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新庄璃々那-05

「それでお婆ちゃん、どうしたんですか?」



 リリナがそう話を切り出すと、老婆も「そだったねぇ」と話したい内容を思い出したかのようにして、リリナの事を見る。



「リリナちゃんは、救世主さんなんだよねぇ」


「え、救世主?」


「あー、リリナ。ゲーム内ではアタシ達みたいなプレイヤーは救世主って扱いになんのよ」



 フル・ダイブ・プログレッシブは、プログレッシブと呼ばれる世界にモンスターが現れ、それらを討伐したり村や街の発展に貢献する救世主となる、というのが大筋のストーリーだ。その為NPCには救世主と呼ばれる事もある。



「えっと、はい、一応。でもそんな大した事は出来ませんよ?」


「モンスター討伐とかならアタシやるよ?」


「いんや、そうじゃないんよ。この辺はモンスターもほとんど出ぇへんしねぇ」



 確かにのどかな街だとお茶を飲むリリナと老婆がニッコリと笑い、数十秒ほど時間が経過する。


(はよ話進めろや……)と思っていたマリアだったが、老婆はそこで話が止まっていた事を思い出したのか「そんでね」と言葉を入れる。



「この村さ、どうも若い子が全然おらんくって、このままだと畑の後継者とか全然おらんくなってしまうんよ」


「ええ、お爺ちゃんお婆ちゃん達みんな若々しい人ばっかりですけど、でも若い人がいた方がいいですよねぇ」


「そこでね、若い子ぉ集める、なんかいい方法ないんかって、村の人といっぱい話してたんよ。


 そしたら『ご当地あいどるで村を盛り上げてかんか』って話になったんよ」


「ご当地アイドルですか……そうですね、地元を盛り上げていけば、地元を離れて行ってしまった人や、これから移住する人とかも増えるかもですね」


「でもこの村にはジジイとババアしかおれへんから、集客力全然ないんよねぇ。そこで、リリナちゃんにお願いしたいんだけど」


「? 何をですか?」


「ご当地あいどる」



 沈黙が、三人の間に訪れた。


リリナは首を傾げたまま、汗をダラダラと流して固まっているし、老婆はそんなリリナの事をジッと見据えている。


そして、マリアはその話に目を光らせて、ソワソワとしだす。



「え、それは、その……私が、ご当地アイドルになって、この村を盛り上げる、みたいな……?」


「そう。リリナちゃんはめんこいし、優しいし、いいんやないかって、村の人と話してみたんよ」


「む、むむむ、無理です無理ですっ! 私なんか全然、そんな、アイドルとか出来る器じゃないし……っ」


「お婆ちゃんアタシやるよ!? アタシなら全然OKだよ!?」


「可能な限り報酬も弾もうって話もしとるし、リリナちゃんさえ良いなら、ワシ等も凄い嬉しいんやけんどもねぇ」


「ねえお婆ちゃん聞いてる!? アタシ、アタシならOKだってばっ」


「マリアちゃんはなぁ……」


「どうして!? アタシも可愛くない!? その、メンコイって奴じゃない!?」


「かわいいけんども、ちょっとガサツ過ぎっちゅーか。今あぐらかいとるやろ?


 もっとお淑やかな方がええんちゃうかなぁ、ワシ等もあいどるってよぉ知らんけど」



 マリアの心に突き刺さる言葉。ぐったりと倒れたマリアを放って、老婆が話を進める。



「【ミュージアム】って街で、そういうあいどるさん達が集まるイベント、みたいなもんもあるって言うし、大きな街で村の事を宣伝すれば、若い人も入ってくるんやないかなぁ」


「え、いや、でもぉ……っ」


「お願いできないかねぇ……?」



 困っているような表情を浮かべる老婆に手を取られ、リリナはしばし沈黙していた。


 目を泳がせ、何か断る言い訳は無いものかと探すが、しかし周りには庭、老婆、心を砕かれたマリアしか存在せず、リリナは最終的に、頷くしか方法が無かった。



「…………やりましゅ」


「本当かい? 嬉しいよぉ。あ、くえすとで出しとくね?」


『任務クエスト:ご当地アイドルで村を盛り上げろ!


 達成内容:ミュージアムにてアイドルイベントに参加し、優勝する。


報酬内容:10万マネー+歩合制+アイテム』



クエストが発生する。


 ミュージアムのアイドルイベントに参加すれば自動的にクエストが開始される形となっていると、その時のリリナは気付いていなかった。



「あ、一応マリアちゃんにも出しとくね?」


「うん……お婆ちゃん、アタシも、一応頑張るね……?」



 心を砕かれて涙目になっているマリアを抱えて、さらに自分の頭も抱えるリリナ。


二人は、元々予定していたリングの練習をする事無く、ひとまずリッカと合流して状況を話す事にした。

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