マリア-05
『ああ! あれは【岩石獣】ガルトルスです! アレを倒すには、リングの力が必要と聞いています!』
思わず、口を開く。
「何よそれ! リングって、最初の武器選択で選ばないと二度と手に入らないんじゃないの!?」
『ああ、でもリングを持っているモノがいないのでは、どうすればいいのでしょう!』
白々しい、と思った時には、既にガルトルスが行動に移っていた。
腕を振り上げたのかと思いきや、その体を覆う岩を振り、投げて来たのだ。
思わず、身体が竦みそうになったけれど、しかしリリナがアタシの身体を引っ張って伏せてくれたおかげで、頭上を通り過ぎ、やり過ごす事が出来た。
『そういえば、確かガスラ砂漠の鍾乳洞には、五百年前の戦争で作られたリングが納められ、ガルトルスが護っていると聞いたことがあります!』
急ぎ、その場を離れると再び突進を仕掛けてくるガルトルス。
そして、メイドから語られた言葉を聞いたアタシは、ガルトルスの現れた先を、見据える。
行き止まりではありそうだったが、しかしそこに――一つの宝箱。
そこへ行くには、ガルトルスを振り切っていくしかない。
『……てなわけなので、これでチュートリアルは終了ですよーっ、ご武運をお祈りしますねぇ!』
消えてしまうメイド。けれどそんな奴の事を気にかけている暇はない。
アタシは、冷や汗を拭いながら、手を握るリリナに、小さく言葉を投げる。
「アンタ、しばらく一人で逃げてられる?」
「え」
「アタシが、突っ込む」
答えを待っている暇はない。
リリナの手を放して、真っすぐにガルトルスへと向かっていく。
馬鹿正直に突っ込んでくるアタシの事を、それはどんな風に認識したか。
それは分からない。
けれど、ガルトルスは咆哮と共に身体全体を震わせ、全身の岩石を、一斉に放出した。
一度宙に浮かんだそれは、しかし重力に従って落ちてくる。
リリナに目をやりたかったが、けれどこっちも余裕はない。
――そのまま、スライディングで、ガルトルスの足元へ、滑り込んだから。
その短い足と足の間をすり抜け、岩石の無い、腹を目にやる。
コイツは、岩石獣という名の通り、ケモノなのだろう。
つまり、岩石そのものではなく、生物だ。
なら必ず、防御の薄い場所があるとして、それはどこだろうと考えたら、目に見えないここしかない。
すれ違いざま、銃弾を三発撃ち込んでやる。
「弾丸をプレゼントしてやるッ!!」
そうすると僅かにうめき声をあげたガルトルスと、そんな奴の足元を通り抜け、転がったまま宝箱のある場所までたどり着いたアタシは、乱雑にそれを開け放つ。
小さなリングが一つと、供えられた赤と蒼のアイコンが。
『それです! そのリングを指につけて、アイコンをかざして!』
メイドの声が、背後から聞こえる。
どうせ、笑っているんだろう。
しかし、そんなのを確認している暇はない。
アタシはこれから――コイツを倒さねばならないんだ。
リングを右手の中指に。そして雑に掴んだ蒼のアイコンをかざす。
〈Progressive・ON〉
機械音声と共に、アタシはそれを指で弾き、宙へ浮かべる。
そして、叫ぶのだ。
「変身……っ!」
アイコンは空で溶け始め、アタシの身体を包む。
しかしリッカの様に全身を包むわけではなく、それはアタシの腕と両足に装着された。
蒼色の装甲。所々に存在する小型の噴出口から、水蒸気がブシュッと放たれた事により、変身が完了したのだと実感する。
〈Progressive・Gun・Technic.〉
手には、先ほどまで装備していた銃がそのまま存在する。
もう一個の赤いアイコンも掴んで持ち、ウェポンガンのアイコン装填口に入れ込んだ。
「リリナ、下がって!」
叫ぶだけ叫んで、アタシは地面を蹴り、そのままガルトルスへと向かっていく。
アタシの身体ではないんじゃないかと感じる程の疾走感。
流石にリッカが変身した駿足程ではないが、しかしそれでも、この足が遅いウスノロを相手にするには十分だ――!
突っ込むと同時に、踏み込んだ左足とは逆の右脚部を振り込んで、固い岩肌に蹴り込むと同時に、ウェポンガンを構えて、撃つ。
普段の銃弾とは違って、何やら高熱の様なモノをまとった銃弾が射出されると、それが装甲を焼いていく。
動きを止めたガルトルスを放って、アタシがリリナの元へ。
リリナは目をパチクリさせた後、アタシが差し出した赤のアイコンを見て、首を傾げた。
「リッカの元へ行って! コレを届けて!」
「え、あの」
「早くっ!」
アタシが急かすと、リリナは頷いてそれを受け取り、来た道を走り、戻っていく。
そして彼女が行った事を確認した後、アタシはガルトルスと向き合って、銃を構えた。