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マリア-08

さて。困った事になったぞ、と誰も聞いていないのに呟く。


オレことリッカは、日陰になっている岩場に隠れながら、ブシュウと水蒸気を放ち、駆動音を響かせるそれに視線を向ける。


先ほど表示された称号はこうだった。



『N.0060〔【装甲獣】レアルドスを発見する〕』



 それは、全身を銀の金属で覆われた、二足歩行の何かだ。


単純に人を三倍ほどの大きさへと肥大化させ、金属によって包まれた何かかと思ったが、先ほど襲われた際に一発殴ってみると空洞すら感じさせない感触から、恐らくは皮膚の代わりに装甲が纏われているのだろうと予測できる。


変身して倒す事も考えたが、しかし駿足のアイコンで変身できるプログレッシブ・スピードでは、あの堅い装甲を破るだけのパワーを与える事が出来ない。



『みっともない姿してますねぇ』



 そんなオレの隣に座り、ニヒヒと笑うメイドの一人。ため息を付きながら彼女の口を塞ぎ、岩場の奥へと走ってレアルドスと呼ばれるモンスターより逃げる。



『きゃーっ、うら若きメイドが、若さ溢れる男の子に襲われるーっ』


「ちょっと静かにしろメイド。ちなみにお前は何メイドだ」


『あ、私ヲンド・メイドです』


「ウォンド?」


『ヲンドです! ワヲンのヲ!』


「紛らわしいな……で、何の用だ。呼んでないぞ」


『チュートリアルですよチュートリアル。じゃ、行ってらっしゃーいっ!』



 背中を強く押され、岩場から姿を無理矢理出されたオレ。


 そしてそんなオレの足音を聞いてか、レアルドスが振り返り、装甲と装甲の隙間より漏れる水蒸気を、一斉に蒸かす。


ボシュゥウ、と奏でられる音が、そのモンスターの咆哮なのだろう。


それは、歩くたびにガチャンガチャンと音を放ちながら、しかし重々しい印象の装甲姿からは想像できない程に早いスピードで追いかけてくる。


辛うじて、変身をしていないオレでも逃げる事が出来る程度ではあるが、しかしこのままでは追い付かれる。


逃げつつ、俊足のアイコンを取り出したオレは、それをリングへとかざそうとしたが、しかし瞬間、腕部を突き出したレアルドスが――何と腕をオレへと向けて飛ばして来たのだ!



「ロケットパンチ!?」



 反射的に横っ飛びした瞬間、駿足のアイコンを持つ左手にロケットパンチがかすめ、落としてしまう。


拾おうにも、今まさにこちらへと向かってきている本体と、背後から射出口へと戻ろうとするロケットパンチに挟まれる形となってしまう。


身をしゃがませつつ地面を滑る形で避ける。しかし、今レアルドスがオレの元へと走って来た影響で駿足のアイコンを見失ってしまう。



『あぁ! アレは【装甲獣】レアルドスです! 五百年前、リングを持つ英雄によって討伐された筈の、機械生命体がなぜこんなところにっ!?』



 わざとらしい演技口調でメイドが説明を開始する。



『このガスラ砂漠には、奴を倒したリングとアイコンの力がある筈なのに、一体どこに!? リッカさん、どうか見つけてくださいっ! それが奴を倒す方法ですッ!』



 と、そこまでをまるでヒロインかのような悲壮感溢れる表情で言っていたのに、二秒後にはケロッとした表情に変わり、オレへ手を振って来た。



『はぁい、てなわけで、この岩場のどこかにリングとアイコンが隠されてますので、是非見つけてくださいねぇ』


「おいちょっと待て! リングって」


『あ、後ろ』


「っ、!」



 まさに、後ろから腕を振り上げて突き出してきたレアルドスの右腕を辛うじて避けたオレは、焼ける鉄板かと勘違いする程の熱を放出する装甲に、思わず「あっつ!」と飛び退いてしまう。


いや、それが正しかった。今まさに全身から熱を放出したレアルドス。あの真っただ中にいたら、蒸し殺されていたかもしれない。


死ぬ時の痛みはそう大したことは無いけれど、それでも死ぬ時にフッと意識が飛ぶ感覚は、そう簡単に味わいたいものではない。



「くそっ」



 とにかく逃げて、メイドの言っていたリングとアイコンを探さなければならない。


 リングはあるけれど、それにしたってアイコンは重要だし、何よりオレが所持していた駿足のアイコンは行方不明だ。


走りながら、宝箱を探す。けれど背後から迫ってくるレアルドスの熱と、太陽から放たれる熱の二つによって、オレの体力は限界に近い。水が欲しいけど、飲んでいる暇がない。



と、そんな時。



レアルドスの動きが、止まった。



思わずオレも足を止め、観察する。


それは、オレがやってきた岩場と岩場の間にある道を見据え、そちらに向けて走っていく。


チャンスかと思いはしたが、しかし背中にゾワリと感じる嫌な予感が。


そして、レアルドスを追いかけて、その先を見ると――



今、新庄璃々那先輩が、尻餅をついて、レアルドスの接近に恐怖する姿が、見えてしまう。



思わず、手に持った岩の一つを、全力で投擲する。


ゴウンと音を奏で、頭部に当たった岩の放たれた下――つまりオレを見たレアルドスが、まるで怒るように、再び水蒸気を放出する。



「その人に手ェ出すなよ。……オレの、憧れだ」

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