ミュージアム【彩斗とミサトの家】にて-01
九十九任三郎――ハンドルネーム・ツクモが、ミュージアムにて建てられた、彩斗とミサトの自宅へと招かれたのは、ゲームが開始されて五日目の事だった。
到着後、ミサトと久しぶりの雑談を二分ほどした後、ソファに腰かけていてくれと命じられる。
普段彼女と相対するように胸ポケットに入れている録音機とメモ帳を探しそうになったが、現在はFDP内であるので、頭を振って現実とFDPの違いを思い出し、そのまま待つことにする。
待つ事二分。
そこには、随分とラフな格好をした女性が、ミサトと共に現れて、ツクモは思わず立ち上がる。
「彩斗は、女性だったんすわぁ?」
「ええ、お初にお目にかかります。私は三星彩斗だ」
「九十九任三郎ですわぁ」
軽い握手と共に、掛けて下さいと言われて、再び腰かける。
対面に掛ける形で彩斗が座り「さて」と言葉を先においてから、話始める。
「その様子だと、リッカ達から私とミサトについて詳しく聞いていないようですね」
「その時に話した内容を少し聞いた程度っすわぁ」
「ふむん、リッカやマリア、あのリリナという少女の性格上、リッカとマリアを攻略組に誘った事くらいだね?」
「その通りですわぁ」
「ちなみに今回、ツクモさんをお呼びした理由、わかります?」
ニッコリと笑いながら尋ねられるので、恐らく正解を求めての事では無いと悟ったツクモは、ひとまず「さてわからないっすわぁ」と先に言いながら、今ミサトの淹れてくれたコーヒーを頂く。
「しかし、フレンド登録もしていない貴女から来た連絡でしたからなぁ。……何か、システムの穴でも見つけたんすわ?」
「穴……そうだね、穴だ」
「それを、なぜリッカ氏やマリア氏ではなく、自分に告げるんですわぁ?」
「このゲームに参加している面々で、一番の大人がツクモさんでしたから。……これは、下手に情報を回すべきではないと判断した」
「あのメイド達に対処される危険性があるから……すわぁ?」
「いいや。私も最初はそれを疑ったが、あのメイド達は、あくまでこのゲームの正常運営を目指しているに過ぎないと仮定している。
勿論警戒はしているがね。ちなみに私はオンド・メイド推しだ」
「自分は全推しっすわぁ。と、話逸れると面倒ですわぁ……で、どうしてそう思うと?」
「それは、彼から聞けばいいさ」
コクーンを、五回連続でタッチした彩斗。
そして、そうすると何時ものメニュー画面ではなく――緊急通報用画面が姿を現し、音声データのやり取りが始まった。
『そこにいるのは、九十九さんかい?』
「……海藤、雄一……!?」
『ああ良かった、今は良好だね。前回彩斗と通信した時は随分と通信状況が悪かったから』
相手の声は、ツクモが何度も相対した事のある人物――海藤雄一の声に他ならない。
驚きのあまり、語尾を付ける事すら忘れ、思わず言葉を漏らしてしまう。
「通信が出来てる、という事なのか?」
『一回に付き三分と短い時間ではあるし、こちらから送信する事が出来ない通信だけどね』
「今、貴方は何をしているんだ? 状況を理解しているのか?」
『私は現在マザーコクーンでのエラー解消を目指して行動している。しかしそれはいいだろう。それより、一度通信すると五日間連絡できないんだ。早く本題に入りたい』
「それはなぜ」
『後で彩斗に聞いてほしい。――私は、現在このエラーを発生させている原因は、AIではなくフル・ダイブ・プログレッシブという世界そのものに生まれた感情であると推察している』
「それは、AIに自我が生まれるように、FDPという世界そのものが、シンギュラリティへの到達を果たし、感情を得たという事、なのか……?」
『そうであると考えている。そして、こちらからコンタクトを図って、概ねその考えで問題は無いだろう事が分かった』
「だが、だからどうしたという話になるのだが」
『そうかな。例えば――このエラーを引き起こしている要因となっているFDPのデータが、自我のデータを自身の世界に投影させて、いちAIとして、君たちの世界で走り回っているとしても?』
何を言っているのか、最初は理解できなかった。
しかし、顎に手を当て、思考し、そこで思いついた事を尋ねる。
「……その、エラーを起こしたデータが、NPCに混じってFDP内にいる、と聞こえたのだが」
『その通りだよ。まぁ、どのNPCなのかは解明できていないがね』
「例えば、そのNPCを倒す事が出来れば」
『いや、それは短絡的だな。しかしエラーを引き起こした要因を見つける事が出来る可能性はある。そのNPCデータを僕が解析すればいいんだ』
「そのNPCがメイドという可能性は」
『捨てきれはしないが、ログデータを追っている限り違いそうだ。あくまで彼女達は自我が目覚めたAIに過ぎず、ゲームの運営を滞りなく行おうとしているだけに過ぎないと思われる』




