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カーラ・シモネット-01

 私は、カーラ・シモネット。


本職は調理師でしたが、働いていたレストランが潰れてしまい、働き口を探している間、ちょっとした趣味の範疇で出来る事を探してインターネットで情報収集をしていると、動画配信サイトでの料理動画を公開するという事を思いつきました。


一応収益システムもあるという事でしたが、まぁお小遣い程度のお金が頂ければそれでいいだろうと、動画を作り始めました。


コンセプトはどうしましょう、と考えていた時、投稿されている動画は料理における時間短縮や簡単に作れるもの、という動画が多かったので、ならば私は「材料は一般的に出回っている、しかし美味しく手の込んだ愛情料理」をコンセプトにして、世界中の人々が笑顔になれる動画にしようと決めました。


その結果と言っていいのか、イタリア国内で動画は広まり、自動翻訳の機能があったからか、イタリアだけでなく世界各国の視聴者さん達からコメントを頂いて、それが大変嬉しかった事は、今でも思い出す事が出来ます。


特に一番コメントが多かった、アメリカ・中国・日本の方々へ直接お礼が言いたくて、私は元々勉強していたそれらの言葉を本格的に学び、学習した言葉を実践したくて、イタリア語版だけでなく英語版・中国語版・日本語版の動画も配信するようになると、更に見てくれる人が多くなりました。


その内、日本のファンから『世界の母』と言って貰えて――それが、胸を掴んで離さない程、強い衝撃となったのです。



「ワタシは、ミンナのハハデースッ!」



 日本語が拙い事など、知っています。それでも、そんな私の言葉を、皆聞いて、皆が楽しんで、私の料理を美味しそうと言ってくれる。それが、とっても嬉しかった。


 

ある日、私は料理のレパートリーに困り、動画内でアンケートを募りました。どの様な料理が食べたいか、母に作って欲しい料理はないか、皆さんは、どんな愛情に飢えているのか。


すると、多くコメントを頂いた中で、目を引く内容が。



『ゲームをしながら食べられる美味しい料理を教えてください』



 思わず、首を傾げてしまいました。


ゲームは子供の頃からほとんど触れた事が無かったので、私はそのまま配信されているゲーム実況動画というモノを見てみました。


今のゲームは凄いんだな、とその時に感じてしまいます。だって私の知るゲームって、それこそ上下ジャンプして敵を踏む奴しか知りませんでしたから。


だから興味が湧いて、私は思わず適当に購入したゲームのプレイ動画を配信してみました。


 料理に直接関係ない動画に視聴者さんは驚いていましたが、けれど思ったより人気があって、私はつい調子に乗って、そのままゲームの大会とかにも顔を出すようになっちゃいました。



でもそれは――何だか、違う様な気がするのです。



 当時中学生だったリッカと、とあるゲーム大会で一緒になった時、私は彼に相談しました。



「ンー、ワタシ、このままゲーマーツヅけて、イーんでしょーか?」


「え。フレデリックさん、ゲーム辞めちゃうんですか?」


「ワタシ、ホントーのおシゴトはチョーリシデスからネ。タトエばリッカみたいなコに、イーッパイおリョーリをツクってアゲるのがおシゴトでーす」



 小さくて可愛い、我が子のようなリッカ。


そんな彼が、当時お父様の傀儡だったことは知っています。


天才ゲーマーであり、ゲーム配信者として有名になった彼を、IT企業の社長であるお父様が彼の名を売る事で企業の名を宣伝し、彼の収益も巡り巡って親であるお父様の所に来る、としていた事を、怒った事もあります。


私も後々知りましたし、驚きましたが、動画配信はとんでもないお金が入ってきます。勿論人気でなければそうならないのですが、それでもそのお金は、頑張って大会を勝ち抜き、動画を撮影し、皆に分かりやすいよう解説したりする、リッカが勝ち取ったお金です。


それを、ただ親であるという理由だけで巻き上げる、彼のお父様が、私には気に食わなかったのです。


親は、そういうものじゃないんです。


子は、そういうものじゃないんです。



そう言った時、私は気付きました。


私は、本職が調理師です。


 だからゲームをやってる子供たちの気持ちがわかりたくてゲームを始めた筈なのに、料理動画と並行してゲーム配信動画を投稿したり、大会に出場するのは、何か違うんじゃないのかな、と。



「もし、シモネットさんが辞めるっていうなら、オレに止める事出来ないけど――言える事があるとしたら、寂しい」


「サミ、しー……、デスか?」


「勿論。シモネットさんは、いつもオレの事を可愛がってくれてるし、何時もくれるお弁当、母さんといつも楽しみにしてる。


 そんでもって――シモネットさんとするゲームは、本当にワクワクする」



 そう言って笑ったリッカの表情が――私にとっては、救いでした。


私は、誤った道を歩もうとしているのかもしれません。


本職とゲーマーの、どっちつかずな道を選ぼうとして、これから私が後悔する日が来るかもしれません。


でも、それでもいいのだと、分かりました。



――愛おしい我が子のように愛した、このリッカが寂しいと言ってくれるなら、私はどんな道でも歩んでやるのです。

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