表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/246

先行プレイ-06

 社長室に辿り着き、ロックを解除した富山さんが、オレを出迎えてくれる。


 彼女は予め用意していた資料を机の上に置いてくれていて、目線で「これでしょう?」と示した。


頷き、全ての資料に目を通していく。


だが正直、事前情報であった内容だらけだ。読み進めながらも、オレは富山さんに聞いてみる。



「開発データ、やっぱブラックボックス化してるんですか?」


「ご名答。まぁされていなくても解析は無理だったでしょうね」


「同感」



 と、そんな会話を交わしている内に、エレベーターが最上階につき、満身創痍と言った様子の岩田がフラフラと社長室に訪れた。



「あ……律君、来てくれたんだね……っ」


「アンタの為じゃない。というか一発殴るぞ」



 柔らかそうなお腹にフックを食らわせ、ドゥフと呻いた岩田。


そんな彼に向けて、富山さんが駆け付け、まずは「大丈夫ですか社長」と声をかけた。



「と、富山君……私の味方は、秘書である君だけだ……っ」


「いえ、私辞めますよ? 退職金は満額お願いしますね」


「そんなー……」


「自業自得です」



 資料に目を通し終える。


新たに分かった事は一つだけ。しかしこれは思ったより重要な情報だったので、噛みしめ、考える。



「それで、雨宮君。何か突破口はありそう?」


「そうだな――称号データは全部で五千個あり、その内エラーが起こっている称号は五つ。これは覆らないと考えられる。


 けれど海藤雄一が言っていたように、一人で五千個の称号全てを手に入れる必要が無いなら、全ユーザーが虱潰しに称号を手に入れていけば、その内エラーが起こっている五個を取得する事は可能だ」



 そして、五千個ある称号データは、それぞれ大まかな分野で一千個ずつ設定がされているという。



「狩りにおける称号」


「食材における称号」


「採集における称号」


「恋愛における称号」


「娯楽における称号」



 これらが区分けされているという事が分かれば、予めその知識を有した者がゲームに参加すれば、称号取得はそこまで難しい事では無いと思われる。


だが――



「このままじゃ無理だ」


「えぇ!?」


「雨宮君の力を持ってしても、という事?」


「その通りだ。オレ一人で五千個全てを一年以内に獲得する事は出来ないし、今プレイしている先行プレイヤー達は、オレが知る限りゲーム知識において特出したモノを持っている人物が少ない。


 つまり、一年なんて短い期間じゃ、手に入れても通常プレイを行って手に入れられる称号だけ、という事だ」



 勿論、通常プレイを行って手に入れた称号が、たまたま五個のエラー称号だったという可能性もある。絶対に無理だと言い切る事も出来ないが、しかし何時だって最悪の状況を鑑みるべきだ。


 最悪、それは――最高難易度に設定されている称号が、エラー称号であるという状況だ。



「そ、そんな事を言わず、助けてくれ……っ」



 オレの足をぎゅぅ、と掴み、みっともなく喚く岩田。



「き、君なら出来る! だって君は――


 海藤もその実力を認めた、天才ゲーマー【リッカ】だろう!?」

 


岩田の言葉に、オレはため息を溢すと同時に、彼の腕を振りほどく。



「そう。オレは天才ゲーマー【リッカ】だ。それは認めよう。


 でも、オレの得意とするゲームはアクション、シューティング、格ゲー、しかもオフラインゲーだ。


 それらの分野で全ての称号を全て見つけだせ、という事なら自信はあるが――FDPはオンラインゲーの上、この『食材における称号』やら『恋愛における称号』やらを、一年以内に見つけ出す自信はない」


「そ、そんなぁっ!!」



 だが、と。


オレの言葉は続き、富山さんに視線を送る。


彼女はハッと何かに気が付いたようにスマホを取り出し、どこかへ電話をかけ始める。



「……え? え?」


「つまり、オレ一人では自信がない、というだけだ。


 その道のプロフェッショナルについてという事なら、知っている」



富山さんがメモを取りながら通話をしていたが、すぐに電話を切り、オレへ笑みを浮かべた。



「マリアとカーラを日本へ呼び出す事には成功。カーラは明日。マリアは二日かかるみたいだけれど」


「上出来だよ、流石富山さん。じゃあ今日中に日本組の説得に行こう」


「車の用意もしてあるわ。距離から言って、まずは世田谷のお喋りスラングクソハゲの方?」


「そうだな、九十九の力も借りたい」


「じゃあその次は名古屋って事でいいのかしら」


「その通り、考える事は一緒だな。結婚を考えるレベルだ」


「貴方ほどの資産ならアリね……」


「十も年下の子供相手に真剣になるなよ……」


「八よッ!!」


「マジですみません」



 そんな会話をしつつ、オレと富山さんは再び一階までエレベーターで降りた後に、裏口に回されていた社長専用のリムジンに乗る。


走り出す高級車の座り心地を楽しむ暇もなく、持ってきていたゲーム仕様書に目を通しつつ、到着を待つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ