新庄璃々那-02
懐かしい夢を見た。
オレ――リッカは目を覚ますと起き上がり、そのまま体を伸ばして体操を始める。
現在いる場所は、アルゴーラからガスラ砂漠を超え、その先にあった一つの村――バスラ農村である。
その名の通り農業が盛んな村で、広い大地に設けられた田んぼや畑が非常に目を引き、村人も多くが老人だった。
宿屋を一度出て、村を見学する。
朝早くから畑整理を行う老人たちが、目を合わせる度にペコリとお辞儀をしてくれたり、中には話しかけてきて野菜や果物を分けてくれる人もいて、何だか嬉しいような、田舎に引っ越してきた若者って感じを味わえて、ホントに複雑な気分だった。
――そんな中、見覚えのある人が、畑から出て来た。
リリナ先輩だ。彼女は籠を背負っていて、中にはミカンが大量に入っていた。
泥棒でもしているのか、と思ってしまったが、先輩はそんな事をするはずがない。
「リリナちゃん、あんがとぉねぇ」
「あ、いえいえ。これ位は」
老婆が先輩の元へゆっくりと歩んでくる。そんな老婆の歩く距離を少しでも縮める為か、駆け寄って手を取った先輩。
「じゃあこれはご自宅に運べばいいんですか?」
「そだねぇ。じゃあお言葉に甘えよっかねぇ」
老婆の手を引き、ゆっくりと歩いていく先輩。
そんな彼女の背中を見据えていると、一人の老人が声をかけて来た。
「アンタぁ、リリナちゃんの男かえ?」
獣人族、と言うべきか。身体にはフサフサとした体毛を備えた人だが、その顔の皺や体毛そのものが脱色してしまっていて、老人としか思えぬ人物に、首を振って否定する。
「いえ、友人……が一番近いですかね?」
「あんなメンコイ女子、ツバつけとかにゃ勿体ないぞ?」
苦笑しつつ、適当に「そうですね」とだけ返答をして、別れる。
随分と距離が近い村だと思いつつ、宿に戻ると、ようやく起きたのか欠伸を漏らしつつ、マリアが宿屋の一階へと降りてきて、用意されていた朝食に手を付けた。
「あむ、リッカはどっかでかけてたん?」
「ちょっと散歩」
「リリナ知らない? 昨日はあの子抱き枕にして寝てたんだけどさぁ」
「迷惑だからやめろって」
とは言いつつも、何だかその光景は守護らねばならないと考えるオレはツクモやエリの思考に毒されているようにも感じる。
オレもマリアと同じ席につき、用意されている朝食を見ると、そこには白米と味噌汁、鮭の切り身、そしてオクラと納豆、温泉卵とどこからどう見ても旅館の朝食と言った様相に、マリアへ「お前コレ大丈夫なの?」とだけ聞いてみた。
「……納豆は、ギリイケる。でもオクラは……っ」
生粋のアメリカ人には珍しく納豆はイケるのか、と思いつつ、オクラをオレへ差し出したマリア。
そしてさらに温泉卵を見て「半熟じゃん!」と叫び「そりゃ半熟だよ」と返すと「ちゃんと加熱してないの!?」と叫び出す。
「いや過熱してあるから安心して食べろ」
「何でそんなチュルンと口の中入れられんのニッポン人は!? 卵って細菌とかいっぱいあるでしょ!?」
「だから加熱処理してるって」
「半熟じゃ信用できねぇってば!」
そう言って温泉卵までオレへ押し付けたマリアに、内心温泉卵は好物だから喜びつつも「しょうがねぇな」と言葉だけ着飾って、今度は米に乗せて割り、簡単な卵かけご飯にして、サラサラと口へ放り込んでいく。
「し、信じられないニッポン人……ッ、く、クレイジー……っ!」
「うん、うめうめ」
と、そんな話ばっかりしていると、良い感じに汗をかいた先輩が宿屋へと戻って来た。
彼女の手には、ミカンとカボチャ、そして生卵が三個握られていた。
「あれ、おはようリリナ」
「あ、おはようございますマリアさん、リッカ君」
「さっきまで畑の手伝いしてたんですか?」
「うん。お散歩してたら、転んじゃったお婆ちゃんがいたから、そのまま流れで……」
顔を赤めてエヘヘと笑う先輩。優しい先輩に癒された老婆の気持ちが、手に持つ戦利品から伝わってくるようだ。
オレ達と同じ席に着き、朝食を前に「頂きます」と手を合わせて、作ってくれた者への礼をする先輩。
彼女は、戦利品の卵を折角だからと机の角で軽く叩き、白米に乗せて卵かけご飯に。醤油を垂らして味を調整し、食べていく彼女にマリアがさらに顔を青くする。
「く、クレイジー……っ」
半熟の温泉卵ですら拒否感を持っていたマリアが、生卵そのままで食べる先輩に驚くのも無理はない。
と、朝食を食べるだけで時間を使っては勿体ない。
「今度についてなんですけど」
「あ、うん」
食べつつ、オレの言葉に耳を傾けてくれる先輩。
「今日一日は自由行動にしようかな、と。それで村の全貌が見えたら、メッセでツクモ達に一度連絡して、こっちに来てもらう事も要検討かな、と」
「そうね、今後どんなモンスターが出てくるにしたって、リングを手に入れておくには損が無いし、いいんじゃね?」