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人工衛星【トモシビ】にて-04

 人工衛星【トモシビ】内に存在する【マザーコクーン】と接続したパソコンのキィボードを、どれだけ入力しているか、海藤雄一は既に日数を数える事を辞めていた。


既にキィが外れた物は三個。予備のキィボードを接続し直し、現在は各省庁に出向いている富山裕子に新しいキィボードの他、替えのキィを購入してきて欲しいと注文しつつも、彼は一週間ぶりにトモシビ内に存在するシャワールームを利用し、伸びきっていた髭を剃り、サッパリとした気分のまま、再びエラーの解消に向けて仕事を再開しようとした。


その時、ある事に気が付いた。


全てのユーザーデータを並行監視するようにプログラムしたデータに、一つの異常が発生していた。


それは、雄一の遠い親戚で、昔ネットアイドルとして活動していた新庄璃々那のユーザーデータで、首を傾げながら、彼はエラーの発生している箇所を確認した。


それは、彼女が取得した称号データに発生していたエラーだ。


 現在は解消されているが、そこから紐づく形で、マザーコクーン内部でエラー発生と自動修復を繰り返している事実に気づく。



「コレは、もしや……っ」



 一縷の希望を抱きつつ、彼はマザーコクーンに発生しているエラー内容を確認。修復にそほど時間は要らぬと、五分間ログデータを追いかけ、該当エラーを修繕する。


元々海藤雄一が「五千個中五個の称号データとマザーコクーンのエラーが紐づいている」と結論付けた理由は「そもそも無数に発生している不具合の大本を辿るとそこに行きつく」という物だった。


発生しているエラーはそれこそ数えきる事が出来ない程に存在しているが、元を辿っていけば五千個ある称号データの内五個の称号に発生していて、そのエラーが発生した事によって別の不具合が発生し、そこからさらに……と言った風にネズミ算式にマザーコクーン全体へ不具合が連鎖していったのだ。



この解決をする方法は二つ。



一つは、数多存在するエラーを全て解消した後、最終的に紐づいているエラー称号を発見して修正する事により、不具合の再度発生を防ぐ事。


 しかしコレは厄介な事に、エラーを解消させたとしても、不具合を発生させている大本が修正されていないので、解消した瞬間に同じようなエラーが発生するというイタチごっこになる。


 なのでコレを緩和させる方法としては、エラーを発見して修正する前に、当該エラーを自動修復するパッチを割り当てる事だ。


 この修正パッチを製作するのに時間がかかり、全てのエラーに対して修正パッチを割り当てていては、それこそ十年以上の年月が必要となる。



もう一つは、そもそもエラーを発生させている大本である称号データを発見し、エラーを解消する方法だ。


しかし、これにも一つ問題があり、それは言ってしまうと「大本の五個と連動する形で、残る四千九百九十九個の称号データにも何かしらのエラーが発生していて、エラーが発生している=当該称号」というわけではない。


なので現在海藤雄一が行っている作業は『自分が覚えている限り難しい称号データを見つけ出し、その称号データで発生しているエラーを解消させる』事。


しかし、今日まで解消させたエラーは計七十四個だが、しかし全てにおいて該当称号のエラーではなく、それらを解消したとしても、他のエラーとは結び付いておらず、あくまでそのエラーを解消しただけに過ぎなかった。


無論、無駄ではない。そのエラーを放置すれば、そこから連鎖する別エラーが発生する事も、また以前彩斗とミサトへと音声通信を送れた理由も、解消したエラーが外部通信に関するエラーだったからで、それが今後の進行に影響を及ぼす可能性は否定できない。



――だが、今新庄璃々那の獲得した称号から紐づいたエラーを解消した所。



そのエラーから紐づき、発生していた不具合が、全て鎮静化した。


無論これから動作チェックを行うものの、しかし上手くいっていれば、それこそ数万個発生していたエラーの内、数千のエラーが消えた事になる。


間違いなく大きな進展だ――そう実感した瞬間、修一のパソコン上に、一件の音声通信が入っている事に気が付く。



「――やぁ、FDPかい?」


『質問。何故』


「突然だね。私も状況を把握できていないのだから、唐突に何故と問われても、納得のいく回答を出来るとは思えないよ」


『質問。何故人間は、これほどまでに人類における第二の生とも言うべき私の中で生存を望まない』


「前にも言ったね。君と言う存在に第二の人生があるとしよう。だがそれ以前に、肉体を有する彼ら彼女らには本来の生活というモノが存在する。それを蔑ろにしていい理由にはならない」


『質問。私では不完全か』


「その問いに対してへの返答であれば、それは否だ。確かに君と言う存在は、第二の人生として過ごすには十分なリアリティ、十分な性能を誇っているとは思う。


 けれどそうではなく、君の中で過ごす第二の生も、元々持ち得る第一の生も、どちらにおいても人間にとっては必要な生なんだよ」


『理解不能――理解、不能』



 通信は、落ちた。

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