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先行プレイ-03

 最寄り駅で降りて、移動を開始する。


グレイズコンサートホール会場に辿り着いたオレ達は、先輩の用意した披露会のチケットを渡し、入場する。


オレ達の席はステージを一望できるプラチナ席と呼ばれる特別な場所で、先行プレイヤーとして招待を受けた先輩がどれだけVIP待遇を受けているかもわかる。


 しかし――正直、周りにいる面々は、知る人がいれば興奮冷めやらぬメンバーであった。



日本全国の有名な動画配信者達、e-sports界で有名なゲーマー、更にはゲーム好きで知られる政治家や俳優までがいる始末だ。



そんな中にオレ達のような一般市民が紛れ込むのは非常に居心地悪く感じるも、先輩は世間ズレが激しく、政治家や動画配信者たちは分からなかったそうで。


唯一分かった俳優も「えっと……確か……映画で見た気が……」と言っていた程度で、ファンでもなんでもなかった。


先行プレイヤーに選ばれた人数は二百名。それだけ多くの参加者を決めるのも大変だったろう。



「……あれ」



 その内の一人――ゲーム実況等で収入を得ている有名配信者・RINTOが、オレ達へ視線を向けて来た。



「ねえ君。もしかして――リッカ?」



 オレの事をリッカと呼ぶRINTOに、オレは首を振る。



「違います」


「あ、そう? ゴメンね、人違いだった」



 それだけの会話をした後、RINTOは新庄先輩に笑顔で手を振って別れる。ファンサービスが売りのRINTOだが、ファンでも何でもない先輩からするとチャラい人にしか見えなかったかもしれない。



「雨宮君、リッカって、誰?」


「昔、天才ゲーマー【リッカ】って子供がいたんですよ。もう引退してますけどね」



 短く答えて、イベントが開始されるまで待つ。その間に、イベントスタッフが先行プレイヤー全員に声をかけ、腕時計型デバイス【コクーン】を渡していたので、先輩もそれを受け取り、オレにも見せてくれた。


その名の通り、繭のような形をした金色のデバイスだった。腕に接触する面全てに生体認証システムが導入されているらしい。


それを先輩へと返した所で――イベントが始まり、全員が席についた。



『これより、次世代型オンラインアクションゲーム――【フル・ダイブ・プログレッシブ】の完成披露会、及び先行プレイ会を開催いたします!』



 会場内に響き渡る拍手と共に、オレも先輩も拍手を行う。


 司会を務めるどっかのTV局アナウンサーが『まずはグレイズ・コーポレーション代表取締役社長、岩田岩治様に、お越しいただいております!』と、マイクスタンド前に立つ岩田岩治に向けて、手を向けた。


岩田岩治は、でっぷりと蓄えた全身の脂肪が印象強い男だ。にっかりと笑顔を浮かべながら、全身に所々ある金色の装飾品が、どこか嫌味を感じさせた。



『ご紹介賜りました、グレイズ・コーポレーション代表取締役社長、岩田岩治です。この度は、我が社の総力を結集した【フル・ダイブ・プログレッシブ】の完成披露会へお越しいただき、誠にありがごうございます。


 このゲームの開発には、十年以上の年月と数十億の開発費を投じました。開発責任者である海藤雄一の熱意と、皆さまの応援があればこそ、開発が成功したと言っても過言ではありません。


本来であれば、私ではなく、海藤雄一本人がここに立ち、皆さまへお礼を述べる必要があると重々承知しておりますが――残念な事に、海藤雄一は現在行方が分からなくなっており、失踪事件として警察に捜査を行って頂いております。


 合わせて警察各位、関係者の皆さまにも、多大なご迷惑をおかけしております事を、謝罪いたします。申し訳ございません』



 海藤雄一の失踪はまだ続いているのか。


 まぁ正直警察まで出張ってる失踪事件として届け出まで出してるのに『プロモーションの一環でしたー』って事はしないか。そんな事したら炎上どころではなくなる。



『では、続けてゲームシステムのご案内です』



 社長の挨拶が終わった事で、そう話を変えたアナウンサーの言葉とほぼ同タイミングで、スタッフが「先行プレイヤーの方は、ステージまで移動をお願いします!」と声を張り上げた。


若干緊張している面持ちの先輩に「頑張ってください」と声をかけると、彼女は深呼吸しながら「うん、行ってくるっ」と僅かに声を上ずらせながらも返事をし、スタッフの案内に従って、ステージへ。


移動している間に、ゲーム説明が終了。正直内容は電車内で先輩に語った以上の事は無く、若干残念ではあったが、しかしこれから実際にプレイしている様子が大型スクリーンに映されるようで、それを楽しみに待っている。



『ではこれより、実際に先行プレイを行っていただく方々が、ステージへお越しいただいております。


 皆さま、コクーンの装着を、お願いいたします』



 ステージ上に上がった二百名のプレイヤー達がズラリと一斉に並んでいる光景が目を引いた。先輩は奥の隅っこでちょこんと立っており、場違い感を感じているのだろう事が丸わかりだった。


指示に従い、腕時計を付けるように、左手首にコクーンを装着するプレイヤー達。


 中には突き出して面白ポーズを取る実況者もいたが、若干滑っていた。奥まった場所にいる先輩がオドオドした様子でコクーンを上手く取り付ける事が出来ずにいて、近くのスタッフが装着を手伝ってくれていた事の方が笑ってしまう。



『皆さん、装着と同時に若干静電気の様なモノが走ったと思います。


 これは、コクーンより発せられた電気信号が人体の構造や着ている服等を読み取っているからですね。


一人ひとり肉体の情報は違うものですから、例え双子でもアカウントデータの共有が出来ない、ある意味完璧なセキュリティとなっております。つまり――RMTでのアカウント売買は不可能、という事ですね』


『そうなりますね』



 アナウンサーと岩田による会話が挟まれつつ、そこでようやく本題となる。



『ゲームを起動する為には、音声コマンドが必要になります。これは誤動作などの防止を目的としたものですが、海藤雄一さんはもう一つ「この方法を望んでいた子がいた」と仰っていたようですね』


『ユーザーの意見を必ず反映させる事は難しいですが、やはり一つ一つのご意見を真摯に受け止め、反映できるものはしていく事こそ、クリエイターに必要なのかもしれませんな』


『音声コマンドは簡単で「プログレッシブ・イン」になります』



 では、と。アナウンサーは咳ばらいを一つ溢すと――声を上ずらせて、先行プレイヤー達へ、指示をする。



『皆さんご一緒に――』


『プログレッシブ・イン!』



 先行プレイヤー達が、観客全員に聞こえる大きな声で、叫ぶ。



すると、プレイヤー達の肉体が青白く発光し、瞬時に――消えた。



 オオ! と歓声を挙げる観客たち。オレも流石に目を見開いて、本当にできたのだと感心し、思わず手を叩いてしまった。

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