璃々那アラタ-06
「やっぱり……やっぱり彼女は!」
RINTOが立ち上がったが、オレは奴の事なんか気にしている場合じゃない。
すぐにフォルムから降りて来たマリアと先輩の元へ。何故かRINTOもついてきた。
「気にする事ないわよリリナ。今日はリハなんだし、明日しっかりやれりゃ良いんだから。
それにリリナがもしドジって一位取れなくったって、アタシがいるから一位は取れるし、村も安泰よ!」
「いやそれは無い」
ツッコミながら二者に近づく。マリアは「何よそれーっ」と騒いでいたが、先輩は未だに表情が暗い。
「お疲れさまでした、先輩」
「あ、リッカ君……その、上手くできなくて、ごめんなさい」
「何で謝るんですか。それにマリアが言っていたように、今日はリハで、しかも絶対上手くいかなきゃダメ、なんて理由もないんだから」
本当の事を言えば、上手く言った方が好ましい事は確かだ。
フォルムを利用したコンテンツで優勝なりなんなりすれば、それだけで称号が設定されているか否かがわかる。
もし仮に三位だったりすれば『優勝する』や『準優勝する』の称号があるかわからないし、一位を取るに越した事は無い。
だが、それを理由にして先輩を傷つけていい理由にはならない。
「一旦今日は帰りましょう。……もし、明日やりたくなければ、言ってください」
オレの言葉に、先輩はただ黙っただけだ。了承も、否定もせず、ただオレの手に引かれて、宿屋に向かおうとした。
その時、RINTOがオレ達の前に立って、声をあげた。
「あの、璃々那アラタさん、ですよね!?」
いきなりの事態に、オレも先輩も思わずきょとんフェイス。
唯一フリーズせずにいたマリアが「アンタRINTO?」と言葉を発したおかげで間は繋がったが、しかし事態は変化していない。
「今アラタは疲れてんのよ。野次馬なら後にしなさいよ」
「いや、野次馬じゃない! いや野次馬かもしれないが、話を聞いてくれ!」
マリアの静止も聞かず、RINTOはズンズンと近づき、先輩の前に立つ。思わぬ状況にオレも動く事が出来なかった。
彼は先輩に――決して手を伸ばす事無く、頭を深く下げた。
「アラタさんっすよね!? 自分ファンクラブ会員No.01の、リトですッ! 覚えてないっすか!?」
土下座しつつ、一度頭を上げたRINTOの言う事に、オレは反応できなかったが――先輩とマリアは、反応した。
「うううううう、嘘!? RINTOさんって、リトさんだったんですか!? あ、あの、活動中は色んなサポートをしてくれて、ありがとうございますっ」
「うううううう、嘘!? RINTOってあの伝説のTO (トップオタ)、リトさんだったの!?」
「ナニコレどういう状況!?」
「説明しよう! TOとはトップオタの略称で、アイドルを応援するファンの中でもトップを意味する称号だッ!」
「そこじゃないいやそこもだけどもっ!!」
「説明しよう! TOの役割はアイドルのサポートとか言われてるけど正直あんまりそんなの関係なく、周りからTOと認められればTOなのだ!」
「え、そうだったの!? って思わず驚いちゃったけどそこでも無くてね!?」
「と、特にリトさんはファンクラブ会員への連絡網の制定、運営との連携によってファンに対しての注意喚起、ルール規定の助力なんかもしてくれてたのっ!」
「あ、あのっ、アタシファンクラブ会員No.04のLILIですっ、ライブ等では大変お世話になりましたっ!」
「おお、マリアがLILI君だったのか! LILI君は外国人なのにマナーが良くて非常に感心していたんだっ!」
ナニコレ。付いていけないのはしょうがないにしても説明なしにちょっとトンデモ展開になり過ぎだと思う。
「あの、一つ一つ、整理して、いい?」
頭を抱えながら手を上げると、その場で全員が落ち着いてくれたので、フォルムの席に腰かけさせて、質問をしていく事にする。
「えっと……RINTOは、リトっていう名前で、璃々那アラタのファンだったって事だよな?」
「そうだな。一応名ばかりだが、ファンクラブ会員No.01を任せて頂き、恐縮なのだが、TOの称号も頂いた」
「TOは、トップオタの略で、要は凄いオタクって事だよな?」
「名ばかりだ。さっきも言ったが、TOは周りから認められればそれでいいんだ。言ってしまえば、口コミで任されているようなもんだしな」
「あの、それで何でお前イケメンキャラで配信者やってんの?」
「そこを聞くのか!?」
「駄目なのか?」
「い、いや……駄目じゃないんだけど……恥ずかしいというか」
「さっきまでのお前も相当恥ずかしいと思うんだけどそれは」
正直話の本題はそこじゃないけど気になったから聞いてしまう。
普段のコイツはさっきも言ったが正統派イケメンキャラで、アイドルのオタクをやっているというイメージではない。
しかし、彼の言動や先輩とマリアの発言からすると、彼はかなり重度のオタクだったようで、マリア等は羨望の眼差しをずっと向けている。TOってそんなに凄いのだろうか。




