マリア-07
「リングはそもそも、その一つだけを使用して戦う事を想定してないの? 例えばアタシのウェポンガンとリングが共存したのに、リッカはそれ単体で武器として使ってる」
『リングの使用方法は二つです。一つはリングを「パワーアップアイテム」として使用する方法と、もう一つは「リングによる変身」を武器として利用する方法です。リッカさんは後者、そして現在のマリアさんは前者ですねぇ』
「じゃあ、例えばリッカがこれから別の武器を装備しても、リングはそのまま使用可能になるって事?」
『ええ。ですが……これは少しサービスなのですけど、それでは、リングを武器として使用している計算になりません。もし武器の使用回数における称号獲得を目指している場合、リング以外の武器を装備したら、その武器の使用計算として処理されます』
思わず、アタシが訝しんだ表情をしてしまったからか、メイドは笑いながら『信じて下さいよぉ』と言葉を続けた。
『アタシ達だって、あなた方が称号を獲得する為にこのゲームへやってきた事を知っています。だからこそ本来ならどんな称号があるか隠さなきゃいけない立場なのに、あなた方へこうして情報をお話してるんですよぉ?』
「アンタら、ホントに何なわけ? アンタらは、何が目的?」
『勘違いなさってるんですよ、リッカさんもマリアさんも。アタシ達メイドは、確かに皆さんから見たらシンギュラリティの確立によって人類に敵対したAIと思われるかもしれません。しかし、もしそうだとして、そんな事をしてもアタシ達に何の得があるというんです?』
「わかんないから聞いてるんじゃん」
『アタシ達は、人類の味方でも、敵でもありません。
――ただ、この世界はゲームの世界です。
決められたルールに則り、決められた世界観に適した遊び方を皆さんに提供する。ただそれだけの事ですよぉ』
笑顔を消し、真っすぐにアタシの目を見て言ったコイツの言葉を、信用するわけではない。
けれど、少なくとも嘘をついているのかがわからない今、実体も無く捕らえる事も出来ない奴に、尋問しても無意味だと思ったから、ため息を溢しつつ、頷く。
「……分かった。また詳しく話を聞くかもしれないけど、今はいいわ」
『ご許容頂き感謝ですよ感謝っ』
「ご許容って」
『だってご理解は頂けてないでしょう?』
その通りだ。苦笑と共に、質問を続ける事にする。
「これから別の村や町に行ったら、リングは売ってんの?」
『いいえ。リングはここで手に入れるしか方法はありません』
「は? じゃあコレからここを通る奴は手に入れる事が出来ないってわけ?」
『そんなわけないじゃないですかぁ。リリナさんの装備品にはリングが既に入ってます。貴女が手に入れた事によって、彼女も所持要素は満たしましたからねぇ』
「リッカは」
『彼の場合はまた別イベントが発生します。――というより、今その別イベントを消化中です』
前に出した掌から、何やら映像の様なモノが出力される。
岩石を走り回るリッカの姿が見えたが、しかしマリアは気にする事なく話を続ける。
「つまり、こっちを通ってもあっちを通っても、同じようなイベントが発生して、そこでリングが手に入るって事?」
『ん、まぁそういう事なんですけど……助けに行かないんですかぁ? 別に、それは規定違反でもありませんから咎めませんよ?』
「アイツの所にはリリナを向かわせてるし、そうでなくとも、今みたいなステージでアイツが負ける事なんてあり得ないっての」
『信用してるんですね。人間ってホント、面白いです』
「でもさ、気になったんだけどアイツがこっちに通ったら今のイベントやらないの?」
『あー、それなんですけど。あっちにも別に鍾乳洞に繋がる入口があって、そこから通るとここの先で合流できるんです』
「二択式になってて、どっちか片方だけ観られるイベント、みたいな?」
『ええ。もし片方をプレイしてもう片方をやろうとしても、別にイベントは発生しません』
「でもそれって称号獲得に差が出るんじゃないの?」
『問題ありません。その辺はクエストやら野良モンスターで別々に討伐可能ですし、イベントを閲覧する事で発生する称号はありませんから。そんな事を言っちゃうとレイドボスに参加できなかった人は皆差が出ちゃうじゃないですかぁ』
まぁそれは確かに、と納得してしまったので、最後に聞きたい事を聞く。
「アタシとリリナ、リッカは同一パーティ扱いになってんのよね?」
『ええ。正確にはマリアさんとリリナさんの二人パーティ、リッカさんは単独パーティ扱いです。岩石場と鍾乳洞に入った時点でのパーティが認識されています。なのでマリアさんがこのイベントをクリアしたので、リリナさんにもリングが行っている、って事ですよ』
「例えば後々ツクモとかエリとかカーラがこのダンジョンに入っても」
『お三方はそれぞれのボスと戦う事になります。そしてそれに同伴している場合、既にクリアしていてもイベントを再度閲覧する事も可能ですねぇ』
なるほど、と納得し、アタシは今の段階で聞きたい事は聞けたと納得。
「じゃ、また呼ぶかもしれないけど、ゲームの根幹に関わる事を今後教えてくれることはあんの?」
『気が向いたらって所でしょうかぁ? 今回は、随分とアタシ達メイドが嫌われてるって思ったので、名誉挽回の為にサービスです』
「嫌われたくないんだったら全部釈明してほしいんだけど」
『んー、考えておきますねぇ』
それだけ答えて消えていくメイドを見届けて、アタシは先に進む。
リッカとリリナは、必ず来る。
それを信じる必要は無い。
何せそれは――当たり前の事だから。




