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璃々那アラタ-07

「いや、その……オレは元々、顔出し無しでずっと、璃々那アラタさんの紹介する動画を一日一投稿してたんだけど……アラタさんが引退しちゃった後に、その……リ、リッカのファンになり……」


「え」


「リ、リッカのファンだったんだ! そこでもリトってハンドルネームで、毎回動画にコメント入れてたんだぞ!?」


「え、嘘……そ、それは本当にありがとう。気付かなくてごめん」


「い、いや。こっちが勝手に推してただけだし。


 ……そしたら、リッカまで引退しちゃって、しかも粗悪品みたいな偽物がいっぱい動画上げ始めてさ?


 リッカを名乗りだすから、腹立って、オレがリッカの二代目になってやる、って息巻いて、ゲーム実況配信を始めたら……なんかイケメン配信者って言われる様になってて……何時の間にか有名に」



 なんか、凄いサクセスストーリーを知ってしまった気もする。


 それに、RINTOがオレのファンだって言うのも、知ると何だか、気恥ずかしいけど嬉しいという気持ちが雪崩れ込んできて、先輩がマリアやRINTOにファンだったと言われて喜んでいた気持ちが理解できた気もする……。



「そ、そんな事より、アラタさんの事だっ」



 あ、そ、そうだった。そっちが本題だった。思わぬ過去のファンと言う存在に喜んでいる場合じゃなかった。



「あの、さっきはご立派でしたアラタさん!」


「い、いえ……その、ファンの人を……しかも、リトさんみたいに、初期からずっと応援してくれてた人に、情けない所を見せてしまって……ホントに、自分が、情けなくなります」


「何言ってるんです!?」



 RINTOは、先輩に――璃々那アラタという偶像に、声を張り上げて、彼女の言葉を、否定した。



「アラタさんは、最後まで泣かなかった。最後まで前を向き続けた。笑顔じゃなかったけど、ステージの上でずっと毅然とした態度を崩さなかった!」



 彼の言葉には、力強さがあった。


それは、過去の彼女を知る者のみが放てる言葉の力。


ずっと最前列で、彼女の事を見続けていたRINTOだからこそ、放てる言葉だ。



「アイドルは偶像で、舞台に立つ時には、誰かの心に残る存在だ。だからこそ、弱い姿を見せる時も、強い姿を見せる時も、誰かの事を想ってステージに立つ存在だ。


 オレは、ずっとアラタさんのステージを見続けて来たから、知ってる。


貴女は、ステージが成功した時にも、失敗した時にも、ファンの心に残るようにしていたと。今回のステージも、その時と同じだった。



感動したんです。オレ一人だけの感想で、本当に申し訳ないんですけど……でも、オレと言う一人のファンが、こうした感慨を持って、貴女のステージを見ていたという事実は、受け入れてくれると、嬉しい」



璃々那アラタは、RINTOの――否、リトというファンの言葉を受け入れ、涙を流した。


今、彼女の心に、どんな感情が渦巻いているか、オレに察する事は出来ない。


けれど、その涙は――決して傷ついた時に流す、悲しみでも、苦痛の涙でも無い。


彼女は、涙を流しながらもしっかりと笑い――コクンと頷いて、リトの手を、握る。



「ありがとう、ございます。リトさん」


「あ、あとこの間はごめんなさい。オレイケメン配信者って呼ばれて調子に乗ってナンパしちゃいましたね今から死にます」


「ちょちょちょ、止めて下さいっ」



 いきなり双剣を取り出して自分の喉を掻っ切ろうとしたRINTOを止めたオレ達三人と、止めてくれるなと騒ぐ彼のドタバタ劇は、五分ほどの時間を有し、最終的にはメイドに『周りの人のご迷惑を考えてご自害下さいっ』と叱られ、幕を閉じた。



**



少しだけ、RINTOと二人で話した会話の内容だけ、記しておこう。



「ありがとう、RINTO」


「礼を言われるような事は言っていないよ」


「いや。RINTOは先輩の心を癒したよ。……彼女は」


「アンチに苦しんでいた。オレは知っているよ。彼女に粘着するアンチの存在も、アンチの存在に憤慨し、彼女の目につく場所で言い争う者達の、醜い争いも」


「それを、止める事は出来なかったのか?」


「出来たかもしれない。けれどしなかった」


「どうして? 責めるわけじゃないけど、璃々那アラタという存在が幼くて、心無い言葉に傷つくかもしれないって、考えなかったのか?」


「考えたさ。けれどアイドルと言う存在は、誰の目にも届く存在だ。


 時にそうした言葉が襲う事もあるし、炎上する事もあると、リッカも知ってるだろう」


「……知ってるつもりだ」


「それを乗り越える事も、屈する事も、時には気にしない事だって、アイドル自身の選択だ。


 どの道を歩むか、オレ達ファンが定める事じゃない。


 アイドルが、ファンにどの様な回答をするか――それを見届ける事こそが、オレ達ファンの役割なのさ」



この時、オレはRINTOという青年の、ファンになったかもしれない。

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