦としての距離を保っていたように思う。
そのせいか――オレは、自分自身でやりたい事を言えなくなった。
親父も母さんも、オレと言う存在が我儘を言ったせいで仲を違えたんだと、子供のクセに小難しい事を考えて、勝手に自分の心に蓋をした。
ゲームだって、結局母さんが買ってきてくれた物をプレイして、母さんが褒めてくれた事が嬉しかったから、母さんにもっと褒めて貰いたかったから続けていただけだ。
正直今でも、ゲーム自体が好きだったのかと目を見て聞かれたら――好きだと答える事が出来るか、分からない。
「ジブンのコトも、ジブンのコトバも、リッカにとってはナンデモナイよーなコトも、ホカのダレかにとってはイミも、カチもあるタイセツなコトなんです。
リッカはもっと、ジブンにジシンをモッてクダさい」
「自信を持つ……か」
そういえば、オレに確たる自信がある事って何だろう。
それは、多分ゲームの実力。
最強になったと、最強になって母さんに喜んで欲しいと、そう思って、願って手に入れた強さには自信がある。
でも、それ以外にオレは何を持っているのか、分からなかった。
けれど――本当の親と同じように、オレの事を想って、オレの事を大切に思ってくれるカーラさんの言葉なら、オレは受け止める事が出来るかもしれない。
「うん、頑張ってみる。オレはオレ自身を、もう少し評価してみる」
「ハイ、それでコソ、テンサイゲーマー・リッカですよ?」
少し喋りすぎた。いつの間にか今回の任務クエスト発生場所となる森林地帯の近くまで来ていて、首を傾げた。
「……アレ? カーラさん、ここまでミライガ見ました?」
「ミテないですネー。またレイドボスでしょーか?」
「そんなポンポン出ても困るんですけどね。じゃあ森林入りましょうか」
草むらから森林地帯へ入り込んで、警戒しながら歩き出す。
と、そんな時――ゴゴゴゴゴと地面が揺れる様な感覚に襲われ、バランスを崩して倒れそうになるカーラさんの手を取り、支える。
「なんだ?」
「ジシン、ですか?」
「かなりデカ」
言葉の途中で。
地面が急に隆起し、土砂の雨が森林一体を包んだ。
突然の事に反応できなかったオレだったが、カーラさんは急遽スティックを振ってメニュー画面を出し、バリアマウントを展開してくれたおかげで、頭上に降り注ぐ土砂を回避する事が出来た。
だが、このままでは生き埋めになってしまう。
〈Progressive・ON〉
「変身っ」
急いで駿足のアイコンを取り出し、プログレッシブ・スピードへと変身したオレは、カーラさんの体を抱きよせ、そのまま超スピードで森林を飛び出し、土砂の範囲から逃げ出す事に成功。
そして、何があったか把握する為、土砂の降る空を、見上げた。
「……ゴ○ラ?」
「Oh……」
それは、確かにミライガだったけれど、大きさが明らかに異なる。
通常のミライガは、両足で立って威嚇状態となっても二メートルあるかどうかという小型肉食モンスターだが、それは違う。
目算だが、おおよそ八十メートルほどの全長で、足は明らかに肥大し、何時もの嘶きは怪獣映画における咆哮にしか聞こえない。
『よよよ……世界の終わりですぅ……っ』
何時の間にかオレ達の近くでわざとらしく泣くメイドが一人。彼女に視線をやる事無く、立ち上がりながらキョロキョロと周りを見渡し、時々ギャースと絶叫するミライガを観察しつつ、問う。
『何なんだアレ!?』
『お遊びクエストですけど、エンドコンテンツの一つです……』
『何でエンドコンテンツの一つをまだ誰も全部の街村に行けてない状況でプレイできるんだよ!?』
『この任務クエストの発生条件が総資産が一億マネー超えて無いと現れないからですよ! まさかこんな早く総資産一億超えると誰が考えるんです!?』
『ゴメンそれはエンドコンテンツだわ!』
ていうかカーラさん総資産一億マネーも行ってるの!?
『それよりアレ早く何とかしないと困る事になりますよ!?』
『どうなるってんだよ!?』
『このままだとアルゴーラに進行して、数週間はアルゴーラの都市機能が壊滅します!』
『それはマジで困る!』