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璃々那アラタ-10

 目を覚ました私のコクーンに、一通のメッセージが届いていた事を知る。



『レイドボスが出現したのでマリアと倒しに行ってきます。先輩はステージ、頑張ってください』



 短い文面だけれど、リッカ君の考えている事が分かるようだった。


リッカ君とマリアさんは、私のステージがステージに立てるよう、あえて私に何も言わず、ただ心配だけをかけさせまいと、こうしてメッセを送ってくれている。


なら、彼らの意向に沿わねばならない。


起き上がり、宿屋で用意されている朝食を美味しく頂き、久しぶりの一人で街を歩き、フォルムへと辿り着く。


今はイベント開始に向けて最終準備を行っているスタッフさん達。


そして、イベントの開始を心待ちにする、NPCの人やプレイヤーらしき人達もいる。


RINTOさんの姿も見えて、目が合ったけれど、彼は私に深くお辞儀をするだけで、声もかけてこない。


彼は、私のファンとして、私の近くに来ようとはしない。


それが、ファンである彼と、アイドルであった私の、適した距離だと考えているのだろう。


 

イベント開始の時間がやってくる。



一番目から八番目までの参加者がパフォーマンスを披露する間、私はずっと観覧席を見ている。


多くの人が座る事を目的として作られた席には、余すことなく人が座り、立ち見の人も多く、その数は数える事が出来ない。


普段の私ならば、絶対に足が震えて、満足のいくステージにする事など、絶対に出来なかっただろう。


けれど――今は何故か、不思議と落ち着いている。


リッカ君やマリアさんと同じリングを身に着け、二人と繋がっているような感覚になっているからかもしれないが――



「……ああ。きっと、リッカ君やマリアさん、RINTOさんのおかげだ」



 古くから私の事を応援してくれたファン、マリアさんとRINTOさん。


 そんな私の事を知らなくても、私の出来るステージを、パフォーマンスを、出来る事をすればいいと背中を押してくれた、リッカ君がいたから。



私は今――この場所に、なんの気概も無く、立つことが出来ている。



『ありがとうございました。――では続いては、エントリーナンバー九番のマリアさん、の予定でしたが、彼女は参加時刻までの到着がありませんでしたので、失格となります』



 先日のリハーサルに来ていた人はホッと息をつき、参加していなかった人は残念そうに声をあげていた事が面白くて、フフっと笑ってしまう。



『では、エントリーナンバー十番、リリナさん。前へどうぞ』


「はい」



 手に持たされたマイクに声を乗せ、前に出る。


皆の視線が一斉に集まる中、それでも深呼吸を短く済ませると、私は今出来る最高の笑顔を、皆に見せる。



「あの、私は……昔、璃々那アラタという名前で、ネットアイドルをやっていました」



 突然言葉を発した私に、審査員や進行を務める人が少々困惑している。


けれど、私は言わねばならない。



「ちょっとした事情で辞めてしまいました。けれど、こうしてステージに立つからには、皆さんの心に残るステージにしたいと思って、ここにいます。


 だから――皆、ちゃーんと楽しんでいってくださいねっ」



右手の人差し指を、皆に向けて、小さく「ban」と呟く。


すると、数人の歓声が沸き上がり、それが合図となって、私の曲が――



 デビューシングル【ココロアラタニ】が流れ出す。



**



――リリナは、気付いていなかった。


彼女の頭上に、一つの称号が現れていた事を。



『N.0424〔縲先ュ悟ァォ縲代?繧ク繝ァ繝悶r蜿門セ励☆繧九?〕』



 それは、文字化けを起こし、最初は何と読むことも出来ない状況であったが。


 やがてジジジと音を奏でながら、黒い電子的なドットを揺らめかせ――砕けた。



『N.0424〔【歌姫】のジョブを取得する〕』



 **



ラーディングの咆哮で吹き飛ばされる体を、地面に手と足を付けて減速させる。


突進と共に突き出させる頭部。減速が終了し、地を強く蹴ってラーディングの背中に乗る事でやり過ごしたリッカは、灼熱のアイコンをリングへとかざす。



〈Progressive・Up〉



 嬌声と共に身体を持ち上げて、リッカを振るい落とそうとするラーディング。目論見通り、そのまま地面に落ちながらも、彼は灼熱のアイコンを空へと投げる。



「プログレッシブ・アップ――ッ!」



 解けるアイコン、着地と同時にリッカの体を纏う赤の装甲。


全身に炎を巡らせると、そのまま身体を捻って繰り出す全力の拳を、ラーディングの腹部へと叩き込む。



〈Progressive・Fire・Active.〉



 プログレッシブ・スピードから、プログレッシブ・フレイムへとフォームチェンジを行い、スピードは落ちる。


 だが威力が高ければその分だけ討伐効率が上がると考えた彼は、そのままラーディングより繰り出される腕部、脚部からの攻撃を冷静に避け、カウンターとして拳を打ち込んでいく。

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