マリア-01
アタシはマリア・フレデリック。
アメリカのハイスクールに本来通っている筈の、十六歳の女であるものの、しかし現在は席だけを残し、行っていない。
行かない理由があった。
あそこは、昔からアタシの敵だった。
何時もいつも、周りはアタシの事を拒絶した。
言ってしまえば、イジメにあっていた。
だから学校に行かなくなった。
行かなくったって別に勉強は出来るし、それにアタシには、ゲームがある。
毎日毎日、動画配信とゲームの特訓をこなし、ゲーム会社のSNSを監視して新作の動向を探り、必要があれば予約購入を行う。
そんな毎日を繰り返していると、身体が訛ってしまうから、昔から続けていたジムには、より頻繁に行くようになった。
でも、何か物足りない。
一日一日は満たされている筈なのに、アタシは決して満たされないんだ。
何でだろう、と考えても、答えは出ない。
何時からだろう、と考えたら、答えは出る。
転機は二つ。
一つは、六年ほど前、アタシが追いかけていたニッポンのネットアイドルである璃々那アラタが引退した事。
一つは、二年ほど前、アタシがライバルとしたリッカが、ゲーマーとして引退した事。
どちらも、大したことないと思い込もうとしても、やはりアタシにとっては大きな転機となった事は間違いない。
幼い頃、同い年の少女がこんなにも輝かしい姿で、頑張っているんだと思えば、それだけでアタシも頑張れた。
でも、そのアラタは引退してしまった。
彼女が引退した事によって、アタシは何を糧に生きていけばいいのか、わからなくなってしまったんだ。
学校に行かなくなったのは、その辺りから。
自然とインターネットに入り浸る時間が増え、そこでリッカという存在を知った。
アラタと同じ、日本にいる同い年の子供。
けれど、その経歴は輝きに満ちていて――だからこそ、癪に障った。
アタシは、コイツをぶっ倒してやろうと思い、彼のプレイしているゲームを片っ端からやり込んだ。
そして勝てると実感を得た事によって、奴が参加するとしていたゲーム大会に飛び入り参加し、奴と戦いを挑んだ。
結果は、負けた。
けれど、奴は言ったんだ。
「お前とやるゲームは、楽しかった」と。
笑みを浮かべて、アタシに手を伸ばし、握手を求めて来た。
なんだコイツは、とも思ったけれど、しかし褒められて悪い気はしなかったし、リベンジもしたかったから、彼の手を取った。
暖かかった。
紛争テロに巻き込まれて死んだ父と母の温もりを思い出して、アタシは思わず泣きそうになったけれど、彼の前で泣くモノかと堪えた。
そしてアタシは、そこでスポンサーになった企業にお願いし、ニッポンとアメリカを往復する生活を選択した。
何だかんだ、ニッポンではゲームが盛んで、訓練する場所としては最適だった。
リッカと約束し、ゲームセンターへ行き、大会という大会を練り歩き、奴と対決するまでは決して負けない。
アタシが勝った事もあれば、奴が勝つこともある。
そんな風に彼と過ごしていると――彼との日常が、アタシの中で、かけがえのないものになっている事に気が付く。
こんな風に、遊んでいるだけで楽しい。
ずっと、リッカと一緒にゲームをしていたい。
――そんな、些細な願いを持っただけだったのに。
彼の母が亡くなって、リッカはゲーマーを辞めた。
アタシに、土下座して謝りに来たけれど、アタシは思わず涙を流し、言ってしまったのだ。
「アタシは、お前に勝ち越すまでは、これまでと同じ場所で、戦い続ける」
だってそうしなきゃ――こいつが帰って来た時に、ライバルであるアタシがいてやらなきゃ。
コイツは、アタシと同じになってしまうのだから。
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地図を広げたオレに、先輩とマリアが食いついてきた。
現在いるのは、先日も宿泊した宿屋である。
部屋数が足りないという事から今日もオレとマリアと先輩の同室になった事は、喜ばしくもあるが緊張もするので、本来は複雑な気分である。
「オレ達が今いるアルゴーラは、ココ」
フル・ダイブ・プログレッシブの舞台となる大陸は、どうやらプログレッシブ世界にあるアストライヤ大陸という所らしく、海を越えた先の開拓はまだ進んでいないという設定らしい。
そしてアルゴーラはアストライヤ大陸の中心部に位置し、先日立ち寄ったミュージアムは、そこから歩いて行ける範囲にある場所なので、そう離れてはいない。