攻略組-09
突然先輩が咳なのか嗚咽なのかわからない叫びをあげるからオレとマリアの二人で驚いた。
「どうしたんです、先輩」
「え、あ、いや、その……わ、私の名前と苗字が一緒なんだなぁ、と思って、ビックリしただけ……」
「うん、リリナって名前聞いた時はアタシも少しビックリした」
「それで、どんなアイドルだったんだ?」
「可愛くて、ちょっとオドオドしてて、でもネット配信とかしてる時にファンの反応を嬉しそうにしてるのがキュートで、ライブもネット配信だけだったんだけど、歌ってる時とかの動きもいっぱい練習したの分かる位、真剣に踊ってて、なんていうの、エリだったら『トートイ』って言ってんじゃない?」
ちなみにマリアが一つ褒める度に先輩が咳き込むので、そろそろ心配になってきたものの、そこで音楽隊のコンサートが終わったので、拍手しておく。
「でもアラタが突然引退しちゃって、正直これから何を楽しみに生きていけばいいかわかんなくなっちゃってさぁ」
「そ、そんなにですか!?」
「そんなによ。アラタを追っかけてるのが楽しくて生きてたみたいなもんだし。
――アタシも小っちゃい頃にパパとママを亡くしてたし、その頃通ってたスクールじゃイジメも受けてたし、マジで心の拠り所がなかったって感じ」
好きだったアイドルの話なのにやけに重いな……。
ただまぁ、分からなくもない。
オレも母さんが死んだ時に、何か心の拠り所を求めて読書を始めた。
母さんが好きだった読書。
最初は母さんの遺した本を読み漁って、次第に新しい本を求め、段々と紙がかさばるからって理由で電子書籍に移行したっけ。
「でも何でゲーマーになったんだ? お前だったらアイドルやるなんて簡単だろ?」
「はぁ!? アイドルなめんじゃねっての! 今のアタシなんかガサツ過ぎて生配信の視聴者ゼロになるわ!」
何時も自己評価高いコイツがアイドルの話になるといきなり卑下しだした!?
「アイドルってのはね、いつも笑顔で、不安な姿を見せない存在なの! 何時だってファンの為にって頑張る姿を見て応援したくなるんじゃないのっ! 最近のアイドル市場はダメ。可愛い子を安売りし過ぎ。何よ会いに行けるアイドルって。そりゃコンセプトとしてはいいかもしれないけどアイドルって偶像でしょ? それが会いに行けたらダメじゃん。アイドルもアイドルで、皆女優とか俳優の登竜門位にしか思ってない! その点アラタは完璧だったわ……なのにどうして引退しちゃったのよアラタぁ……っ!!」
「え、あのぉ……その……ご、ごめんなさい」
「何で先輩が謝るんです?」
「な、何となく……」
数十秒ほど「またアラタに会いたいよぉ……っ」と嘆いたマリアだったが、吹っ切れた後にふぅと息を吐き、話を続ける。
「でもやっぱアイドルになりたい、って夢を諦められなくて、でもアメリカじゃアイドルは売女扱いだし、日本語は難しくて覚えてらんない。ってなったら、アイドルっぽい活動できないかなぁと思ってたら、リッカの動画を見てね」
「オレの?」
どの動画だろう。正直動画投稿数はそれこそ百超えてるしな。
「アンタの動画英語字幕版もあるでしょ? 無くても自動変換である程度分かるし。えっと、アレよ。エリと一緒に配信してた『エリチリとレトロゲー対戦』の奴」
「よりによってあれかよ!?」
エリとレトロゲー配信して負けた方が言う事聞くって動画だ。そしてオレは敗北し、エリに「私と話す時には王子様口調で話す」っていう罰ゲームを未だに続けてるアレ。
「そのコメント欄で『リッカの王子様口調好き』とか『エリチリのえげつない罰ゲームに草』とかあって、こう言う有名になる方法もあるんだって思って、アタシもゲーマーになろうって思ったの。所で草って何?」
「気にするな」
しかし、マリアのゲーマーを目指す理由になった原点がオレの動画にあったとは驚いた。
元々オレに挑戦しに来た奴だったし、オレが何かの要因位にはなってるんじゃなかろうかとは思ったけども、それにしたってその動画確か三年前投稿した奴だから、そこからゲーム覚えて一年も経たずにオレと並び立つゲーマーになったってコイツも相当凄いぞ。
「あー、何か自分の話したらスッキリ。たまにはいいもんね」
帰りましょっか、と言ったマリアに続いて、オレも立ち上がる。先輩は未だに「ご、ごめんなさい」と誰に向けてかわからないけれど謝ってるが、まぁ問題は無いだろう。
「あ」
「どうしたのよリッカ」
「いや。こう言うステージ使ってライブとか、そういう称号とかないかなぁって思っただけ」
「流石にないんじゃね? あくまでNPCとか世界観を目立たせる為のもんでしょ」
それにしては、フォルムの作り込みが良いと思ったんだがなぁ。もしかしたらギルドシステムとかがあって、それの集まる場所みたいな形で作られたのかもしれない。




