表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/246

新庄璃々那-07

 バスラ農村には、広い空き地がいくつも存在する。村人に話を聞くと土地が有り余ってしまっており、現在は非常に土地代も安くなっているという。



「ちなみにこの土地はワシが地主やけど、安くするでぇ移住する時は声かけてな」



 そう言ってくれた老人の言葉をサラリとスルーしつつ、借りる事だけをお願いすると潔く貸してくれたので、マリアはリリナと共に軽く準備運動を開始する。



「さ、リリナ! ダンスレッスンの時間よ!」


「何だかマリアさんが凄く輝いて見えます……」


「え~、そんな事ないわよぉ!」



 否定するマリアだが、彼女の表情は綻んでいる。


 憧れていたアイドルという存在になれるチャンスだと喜んでいるのだろうと分かったリリナは、その場で静的ストレッチを開始する。



「リリナはダンス経験ある?」


「え、えっと……あ、あります」



 下手に嘘をつくと面倒になる可能性もあった為に正直に答えると「へぇ意外ねぇ」とアッサリ受け入れたマリア。



「でも曲とか無いとダンスは不便よねぇ……その辺どうしようか」


『くくくお困りですねぇ~』


「誰だ貴様!」



 突如背後から現れたメイドの姿を確認する前に驚き尋ねるマリアと、事前に姿が見えていたので驚きもしないリリナの対比に、メイドもクスクスと笑った。



『皆さんの強い味方、ランド・メイドですよぉ~。お二人はアイドルを目指しているという事でよろしかったでしょうか?』


「そうよ。何、アンタがアタシらをプロデュースしてくれんの?」


『え~……リリナさんはともかくマリアさんはちょっとぉ~』


「ケンカ売ってんのかおんどりゃぁ!?」


『そうではなくてぇ~、アタシ達メイドはある程度マザーコクーンと通信が可能なので、インターネット上から楽曲データのダウンロード購入と視聴・再生が可能ですよぉ~』


「は、そうなの!?」


『えぇ~。まぁ本来なら有料サービスなんですけどぉ、今は購入ページ等も無いですし、楽曲使用料・配信料金などに関してはグレイズ・コーポレーションに支払いをお願いしましょっかぁ』



 グレイズ・コーポレーションは思わぬ飛び火だなと思いつつも、しかし今回の騒動に関する責任問題もあるし、とリリナは無理矢理納得した



「楽曲って、なんでもいいんですか?」


『一般発売されている楽曲、もしくはインターネット配信等が行われている場合はインディーズ楽曲も可能ですよぉ~』


「あの、じゃあ……『ココロアラタニ』って曲、お願いしても、いいですか?」


「あ、それ璃々那アラタの曲じゃん。じゃあアタシは『璃々色日和』で!」


『はいはーい。アタシ達も璃々那アラタの曲好きですよぉ~』



 マリアとリリナに、一枚の小型チップを手渡すメイド。


リリナへ手渡す際、少しだけニヤリと笑っている気がして、リリナは若干「な、なんでしょぉ……?」と尋ねてみるも『何でもないですよぉ~』とはぐらかされる。



『コクーンの右横に小さなスロットがあるので、そのスロットに挿入すれば、メニューから再生できますよぉ~』



 ではでは~、と去っていくメイド。量子の欠片を見届けた後、二人は言われた通りにチップをコクーンへ挿入する。


メニュー画面を開くと、新たに『楽曲再生』という項目があったので、再生する。



「わ、マジで再生された。しかもハイレゾ音源じゃんコレ」



 専用ヘッドホンも使わずにハイレゾ音源か否かを把握できるマリアは何者なのだろうと思いつつも、確かに聞こえる音楽は音質も良い。


しかもサービスか、カラオケ用のオフボーカル版も用意されている。



「じゃあアタシから踊ろうかなぁ。アタシこれでもダンス習ってたし、アラタの曲は全コピしたわよっ」


「ありがとうございます!」


「何でリリナが礼を言うのか分かんないけどやるわよ!」



 音量調整をした上で、楽曲の再生をやり直す。


再生が開始された瞬間、手を、足を、身体全体を動かしてダンスをするマリアは、確かに美しい。



――だが問題はイントロが終わり、Aメロの歌詞を歌う瞬間だった。


あまりに音痴――否、発音がおかしいのだ。


日本人でも洋楽を歌う時に発音や言葉の途切れが多く見られるように、彼女も必死に日本語の歌詞を歌おうとするも、中々うまく発音が出来ずに、その上で無理をするから音程も外れる。


結果、聞くに堪えない雑音となる。


リリナはダクダクと冷や汗を流しながら、彼女になんて感想を返すかだけ思考している。



「……ふぅっ!」



 満足、と言わんばかりに首を振り、汗を振るい落した上で、リリナに「どう思う!?」とドヤ顔で聞いてくるマリア。



「……最高ですよ、きっと大物アイドルになれます」


「マジ!? やっぱそうよね、アタシもずっと前からそう思ってたのよ!」



 昔見た映画のやり取りを再現してしまったリリナとマリア。


しかしリリナの言葉を素直に受け入れてウンウンと満足げの彼女を無下に出来ない、とリリナは痛む胃を押さえるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ