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新庄璃々那-09

璃々那アラタは、先輩が中学一年生の頃に、ネット配信形式で公開を始めたSNSとブログでの活動名だ。


当時はスマートフォンの普及に伴い、動画配信サイト等も盛り上がりを見せていた時代ではあったが、そんな中アラタというネットアイドルとして活動し始めた理由は「臆病な自分を変えたかったから」と応えた。



「私、昔から人付き合いとか、目立つ事とか、苦手で。だから、多分ライブとかファンイベントとか、そういうのは出来ないなぁって思ってたんだけど……オーディションを受けた事務所のプロデューサーが『じゃあネットアイドルはどうだろう』って、提案してくれたの」


「どんな活動してたんですか?」


「そこはアタシが説明するわ」



 ヌッと会話に入って来たマリア。傍にはメイドも立っているし、何やらフリップの様な物も持っている。



「璃々那アラタは、主にSNSとブログにて撮影した写真や映像等を公開し、アフェリエイト広告にて収入を得る形だったわ。後は細かく化粧品とかお菓子とかが写った写真も載せてたから、多分ステマ収入もあったんじゃないかな?」


「え、あ、はい。写真撮ってた時には気付いていなかったけど、プロデューサーから『この化粧品が写るように撮影して』とか指示ありました」



 メイドが持っていたフリップに写真が添付される。鏡に映る自分を撮影している何気ない写真だけど、確かに隅っこに化粧品が見えたり、何であれば当時の最新スマホ等もしっかりと型番等が見えるように撮影されている。



「それ以外には『席の心配なし!』を売りにしたネット配信限定のライブね!


 ステージに立ってるアラタが歌って踊るステージを生配信する形なんだけど、コレの何が凄いかっていうと、ファンもマイクを持っている場合、ファンの声が直接アラタの所に届くッて所よ!


 こうする事でライブ感を演出できるし、ファンの言葉に合わせてアラタが反応してくれたらファンとして発狂ものよ!」



 続いて出された映像は、そのライブ配信の映像だろう。歌って踊る中学生の先輩可愛い。


一席辺り千円と言う安め(らしい)価格で、古参からニワカファンまでがライブごとにチケット購入をしたらしい。


そして、もしネット回線等の都合上で配信を見られなくても、後日再編集した映像が同価格で販売される事もあり、ライブ収入もかなりの額を稼げていた事が予想できる。



「さらに音楽配信も、当時は珍しくネット配信限定。握手券商法みたいなのも無かったから、CDでの発売は一切なし!


 元々ネットアイドルだしCDが買えないと困る層なんかそんなにいなかったのもデカかったかもね!」



 だからネット配信チャートで上位に入る事はあっても、CD売り上げランキングチャートには一切乗らなかったそうだ。



「正直ネットアイドル界ではトップと言っても過言じゃなかったわ! ……でも、そんな璃々那アラタは、三年前くらいに引退しちゃったの」


「……ハイ」



 マリアが涙し、先輩がオロオロとしだす。そしてメイドは一言も発する事なく、役目を終えたと言わんばかりにニッコリと良い笑顔で去っていきやがった。



「あの、何で引退したんです? 人気だったんですよね?」


「えっと、その……高校入試もあったし、勉学に集中したいから、かな……?」



 マリアの涙を拭いながら苦笑し、そう答えた先輩の表情が、どこか怪しい所はあったけれど、ただ理由としては至って普通だ。



「でも、紛いなりにもアイドルだったんでしょ? 宮戸高校とかでよく周りに気付かれませんでしたね」


「えっと、さっきの画像でもあったけど、中学時代の私、短髪だったでしょう? しかも、普段私が学校でどういう髪型してるかも、知ってるよね……?」



 あ、そうだった。


元々先輩は長い黒髪を三つ編みにして、前髪も長いものだから表情なんか見えないし、しかも髪の向こう側も黒縁眼鏡ときた。


 普通アイドルだとは思われないだろうし、そもそもオレが先輩の居た文芸部に入った理由も、彼女を見て「陰の者だ」と思ったからだと思い出す。



「いやぁ、しかも年の成長って怖いもんよね。当時はキャワワ系だったアラタが、今十七歳でキレイ系女子になってんだもん。アタシでも気付かないって」



 先ほどメイドが持ってきていた写真の少女は、黒髪短髪の可愛らしい美少女という感じだったが、今の先輩は大人しくて静かな優しいお姉さんみたいな感じだし、しかも実際に会ったわけでもないファンという立場ならば、気付かなくても仕方ないかもしれない。



「でもコレで今回の任務クエストは貰った様なものよね!」


「え」


「だってアラタよアラタ! この世にアラタより上のアイドルなんかいないし、さっきの様子だとダンスも歌も劣化してない!


 むしろ年を重ねて得た落ち着きみたいな感じもあってソーキュートソークール!」


「え、あの、でもぉ、私は、生のステージには慣れてないし……っ」


「そんなの未経験者よりマシでしょ? アラタのステージを生で見られるなんて、FDPのNPCも先行プレイヤーも神に愛されているとしか思えないわねっ」



 生か死かの二択を迫られるデスゲームに参加しているんですがそれは神に愛されているんですかね。



「よし! 練習ももう必要ないわ! 早くミュージアムに行ってアラタの素晴らしさを伝えなきゃ!」


「あ、おい待てって」



 先輩の手をグイグイと引っ張っていくマリア。


 そんな彼女に引かれながら――先輩は、今表情を、俯かせたのだった。

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