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璃々那アラタ-05

『ではマリアさん、フリートークですが、何か趣味とかありますか?』


『最近だとFPSゲームで芋砂 (芋虫スナイパー)の後ろに回り込んで首を掻っ切ったりするのが大好きですぅ!』



 何故よりによってそれを選んだ!?



『はぁ芋砂……? で、では特技とかありますか?』


『異種格闘技戦で相手の股間を蹴り上げたりすると、男性相手は有利になるんで得意でーす!』



 今男性観覧者が一斉に股間を押さえた。RINTOなんかゾッと表情を青ざめさせているし、以前の決闘戦でどういう勝負だったかがわかる反応だった。



『え、えっと、きょ、今日はリハなのでこの位にしときましょうか。じゃ、じゃあ続けて歌っていただきましょう。楽曲は持ち込みの【璃々色日和】です』



 会場に存在する巨大スピーカーより音が奏でられ、マイクチェックの終わっているマイクへ歌っていくマリア。


 けどオレはオチが何となく読めたので、マネーを2マネー取り出して耳に入れ、少しでも侵入する音を少なくする。



結果、マシになった。



彼女の音が外れているわけでもないのに何故か聞いているだけで気分が悪くなっていく怪音波を聞き続けた結果、ナレーター及び観覧者全員がその場で嘔吐や失神していく光景が。RINTOも隣でブルブルと震えながらも「ある意味アイツ凄いな……」と何か感心しているようだ。



「何が?」


「いや、これだけの被害が出てるのに、アイツ自分の歌と踊りに集中してる。ある意味プロだぞ」


「ああ……確かに」



 見えていないだけかもしれないが、マリアは今も歌って踊る事に集中している。


 踊ってる姿は可愛いしカッコいいから、歌さえまともになれば良いアイドルになれるかもしれない。なぜアイツは洋楽を選ばなかった。



「リッカは音を遮断しているとは言え平静を保てているな」


「そうだな。アイツとも付き合い長いし覚悟して聞けばこの程度食べた朝食が口から出る程度で済むうごふぉ」


「何とかなっていない!?」



 ちょっとだけ嘔吐ってしまったが意識は保っている。



「どっちかと言うとお前の方が良く平静保ててるよ。RINTOは耳が無いのか?」


「耳はあるよ!? いや、確かに今まで聞いてきた中ではぶっちぎりに音痴だけど、ネットには自分に絶対の自信を持ったインターネットカラオケマンがいっぱいいるし、そういう奴に限ってコメントをすると動画を見に来てくれるし、宣伝もしてくれるんだ。だから配信を始めたばかりの頃は、良くそういう人の動画を見まくってたから耐性があるのかもしれない」



 なんかRINTOが人気になるまでの活動記録を垣間見た気がする。けど確かに何の努力もせずに有名配信者になれるはずもないので、彼は彼なりに頑張っていたのかもしれない。



 と、そんな会話をして気を紛らわせていると、歌が終わりダンスも止め、気持ちよさそうに観覧者に「ありがとーっ」と手を振る彼女の顔は、輝いて見える。


けど見ている側の九割が死んだような顔しているのが見えていないのか、そのままスッキリした顔で列に戻っていく。ちなみに先輩以外の八人はその場で倒れている。



「うん、歌とトークはともかくダンスは良く動けていたし、璃々那アラタの事をよく見ている事が伝わってくる。百点満点中二十五点」



 歌とトークでだいぶ減点されているのがわかる。



『で、では次、エントリーナンバー十番、フリーで参加のリリナさんです……っ』



 進行役も口を押さえつつ冷静に次へ進んでいった。あれぞプロだ。



『へぁ、え、へっと、り、リリナですっ、よ、よろしく、お願いしますっ』



 顔を真っ赤に染めながら、何とか絞り出すように挨拶をした先輩に、RINTOが何やら立ち上がりそうになって、堪えた。



「ま、まさか……まさか彼女は……ッ!?」


「どうしたRINTO」


「いやそんな、まさかこんな所に」



 オレの言葉など聞いていないRINTOに少々訝しみながらも、先輩のトークを聞く事にする。



『リリナさんは何か趣味とかございますか?』


『えっと、その、ごめんなさい、特に、コレと言ったのは……ど、読書、位です』


『では特技等は』


『特技も、これといって……私、不器用だし自慢できるようなものは、何も……』



 自分で言っていて虚しくなったのか、シュンとする先輩に進行も困ったのか、そこで『ではリハですし、歌っていただきましょう』と無理矢理進行した。



『楽曲は持ち込みの【ココロアラタニ】です、どうぞ!』



 曲が再生され、先輩はアワワとしながら歌に合わせて踊り出す。


元々彼女の曲なのだから当たり前ではあるが、良く動けている。


しかし、覚悟も決めていなかったからか、歌おうと思った瞬間に噛み、慌てていたせいでその場で足をもつれさせて、倒れてしまう。



『ちょ、一旦ストップ』



 進行が止めて、先輩も涙目になりながら立ち上がる。


クスクスと笑い声が聞こえた。


先輩は、それでも涙を流さない様に堪えつつ、進行役を見た。



『えっと、今日はリハなので、リリナさんはここまでにしましょう』



 気を利かせたのか、進行役はそこで彼女の番を終わりにして、全メンバーへ今後の進行を教えていく。


その間先輩は――俯かずに、ずっと前を見ていた。

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