新庄璃々那-08
「じゃ、アタシはこれでOK! 次はリリナねっ」
「え、えっとぉ……そのぉ」
目を泳がせて困っているリリナに気付かず、マリアは「ほら早く早く!」と急かす。
「もしかしてココロアラタニの振付知らない? じゃあアタシが教えてあげるし歌詞も全部読み上げてあげるわよ!?」
「あー、そのぉー、それは、大丈夫、何ですけど……」
「何よ歯切れ悪いわねぇ。でもまぁ知ってるならOK、ハイ再生開始ー」
「あ、ちょっ」
「頑張れー」
曲のイントロが始まり、リリナはダンスパートが始まる前に、急いで深呼吸を行い……そして、目を開いて踊り出す。
最初、リリナは「意外と上手いじゃん」程度の感想しか持っていなかったが、次第に小刻みに身体を震わせ、歌唱パートになってリリナが歌い始めると、発狂してコールを入れていく。
たまたま通り過ぎたリッカが近づく。
歌って踊るリリナの後ろから近づき、頑張って練習しているんだなと邪魔しない様にしていると、サビに入る直前マリアが叫ぶ。
「オーッッ!! アラタが最カワナンバーワァンッ!!」
「!!!???」
コールアンドレスポンスの概念が分からず、驚きと疑問によって汗が流れるリッカの事など目に入っていないリリナとマリア。
最後まで歌とダンスをやり切ったリリナが、最後にターンと共に右手の人差し指をマリアに向けて「Ban!」と唱えた瞬間、マリアが「オアアアアアアーーッ!!」と叫び倒れた。
「あ、あの……これ、何が、一体、どうなって……ッ!?」
「サ、サイコー……マジ、サイコー……アタシ、ここで、死ぬ……ッ」
「いや死ぬなよ!? ホント一体何があったんだよッ!?」
思わずリッカがマリアの所へ駆け出した事で、ようやくリリナもリッカに観られていたと知り「ぎゃぴっ!?」と身体を震わせて背中から倒れた。
死屍累々とはこの事かと思いながら二人の体を揺すって意識を確認していると、マリアが先に起き上がってリリナの体を優しく抱き起こすと、彼女の両手をガシッと握り、上手く思考の回ってない頭と口をフル回転させて、喋り出す。
「あ、あの! 璃々那アラタさんご本人ですよね!? アタシずっとずっと貴女のファンでッ! あ、握手してくだしゃいっ!!」
「落ち着けマリア握手は今もうしてる!」
「あ、ひゃい、その、ふぁ、ファンの方と本当にお会いしたのは、初めてで……しょのぉ……わ、私も嬉しかったんですぅ……っ、でも言えなくてごめんなしゃい……ッ」
「先輩もボロボロ泣き出した!?」
「つまりアタシが初触れ合いのファンッ!? ッフゥ――ッ!!(過呼吸)」
「そ、その……わ、私、ホントに、ファンの事、がっかりさせちゃって、ごめんなさい……っ、あの、今の私に、出来る罪滅ぼしがあれば……な、何でもします、なんでもしますから許してください……っ」
何が起こっているのかわからないリッカは困惑するしかない。
そんな彼を放り、二者は涙を流し合いながら首を振り続ける。
「そ、そんなの全然大したことないんですよっ!! 確かにいきなり引退は心臓止まったけど何か事情があったんですよね!?
アタシらファンはそれでもアラタを応援し続ける覚悟を持っていますッ!!」
「ありがとぉ、ありがとぉ……っ」
「あのッ! アタシホントアラタが好きで、まず何より顔がイイ。あ、勿論可愛いから好きってだけじゃなくて、いつもファンをガッカリさせない様に頑張って笑顔なんだってのがわかるその感じがしゅきで、ネットライブの時にマイクで観客の声援を直接聞けるシステムを導入した時なんかはアラタ天才かな? と思ったし最高でした本当にありがとうございますありがとうございます……っ」
「本当にありがとうございます……っ、あの、どの曲がお気にとかありますか……?」
「アタシが一番好きなのはやっぱ璃々色日和で何ていうかダンスの激しさがあってもアラタの可愛さが薄れないバランスが良いというか歌も初心者でも玄人でも聞きやすい感じがイチバンだと思うんですハイホント!」
「い、一旦そこで二人ともストップ!!」
このままではずっと喋り散らかさないと考えたリッカが、間に入る。
するとマリアが今まで見た事無い様な形相で「握手中に割って入るな並べ新参がァッ!!」と叫んできて「誠にゴメンナサイッ!!」と思わず謝ってしまうが、そこでリリナもようやく落ち着いたのか、マリアへ首を振った。
「あ、あの、まずはリッカ君に事情を説明しましょう。いきなりこんなの見せても、初心者は呆然だろうし……」
「その通りですね流石アラタさん!」
鬼の形相をキリッとした表情にコロリと変えたマリアは、右手だけは決して離す事無く、左手でリッカに指さしながら「いーいよく聞きなさい新参がァッ!!」と面倒くさい古参オタクのような事を叫びながら、リリナの正体を明かす。
「この女神こそが、アタシの崇拝する唯一無二のアイドル――璃々那アラタご本人様なのよッ!!」
「そうじゃなかったら困ってたよ」




