先行プレイ-02
楽しみにしている時間はすぐにやってきてしまう。
日曜日の正午、駅前に集合としたオレと新庄先輩。
何時もはTシャツと短パンというラフな格好をしている事が多いオレも、流石に先輩とのデートをそんな格好で行くわけにはいかない。
ベージュのシャツに合わせる形で薄手の黒色ジャケットを羽織り、パンツもジャケットに合わせてカーキ色のチノパンを履いて、昔母さんから貰ったネックレスを合わせてある。鏡で確認したし、無難な感じにはできただろう。
「ご、ごめんね! 遅くなって……」
そんなオレの前に、先輩がやってくる。
先輩は少々顔を赤くさせながら、何時もは目元までかかる前髪を真ん中で左右に分け、黒縁眼鏡もシルバーのフレームを用いた綺麗な眼鏡に変わっていた。
彼女のくりっとした丸い瞳と、少し高めの鼻立ち、そしてややベージュ色の煌めきが美しい唇が印象強かった。
服装も、普段は校則をガッチリ守ったセーラー服とは違って、清潔感のある白のシャツと、水色を基本色とした鮮やかなスカートを履いて、最初誰かを認識するのに時間がかかってしまった。
「ど、どうかな……?」
「え、あ、え、その、綺麗でしゅ」
感想まで求められるとは思っていなかったので、思わず噛んでしまった。
すると彼女はフフっと噴き出して、緊張した面持ちを崩してくれたので、結果的に良しとしよう。
「じゃあ、行こうか」
向かう先は、グレイズ・コーポレーションが出資を行い建設されたグレイズ・コンサートホール会場だ。
普段は演劇や演奏会、講演会、成人式などを執り行う場所なのだが、今回はここで披露会と先行プレイを行うようだ。
電車で移動をしている間、これから自分がプレイする事になるゲームの事を知りたがったので、オレは知り得ている情報を全て先輩へと話す事にした。
フル・ダイブ・プログレッシブ。
企画・開発を全て海藤雄一が行っている新型ゲームであり、またこのゲームは革新的な新技術によって作られている。
現行のゲームには細やかな種類はあるものの、しかし今回開発されたゲームは、既存のどれにも当てはまらない。
一番近いゲームはVR、ヴァーチャル・リアリティゲームだが、そんなちゃちなものではない。
このゲームは、コクーンと呼ばれる腕時計型デバイスを装着する事でプレイが可能となる。
このコクーンは人間の身体情報や着ている服等の情報を解析し、量子データへと変換を行う。
その後グレイズ・コーポレーションの有する人工衛星【トモシビ】に搭載された量子PC【マザーコクーン】に、その量子データを転送・保存する事で――マザーコクーン内に存在するゲームエリアへ『自分の体そのものを移動させ、遊ぶことができる』のだ。
「完全に、SFだね」
「海外の洋画みたいですよね。実際、この技術が本当ならゲームなんてオモチャじゃなくて、他にも色々活用できそうなもんなのに、その辺は海藤雄一が頑なに技術公表をしなかったそうですよ。だから失踪も、実はどっかの国が拉致したんじゃないかって噂があるほどです」
ただ、方法が特殊なだけで、中身はごく普通のゲームである。
プレイヤーはプログレッシブと呼ばれる世界に現れた救世主となり、平和を脅かす数多のモンスターを狩ったり、モンスターの肉や収穫できる穀物などを調理して料理を作ったり、自然の中で行える遊びを楽しんだり、後はプレイヤー間で恋愛・結婚する事も出来るそうだ。
ゲームシステムの関係上プレイヤーは全員武器を決める事になるが、海藤雄一は「一度も武器を使わずに日常を謳歌しても構わない」としており、そう言った部分にも大きく力を入れたという事をインタビューで語っていた。
けれど、これが本当に普通のゲームならば、そんなのはただ作業ゲーになるだけだが、しかし自身の肉体そのものをデータとしてゲームへと転送するFDPなら、疑似的な第二の人生を歩むことも出来る、というわけだ。
「それなら、楽しそうかも。現実じゃ出来ない事を、ゲームではいっぱいできるんだよね?」
「どの程度まで出来るか、ですけどね。けどそういう『どんな事が出来るのか』ってのを探す事も、ゲームの醍醐味ですから」
「でも、高そうだよね。定価でいくらくらいするんだろう?」
「海藤雄一は『高くても四万円以内に収めたい』って言ってたし、ゲーム機とゲームソフトを買うって考えれば普通の値段ですね」
「う、うーん……貯金もあるし、大丈夫かな……?」
「興味湧いてきました?」
「うん。今日プレイして面白かったら、予約したい」
「じゃあ帰りに寄っていきましょう」