マリア-09
振り返り、今まさにオレへと向けて走ってこようとするレアルドス。
先輩は急ぎ立ち上がり、レアルドスの背を追いかけるように走った後、オレへと手を振り、叫ぶ。
「り――リッカ君、コレッ!!」
手にあるのは、小さな宝石。
そしてそれを――ブン、と強く振って、投げた。
コントロールが思いのほかよく、それはオレの手に収まった。
それが何かを確かめている暇はない。急ぎ先輩からアイテム譲渡の手続きを終わらせたオレは、その宝石を――リングへとかざした。
〈Progressive・ON〉
流れる機械音声。天高く放り投げられる宝石。
そして――オレは、今まさに眼前へと迫るレアルドスへと両腕を突き出し、それに触れる寸前、叫ぶ。
「プログレッシブ・オン――!!」
身体に纏われる、赤一色の装甲。
腕部、胸部、腹部、脚部と覆われている内に、オレへと体当たりを見舞ってくるレアルドス。
しかし、耐える。
熱に耐え、衝撃に耐え、そうしている内に、頭部にも装甲が展開されてバイザーが下りた瞬間、レアルドスに向けて強く頭を突き出した。
ゴウンと響く音が鳴る。
しかしそれだけで吹っ飛んだレアルドスを見届けた後、全身の装甲と装甲の隙間から、一斉に水蒸気を放出した。
〈Progressive・Fire・Active.〉
この姿は――プログレッシブ・フレイム。
【灼熱のアイコン】を用いて変身を遂げた――戦士の名だ。
両足を開き、腕を引き、ただ走る。
スピードはプログレッシブ・スピードに劣るものの、しかしその身に宿る灼熱が、今まさに殴りつけるレアルドスの熱を感じさせない。
その腹部に向け、ただ拳を二撃、下から叩き込み、右脚部を突き付けて、天高く蹴り飛ばす。
地面を蹴って、オレもまた空高く舞うと、そのまま身体を空中で一回転させて、踵落としを決め込むと、ゴズンと重い音を響かせながら、レアルドスが落ちた。
しかし、まだ生きている。
ならば、どれだけでも叩き込んでやる!
『行くぜッ!』
着地したオレ、起き上がるレアルドス。
その重たい腕部を振り、走ってくるオレへと向けて振り込まれた一撃に、オレも拳で殴り返す。
せめぎ合う拳と拳。
互いに弾かれる様にしたが、しかし今度は左拳を強く握って、互いにまた振り込む。
今度は左脚部を、右脚部を――そうして力比べをしていると、レアルドスは痺れを切らしたように、地面を蹴り、跳んだ。
踏みつぶす。奴の動きには、そうした意図が感じられた。
避ける事は容易い。
だが奴と同じ土俵で倒せなくて――何が天才ゲーマーか。
『マリアが向こうで頑張ってんだ。――なら、オレも止まれない』
右足を引き、力を籠める。
轟炎が収縮していく感覚。一気に高まる熱を押し留め、オレもレアルドスに続いて、空を跳ぶ。
レアルドスの脚部が、眼前に迫る。
しかし、空中で体を回転させたオレは、右脚部を突き付けて――ただ、突っ込んでいく。
辺り一帯の砂を吹き飛ばすように感じられた。
それ程の衝撃が二者の間にはあり、オレも右足に感じる圧力を受け、思わず膝を曲げそうになってしまう。
――だが、そんなオレの心を、励ます存在が、もう一人いる。
「リ――リッカ君、頑張ってッ!」
何てことない応援。
けれどそれは、オレの尊敬する、新庄璃々那という女性から、オレに向けた最大の鼓舞。
ならば、その言葉に、応えなければならない。
ここで応えられなければ――オレは男ではない。
『プログレッシブ――ラスト・アクションッ!!』
脚部に纏われる炎が全身を覆い、オレの背中から放出される。
それが噴射剤となり、速度と威力を増した攻撃に、レアルドスの脚部が僅かに、歪んだ。
ベコ、ベコベコベコ、と装甲が歪んでいく光景を見届けながら、オレは最後の一押しとして、左脚部もついでに突きつけた。
結果、レアルドスは爆散し、オレは爆風を突き抜け、そのまま勢いを保ったまま、しかし重力に従って落ちていく。
着地し、でも衝撃が殺しきれず少しだけ滑りながら、オレは岩場まで着地する。
『N.0061〔【装甲獣レアルドス】を一体討伐する〕』
称号獲得を確認。そして目の前を見ると――岩場の天辺に、祭壇の様な物と共に置かれる宝箱が見えて、それを開く。
中には、今纏う灼熱のアイコンと共に【技術のアイコン】というアイコンが納められていて、おそらく鍾乳洞側にも同じアイコンがあって、先輩がマリアに命令され、オレへ届けてくれたのだろうと分かった。
「リッカくーんっ」
手を振りながら、オレの勝利を喜んでくれる先輩。
彼女の姿を見ていたら、何だかオレも嬉しくなって――リングを外し、変身を解き、今再び手に収まったアイコンを握りしめる。
「……ありがとう、マリア」
今は目の前にいない少女へ、小さなお礼を述べる。
オレへと賞賛を送ろうとしてくれている、先輩の元へと行こう。
そして先ほど礼を述べた少女の元へ行き、共に賞賛を送り合おう。
――勝利を祝うのは、一人だけじゃ寂しいから。




