璃々那アラタ-04
ミュージアムにて開催されるアイドルイベントは『集まれ! アイドルの街!』というどっかのゲームで聞いたような名前で、海藤さんは時々こう言う意味わかんない攻め方するよなぁ、と思っていた。
「開催は明日で、今日は参加者が集ってリハーサルするって」
参加希望を出しに行ったマリアと先輩。
先輩は最後まで、参加を拒否しなかった。
けど今も若干悩んでいるような風に見えたので、もし彼女がやはり参加したくないと言えば、オレはマリアへ「いやお前に勝てるアイドルはいないよお前が最強最カワアイドルだよ」とか調子の良い事言って先輩の参加を取り消そうと思っている。
「リハーサルも公開するのか?」
「みたいね。観客も入るみたいだから、慣れるには丁度いいかも」
「うぅ……緊張する……っ」
「大丈夫よリリナ! アラタ以上のアイドルはこの世に存在しないわ! まぁアタシもアラタには勝てないけど二着くらいは貰ったも同然かなぁ」
ウキウキとしているマリアと対称的に、先輩は膝をガクガクと震わせている。ホントに大丈夫かなぁと思いつつも、オレはフォルムの席に腰かけ、見守る事にした。
と、そんな中、何やら全身を黒の衣服で包んで顔どころか肌すら見せぬ謎の男がキョロキョロとしていて、オレはつい訝しんでしまう。
「…………あの、先行プレイヤー、ですか?」
つい、声をかけてしまうと、男は「ひょいっ!?」と謎の返事をしてくる。
「びゃ!? お、お前はリッカ!?」
「オレの事知ってるのか?」
「し、しし、知らない奴とか居るかよ!?」
「お前は誰なんだよ」
「あ、え、その、あ、オレハアヤシクナイ、タダノイケメンハイシンシャダゾ!」
「メチャクチャ怪しいんだよ、そのフードと顔を覆ってるマスクとサングラス外せ」
「ちょ、待てよ!」
若干抵抗されたがそんな事は関係ないと言わんばかりにフードを外してマスクとサングラスを奪い取る。するとそこには――
「……RINTO?」
「イ、イエス、マイネームイズRINTO」
「何でそんなカタコト英語で答えるんだよ」
RINTOは日本のゲーム実況者でも有名な男で、そのイケメンな顔立ちと綺麗な声で女性人気が高く、また言葉選びも上手い事から子供にも人気がある。
「そ、それより、マリアの他にリッカもFDPにログインしてたのか!? ちょ、マジか、後でサイン下さい」
「別にいいけど、お前アイドル好きなの?」
「べ、別に好きじゃないぞ!? か、可愛い子を見れるかなぁと思ってきただけだし!」
「あ、そう。正直お前のイメージがた落ちなんだよなぁ……」
配信されてる動画では「オレ女性に興味ありません」オーラをバリバリ出した正統派で清純イケメンなのに、先輩をナンパしてただとか、こうして可愛い子を見れる、とかそういう発言はマイナスイメージだ。
「あ、それよりリハが始まるぞリッカ。こう言うリハの場合はあまり声をあげるなよ、マイクチェックとか立ち位置確認が主だから、それを邪魔するなど以ての外だ」
「メチャクチャ詳しくね?」
「オ、オレもこう言うイベントに参加する側だから詳しいだけだ!」
「そういう事にしとくよ」
RINTOの言う通り、リハーサルが始まる。
十人近い女性達がステージに上がり、何やらスタッフと思しきNPCから立ち位置確認されている様子が分かる。
リハーサルだからか観客も少なく、彼女達の様子も見てわかる。
マリアと先輩は連番で、マリアが九番目、先輩が十番目でトリを務める形らしい。
「お、あの子は」
「お前がナンパして断られた子。お前後でぶっ殺すからな」
「リ、リッカの彼女だと思わなかったんだ!」
「彼女じゃねぇけどお前には絶対やらねぇ」
「い、いやしかし、初めて会った時にも思ったが、あの子どこかで……」
はて、と何か疑問に思っている様子のRINTOを放って、リハーサルを見学する。
一番から順番に八番目まで順当に続いていくが、内容としては最初に軽く審査員とのトークをし、後に自分で指定した楽曲を歌って踊るオーディションイベントらしい。
審査員は五名で、一番良いと思った子に投票するタイプらしいが、今日はリハという事もあってか、審査員はいない。失敗も今日なら許される。
『では続いてエントリーナンバー九番、フリーで参加のマリアさんです』
『皆さん初めましてっ! アタシ、マリア・フレデリックでーすっ! ホンキでアイドル目指してマースッ!』
キャハッ、と今まで見た事の無い満面な笑みを浮かべるマリアに、オレとRINTOが同時に顔を逸らして思わず目が合っちまった。
「おいRINTOお前可愛い子好きなんだろ喜べアメリカ系美少女だゾ」
「リッカこそ長い付き合いじゃないか可愛らしい彼女なんか珍しいゾ」
普段の高圧的で他者を寄せ付けない感じの彼女を知っているからこそ、媚びを売る感じが非常に似合わない。
い、いや! 彼女の事を知らなければ分からないのかもしれない。




