マリア-03
ガスラ砂漠は、砂砂漠の一種でサラサラとした砂が多く、服や靴の間を入ってくる細やかな粒が若干気持ち悪い。
けれど、思っていたほど暑さは酷くない。いや勿論暑いんだけど、基本カラっとした暑さなので日陰を中心に歩けば湿気を感じる事は少なく、そほど大した弊害にはなりえない。
むしろ、先輩が若干肌を痛めそうだった。肌が所々出ている服装なので、オレは予め購入していた布を先輩の肩にかけ、オレとマリアは元々着ていたマントや服をそのまま肩掛けする事で、太陽のジリジリとした熱を防いでいた。
……黒いから熱を集めるが、まぁ仕方ない。
「ふと思ったんだけどさぁ」
「ああ」
「某RPGで、飛行船ってあるじゃない」
「あるな」
「あれ最初から使えないかなぁと思ってたのよね」
「ストーリー進めてようやく使えるな」
「でも四倍速移動よ四倍速。CPUのバグを利用して四倍速実現するって、今考えるとヤバいわよね」
「それと似たような事雄一さんもやってたけどな……」
「お二人が何を言ってるのかわからないけど、多分ゲームの話なんだろうなぁ」
古き良きRPGの話をしつつ、日光を避ける為に日陰に移り、予め多めに購入していた水を口に含んで、また移動。砂漠では喉が渇いていなくても水は口にしていた方がいい。
「あ、あれじゃない?」
一面の砂原に、ごつごつとした多くの岩が見えた。岩の奥には洞窟へと繋がる入口があって、近づいてみると涼しい風が奥から流れ込み、熱風と冷風のダブルパンチに変な気分を感じる。
このまま先を進めば村があるという情報がある以上、ここを進むのが正解なんだろうけど……。
「マリア、先輩を連れて先に行っててほしい」
「何でよ」
「ちょっとオレは、砂漠の向こう側まで行ってくる」
反対側の岩山。グランドキャニオンっぽい感じの岩場と、挟まれる様に存在する道を指さすと、先輩が「一人は危険だよ!」と止めてくれた。
「海藤雄一が、こっちの鍾乳洞にアイテムを配置してない場合を考えてって事?」
「砂漠の奥、としかなかったからな。どこにあるのかがわからない以上、探し漏れはなくしたい」
「二手に分かれる理由は?」
「単純にリスク分散が目的。もし仮に何か問題があっても、二人が村につけば、それだけで情報収集という面では役に立つ」
それと、もし仮にここで死んだ場合、どこでコンティニューできるか気になっている、とは言わない。またマリアを怒らせる可能性があるし、そう簡単に死ぬつもりもない。
「念のため聞くけどさ、もし仮にアタシらが村についたらどうすればいい?」
「任せる」
「……了解」
マリアは、先輩の手を引いていく。
「ちょ、ちょっとマリアさんっ」
「行くのよリリナ。……大丈夫」
その言葉だけ聞こえて、オレは翻して、反対側の岩場へと向かっていく。
**
リッカと別れたアタシとリリナは洞窟の先を進んでいく。僅かに水の音がする事、そして風の通りからしてこちらだとする方向を進んでいくと、恐らくダンジョンとして配置されたのであろう僅かな灯りが洞窟内を照らしており、その明かりを辿っていく。
「あの、マリアさん」
「なによリリナ。こんな狭い所でモンスター出たらヤバいし、アンタも臨戦態勢は崩さないでよ」
「いえ、ならやっぱりリッカ君を手伝うべきなんじゃ」
「アンタ、状況分かってなさすぎ。――危険なのはこっちも同じなのよ」
広い空洞まで出た。岩場にリリナを座らせ、少しだけ休憩する。カーラに渡された弁当を開けて、中に入っていた小さなサンドイッチをリリナへ渡して、私も一口で頬張った。
「いい? 確かにリッカが行った道に何があるかはわからない。けどね、こっちの鍾乳洞だって、何がいるかもわかったもんじゃない。
正直二手に別れようって言われた時、アタシャ『アンタもこっち来なさいよアホ』って思ったわ」
「じゃ、じゃあ何で止めなかったんですか!? 例えば村に行って安全確認してから、準備して向かうとかもできた筈じゃ」
「アイツ、あのメイドを警戒してんのよ」
「え、メイドさんたちを、ですか?」
「アタシも、多分アイツも――このFDPでエラーを発生させてるバグの大本は、メイドたちなんじゃないかって睨んでんのよ」
少々飛躍し過ぎているかもしれないが、あながち間違いでも無いと思う。
本来こう言ったゲームの運営は、企業による運営スタッフによってなされる。
である筈なのに、このゲームは『ゲームとしての運営をしっかりと行えている』のだ。
そう、行え過ぎている。
レイドボスがどうとか、街にいるNPCのAIレベルが高いとか、そんな事は正直些細な事だ。
エラーが発生し、制作者である海藤雄一ですら管理しきれていない状況で、あのメイドは至る場面に登場し、このゲームをゲームとして成り立たせる運営を可能としている。
そんな中、海藤雄一からリッカ宛に送られたメッセージを、メイドは『本来あり得ない挙動』として、削除した。
確かに、本来あり得ない挙動ではある。
けれど、今こうしてログアウトも出来なければリングという武器の使い方に碌な説明も無いという、運営の管理無しに破綻したゲームを、辛うじてゲームとして成り立たせているのは、誰だ?
そう、あのメイドだ。




