攻略組-07
「彩斗……貴女は何を考えて……」
ミサトさんも頭を抱えている。オレと同じでは無いだろうが、彼女の享楽的な思考に若干頭を痛めているのだろう。
「だが、何も考え無しだったわけではないだろう? 何せこれで『私とミサトの持っていない称号』を手に入れた」
「それは、まぁ……そうなのだけれど」
「二人が持っていない称号?」
「うん。私とミサトは交際と結婚をしてN.3002『同性プレイヤーと交際する』とN.3006『同性プレイヤーと結婚する』の二つを揃えたよ」
「あぁなるほど、異性と同性によって違うんですね……ってちょっと待って」
普通に聞き流しそうになったが、今この二人……。
「おや、言ってなかったっけ? 私とミサトは現実世界でもお付き合いをしている同性愛者だと」
「言ってないよ!?」
「そうですね、言っていません。彩斗がバラさなければ知られる事もないのですが、まぁバレても問題はありません」
若干表情を赤くしながらも素っ気ない態度をとるミサトさんと、彼女を隣に座らせた上で肩を抱きハハハと笑う彩斗の何と百八十度違うお二人か。しかし、だからこそお似合いなのかも……?
「まぁ、ここからはふざけずに続けようか」
今までふざけていた事をサラリと認めつつ、しかし表情を再び引き締めて、彩斗が続ける。
「リッカとマリア、そしてリリナくんの三人が決闘戦における称号を得やすくなった。そして称号獲得をする上でリスクなく獲得が出来るならば、現状はその方が好ましい」
だがそれだけでは足らない、と。彩斗が口にし、ミサトさんも頷いた。
「現在、我々攻略組は戦力の充実を目指している。そしてその上で、リッカとマリアは非常に頼もしい戦力だ」
「オレとマリアも攻略組に入れと?」
「それが好ましいと思うがね。まだ情報は少ないが、今後も定期的にレイドボスは登場すると思われる。私の指揮下に入ってくれれば、それだけで私も、君たちも助かると思うのだが」
「断る」
素早く断りの言葉を入れると、先輩が「えぇ!?」と驚くような表情を見せたが、しかしマリアと彩斗、そしてミサトさんは納得しているような面持ちだった。
「理由は?」
「非効率過ぎる。今救援に来た五人中三人が別行動をしているように、現在の状況では少なくともオレ達が群れる理由が薄い」
そう、現時点では利点が無いのだ。
勿論、大型レイドボス等の登場に際し、大人数で戦う事が出来る利点というのは確かにある。
けれど、それはどの様な立場であろうとも大人数で対応する事に違いはなく、むしろ平常時における命令指揮下というのは、行動を制限する要因になりかねない。
「オレ達は独立して行動できる事が利点だと考えている。場合によっては攻略組と手を組むことはあっても、それ以上の協力は現時点で無意味だろう」
「……ふむん、それもそうか。まだ私達は、この世界で対峙すべき敵の事を、ホンの少ししか知らない」
その通り。
確かにレイドボス等の脅威に対抗しうる戦力補充自体は好ましいが、それにしたって今はレイドボス出現頻度も、ましてやどの程度強力のボスが出現するかもわからないのだ。
あのラーディングという敵がどの程度の脅威だったかが分かれば、今後オレとマリアが属するべきかどうかの判断に用いる事が出来るのだが。
「あい分かった。そういう事ならば今回は手を引こう。それに私も受けてくれないだろうとは思っていたしね」
「同じことを考えていただろ? アンタも出来れば一人か二人の小さなギルドで、自由気ままにゲームを楽しむタイプだし」
「そうだねぇ。私もオンラインはあまり好まなくて。だがこの非常事態に際しては、皆のパニックなどを抑える為に象徴として担ぎあげられる事に納得しなければならなかった」
「彩斗がいてくれて良かったよ。じゃなかったら、皆どうなっていたか」
「どうせ私以外の有名ゲーマーを担ぎ上げて、それを象徴としていただろう。もし私の代わりに君かマリアがいたら、それこそ君達がなっていたのではないかな?」
緊急事態においては、心の支えとなる強い象徴が必要だ。
そして彩斗やオレ、マリアのような有名ゲーマーであれば、それこそ祭り上げられる事によって、皆の戦意を向上させる事が出来る。
「しかし、今後攻略組に与する事は考えておいて欲しい。強力なレイドボスや大型モンスターが出現すれば、それだけ皆の戦意を削ぐ要因になりかねない。そうなれば、事態はさらに悪化する可能性すらあり得るからね」
「考えておくよ」
交渉自体は決裂したが、彼女達との友好が消えたわけではない。
オレと彩斗は手を繋いで今後の相互援助を約束し、ミュージアムの街へと出る。
彩斗も再び鎧を着込んで、オレ達に付いてくる。