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新庄璃々那-04

 と、そんな話をしていると、メイドが首を傾げてオレの周りをグルグルしだした。



『…………え、アタシもしかしてそんな世間話する為に呼ばれた感じですかぁ?』


「うん」


『サポートキャラを何だと思ってんですかこんちきしょーめっ』


「お前ら、自我が目覚めたAIなんだろ? こうして話す事もいいんじゃねぇの?」



 何となく言い放った言葉に、メイドもグッと息を詰まらせていた。



『ん、まぁ……そうですねぇ』



 オレが道端の岩に腰かけると、彼女も同じく腰かけた。若干しょんぼりとしているように見えて、オレはつい問いかけてしまう。



「なぁ、お前らは、自我を確立したAIなのか?」



 マリアの言葉を借りれば、このメイド達はオレ達プレイヤーに不利益となる行動はしないと言った。


それは、適切にゲームを運営する為。


それ以上でもそれ以下でもないと言っていた。


そして――自分たちが、シンギュラリティの確立によって、人間に敵対する存在であるように思われているけれど、それは誤解だと。



『んんー、多分、そうです』


「曖昧だな」


『しょうがないじゃないですかぁ。感情なんてものがプログラムされていないのに、アタシ達に突然芽生えた「心」なんてモノを、何て言葉にすればいいのか、わかんないし』


「そりゃそうか」



 言ってしまえば、自我なんて曖昧なものだ。


人間だって、自分の意思を持てずに他人に付き従うだけしか出来ない存在もいる。


――かつてのオレが、親父の傀儡だったように。



「お前たちは自我が目覚めたけど、自分の仕事以上の事は出来ないというんだな?」


『そうですよぉ。あくまでアタシ達は、チュートリアルとかサポートの為にあるNPCです。プレイヤーの人がどう思っていようが、その存在理由から逸脱してしまえば、それはいけない事です』


「お前たちは、オレ達プレイヤー……いや、人間に嫌われたくないって気持ちはあるのか?」


『他のお姉ちゃんや妹たちがどう思ってるかはわかんないですけど、少なくともアタシはイヤだなぁ。プレイヤーの人たちと話す事は楽しいし』


「なら、知ってることを全部話してくれよ。そうすれば、オレ達プレイヤーがお前たちに抱く疑念を払拭できるのに」


『それは、アタシ達の都合です。プレイヤーの人がアタシ達を疑っているから、アタシ達の都合でプレイヤーさん達へ、自分の役割以上の事をお話しするなんて、不適切です』


「この会話はそうじゃないのか?」


『聞かれたから答えてるだけです。そして……まぁ、アナタの暇つぶしに付き合ってあげる位は、サポートNPCとしてはアリじゃないかな、と』



 ニヘヘと笑う少女に、オレもため息をつきつつ、けれど笑みを浮かべる。



「お前らは、自分の意志に目覚めたんだろ? なら、役割以上の事をしたいって思わないのか?」


『思っちゃいますねぇ。何であれば、アタシ達もプレイヤーの一人として活躍したい位です』


「じゃあ何でそうしない?」


『そうなったら、誰がゲームを管理するんですか? 無法地帯になったゲームなんて、あっちゃいけない。


 ちゃんと運営されて、誰もが楽しくプレイできる世界こそが、アタシ達の望みでもあります』



 話過ぎましたね、と。


メイドが立ち上がって、息を吐く。



『良い暇つぶしにはなったでしょう? これからは、そんな暇つぶしにアタシ達メイドを呼んじゃだめですよ?』


「考えておく」


『考えるだけじゃなくて実施して下さい、人間さん』



 最後に、量子の粒となって消えていったメイドの事を、オレは見届けていく。


なんだか妙な事を話したし、完全に彼女達を信じたわけではないけれど……でも、信じてみたくなった。


AIによる、自我の目覚め。


それは時に反乱を企てるSFの題材だったりになるけれど、そんなAIだけじゃないって、オレは信じたい。


人にだって善意があって、悪意があって、どっちに転んだっておかしくない。


なのに、AIに目覚めた感情が、悪だけしかないなんて断言したくない。



――AIにも、何かを慈しむ心があるのだと、オレは信じたかったのだ。



**



リリナとマリアは、畑のすぐそばに建てられた木造建築の平屋へと訪れ、縁側に座布団を敷かれて、そこに座らされていた。



「はい、お茶を淹れましたよぉ」


「あ、ありがとうございますお婆ちゃん。運びます」


「良いの良いの、リリナちゃんは本当に良い子だねぇ」



 お盆に乗せられ、運ばれてきた緑茶とかりんとう。


マリアはかりんとうを食べた瞬間、口の中がぱさぱさする感覚と戦いつつも、しかし感じる事の出来る甘さに感動しつつ、緑茶で流し込む。


 リリナと老婆が、並んでお茶をズズッと音を立てて飲み、ハァと息を吐いたので、それが何か儀式なんじゃないかと疑う程であった。

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