璃々那アラタ-11
そんなリッカから少しだけ離れた場所で、マリアとガルトルス。
ガルトルスの堅牢な岩石を纏った体に、そのまま銃撃する事自体は得策では無いと知っているマリアだが、今は違う。
灼熱のアイコンをウェポンガンに装填し、狙いを定めて一射放つ。
放たれたエネルギー弾は真っすぐにガルトルスの右目目掛けて飛んでいき、確かな威力を内包したまま着弾。
しかし、それだけで終わる彼女ではない。
「い――くわよぉおおっ!!」
弾丸を放ちつつ、反動は右腕に装着された装甲が受け止め、正確な射撃が次々にガルトルスの右目へ着弾していく姿を確認しつつ、彼女は左腕を振りながら地面を蹴り、高く跳び上がった瞬間にウェポンガンを上空へ放り投げ、腰を捻って振り込んだ拳がめり込んだ。
絶叫し、痛みに耐えるガルトルスに、まだ足りぬと言わんばかりに左腕の拳を振り込んだ後、脚部スラスターを吹かして顎を蹴り上げたマリアは、今重力に従って落ちて来たウェポンガンをキャッチし、予備マガジンへと換装を終える。
彩斗はゲルトールの、その鋭い刃と同義である体毛を、寸での所で躱しながらも、あえて深く攻撃には向かわない。
人を遥かに超えるスピードで自身の周りを駆けるゲルトールの動きを目と気配で追い、観察し続け、僅かに見つける事の出来た隙を狙って攻撃をするだけで、かなりの時間が経過したものの、だがその時間は無駄ではなかった。
「パターンと弱点は、見切った」
双剣を構えると、柄から腕をまとうにようにしたギミック。
ゲルトールが腕部の刃を振り込んでくると、二対の刃を振り込んで受け流し、着地した瞬間を見計らって駆けた彩斗は、その体毛にある付け根を狙い、刃を振り込む。
かなり強靭な根ではあるが、プログレッシブ・ブローとしての打撃力が押し勝ち、右腕に展開される刃が宙を舞い、落ちた。
「さぁ来い――丸裸になるまで剥ぎ取ってやる」
彼女は宣言を実行すると言わんばかりに、その刃を一振りさせる毎に、ゲルトールの甲殻を覆う刃の体毛を切り裂いていき、既に右腕に戦闘能力はない。
振り込んだ刃がその肉体を抉るように斬り込まれると、ゲルトールは絶叫と共に動きを止め、その肉体を肥大化させる。
「マズ」
マズいと口にする前に。
眼前へ何か、銀色のプレートが展開される。
それが彩斗の肉体を守るようにした直後、ゲルトールの身体から無数に射出される刃だったが、プレートに当たった瞬間に凍っていき、最後には砕けて散っていく。
「助かったよ、ミサト」
「何て事はありません。――子守はキライじゃありませんから」
ステックを振りながら、メニュー画面を見る事無く連続でタッチを続けるミサト。
その度に彼女の周りを浮遊し続ける銀のプレートが、四方八方に動き回って、時に彼女を守り、時に彼女と相対するバールクスへと接近し、まるでレンズに光を収束させたかのように放つビームが、バールクスの肌を凍らせていく。
咆哮と共にバールクスを覆う炎が噴出されるも、ミサトの綺麗な肌へ熱を届ける前には、ミサトがその場から離れている。
適度な距離を保ちつつ、ミサトは淡々と作業を繰り返す。
そんな彼女がスティックを空高く放り投げると、指をパチンと鳴らすと、プレートが全て彼女の前に集約し、一つの巨大砲塔として顕現した。
「プログレッシブ・ラスト・アクション」
彼女の音声コマンドによって、砲身から放たれる冷気のビーム。
それはバールクスの放つ炎に最初こそ溶かされていくも、やがて熱の放出が間に合わずに、その腹部を貫き、地面に倒れる。
爆発四散していくバールクス。
ミサトの上方に表示されるメニューには『congratulation!』の表記と『バールクスを一体討伐する』という称号獲得が成される。
「一番手は私ですね」
「やるねぇミサト。だが次は私だ」
ゲルトールが放った刃の雨をやり過ごした彩斗は、そのまま地を駆け、双剣の柄で頭部を殴りつける。
グワンと頭を揺らしたゲルトールの頭部を蹴りつけ、背中へと跳んだ彩斗は、そのまま背後の尻尾を切り裂き、切断する。
その速さは、目に留める事も出来ぬ高速。
何時の間にか駿足のアイコンを掴んで、それをリングへとかざしていた彩斗。
〈Progressive・Up〉
「――大変身」
双剣に展開される追加ギミックが、先ほどまではトンファーのようだったが、今は腕部に追加される形でスラスターとなった。
「プログレッシブ――ラスト・アクション」
噴出される、両手両足のスラスターより推進力を得て、先ほどよりもさらに高速性を増した彩斗は、ゲルトールとすれ違いざまに数え切れぬ程の連撃を斬り込んで、その体を八つ裂きにした。
剣劇に耐え切れぬと言わんばかりに身体を膨張させ、爆発して散っていくゲルトールの姿を見届けた彼女は、身体を翻し爆発をバックに右手を振り上げた。
「――カーテン、コール」
彼女は雰囲気を重要視するパターンの人間だった。




