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先行プレイ-04

大型スクリーンに映像が出力される。


映像には、中央に巨大な噴水広場が存在するレンガ造りの街並みが広がっていて、その噴水を起点に、先ほどまでステージで立っていた二百人のプレイヤー達が、降り立った。


一人一人のプレイヤー達は、本当にゲーム世界に来ることが出来たのだと実感する為、その場でジャンプをしたり、噴水に触れたり、中には友達なのか頬を叩き合っているプレイヤーもいた。



新庄先輩も例に違わず、歓喜の声を挙げて周りを駆け巡り、目を輝かせていた。


その姿を見ただけでも、彼女に参加を薦めてよかったと感じられた。



 だがそこで――何か、音声が、会場全体に。


いや、違う。ここだけじゃない。


今まさに先行プレイを楽しんでいるプレイヤー達にも聞こえる音声が、流れた。



〔この音声を聞いているという事は、おそらくこのゲームを起動してしまった者が居ると仮定する〕



 声は、ゲーム音声としても、会場のスピーカーからも聞こえた。


もしやと思い電源を切っていたスマホを起動した所――総務省の使用する緊急速報回線を用いた緊急通信にも、同様の音声データが受信されていた。


 どよめく会場、混乱する岩田、アナウンサーも首を左右に振り、誰かに指示を仰ぐようにしている。


こんな事は台本に無いぞ、と。誰かに説明を要求するとした表情が、この事態の異常さを物語っていた。



〔このゲーム――フル・ダイブ・プログレッシブには、大きな問題が発生している。


 このゲームを稼働させる量子コンピュータ【マザーコクーン】が暴走し、ユーザーログアウトが不可能となってしまったのだ〕



 岩田は表情を真っ青にして、騒めく会場の声や、ステージで走り回るスタッフに紛れるように、奥へと逃げて行ってしまう。


 今まで呑気に座っていた椅子より立ち上がって、プラチナ席の出入り口から行けるスタッフ通路を通る。



〔つまりこのゲームは、一度でもログインをしてしまえば、肉体を現実世界へと戻すことができない、という事だ〕



 岩田を発見した。重たい贅肉の詰まった腹で走りにくそうにしていたが、ハッハッと息を吐きながら裏口を探し、今すぐにこの場から逃げようとしている彼の手を掴み、止める。



〔私はこれから、このゲームの開発者として、このままでは世に提供することは出来ないと、社長に直訴を行う。


 開発の中断、もしくは延期を要求する。だが、こうして君たちがプレイを行っているという事は、直訴を聞き届けて貰えなかった、という事だろう〕



「離せっ、離してくれっ」


「落ち着け社長っ、オレだ、律だッ!」


「え、君は――」



 声をかけたオレの顔を見ずに逃げようとしていた彼を落ち着かせるため、声を挙げた。


岩田はオレの顔を見て、しばし考えるようにしていたが、パッと表情を明るくさせ、跪いてオレの身体を抱きしめた。



「た、助けてくれ律くんっ! このままでは私は、私はっ」


「何が起こってるんだ。アンタ、何か知ってるのか!?」


「それは、それは……っ」



〔今、私はどういう扱いになっているのかな? 死んだ事になっているのか、失踪した事になっているか、それは分からない。


 だが、私は死んでいない。恐らく現在は宇宙へと上がって【マザーコクーン】のエラーを修正すべく行動をしていると思うが――


 この修正も、おおよそ十年程の時間を有すると思われる〕



 答えを出し渋る彼の胸倉を掴み、起き上がらせる。


 苦しい、苦しいと藻掻く姿を見ていても楽しくないはないが、それでも吐いて貰わねば困るのだ。



「わ、私が知ってるのは、このままでは、プレイヤーの安全を、確保できないと、その事だけ」


「海藤雄一からそう聞かされていたんだな!?」


「そ、そうだ! しかし、起こってもゲームのエラーだぞ!? 詫びに貴重アイテムでも送ってやれば、ユーザーは納得すると思って……っ」



〔しかし、更なる問題が一つ。このフル・ダイブ・プログレッシブは、人体を分子レベルに解体し、量子情報に変換。その情報をマザーコクーン内で運用する事で遊ぶことが出来るのだが――


 現代の技術では、一人当たりに割り振れる量子情報の最大保存期間は、約8760時間――つまり一年間だ。


 一年以内に一度でもログアウトしなければ、保存データは削除されるように設定されてしまっている〕



 今聞こえた言葉に、オレはゾワリと、身の毛がよだつ感覚を覚えて、彼の事を掴んだまま、会場の様子を見据えた。


会場にいる観客は叫び、中には先行プレイを行う者の家族や友人だったのか、警備員の静止を振り払ってステージに上がり、スタッフの胸倉を掴んで「どういうことか説明しろよ!」と叫ぶ者が数十人程いる様子が見えた。



〔つまり――私が修正を終わらせるまでに、このゲームをプレイしている者たちは、皆死んでしまうんだ〕



 大型スクリーンに映し出されているプレイヤー達にも聞こえている。


 全員が『はぁ!?』、『嘘だろオイッ!』、『誰か、出して、出して、出してくれ――ッ!!』と叫ぶ者たちの叫びまで、聞こえてくる。



〔このエラーを修正する方法は二つ。マザーコクーン自体の修正を行う事と、もう一つ。


 エラーはゲームプログラムの幾つかと連動している。それは、称号データだ〕



「――アンタ、そのユーザー軽視の考えが、どれだけ被害を生むか、分かってんのか!?」


「だ、だってゲームだぞ!? こんな事になるなんて、思いもよらないじゃないか!」


「海藤雄一の開発したアレを、しっかりと資料を読んで確認したのかよ!? 一つでも重大な問題が発生すれば、ユーザーがどれほど危険に晒されるか、想像できなかったのかよ!?」


「資料なんてこの現場に来る時にしか読んでないよ――ッ!!」



 歯を食いしばり、思わず出てしまった拳が、岩田の頬にめり込み、近くにあった三角コーンや仕切りに向けて、彼の身体が飛んだ。


だが、そんな奴になんか構っている暇はない。


今は少しでも、情報が欲しい。



〔どの称号とエラーが連動しているかは、この音声を残している間には調査する事が出来なかった。


 分かっていることは――称号は全部で五千個存在し、その内の五つという事だけ。


 見つける事さえ出来ればエラーは解除されるので、プレイヤー同士で称号を取得しあって構わない〕



 称号とは、ゲーム内に設定された特定行動を起こす事で得られる、一種のやり込み要素だ。例えば「初めて敵を倒す」だとか「特定の敵を百体倒す」とか。


だが、それを五千個作りあげた海藤雄一にも驚きだが、その内エラーの発生している五個がどれか分からない、という事が難点だ。



〔もしこの場にいるのであれば――【リッカ】。


 君が、今回の処理に当たってくれることを、切に願っている。


皆どうか、無事であってくれ〕

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