攻略組-03
三星彩斗は、ミュージアムの門にて立ち、来訪者を待ち続けていた。
彩斗へ話しかけるユーザーは多い。攻略組の長として活動を行う者だからして当然と言えば当然だが、しかし周りのユーザーも、本来であればゲーマーとして名を連ねた者たちだ。
だが、彩斗だけは特別だ。
彩斗という存在であれば、従う事はやむ無しであると、攻略組の立ち上げに際してこれ以上の適任はいないと長へ推薦された。
面倒に思いながらも、彩斗は生き残る為に最善の策としてそうであることを選んだ。
彩斗の補佐としてミサトも動いてくれているので、彩斗自身はあまり人前に出る必要も無い。あくまで「象徴」として皆の前に君臨すればよいだけだ。
「朝から出発していれば、そろそろか」
「ええ」
彩斗が口にすると、ミサトも頷いた。
先日、アルゴーラ付近の平原に現れたラーディング討伐に際し、彩斗は天才ゲーマー・リッカと初対面を果たした。
彼は彩斗がゲーマーとして引退した後に生まれたゲーマーである。
主なジャンルとしては格闘、アクション、シューティングの他、RPG等の実況動画やプレイ動画等で人気となり、特に格闘ゲームにおいては彩斗と同等かそれ以上だと噂された少年である。
そして、そんな彼と共にいた少女、マリア・フレデリックは、そんなリッカと同程度の実力を持ち、現在もゲーマーとして活動を続ける少女でもある。
引退したとは言え、かつて最強を拝命した人間として、彼らに興味があった事に間違いはない。
今か今かと来訪を待ち、そして――現れた。
酷くボロボロだった。
リッカ、マリアと、そんな二人についてきていた一人の少女だったが、三人は草や土、泥に塗れ、マリアに至ってはお腹付近にツタがまとわりついている状況であった。
「どうしたんだね。そんなにモンスターの出現頻度が激しい場所では無かったろうに」
「いや、モンスターはそんなに……ミライガが出て来たくらいで、それはまぁ、平気だったんだけど……」
リッカの口から語られる経緯は――正直どうでもいい内容であろうことが分かったが、しかし彩斗は一応聞いてみた。
**
ここからは少し昔話をするし、視点をオレことリッカに戻そう。
それは、アルゴーラからミュージアムに続く森林地帯を抜け、山に作られたトンネルへ向かおうとした時だった。
鬱蒼とした木々やツタ等が絡み合った場所を歩いていると。
『ひゃぁ!? 底なし沼ぁ!?』
先輩が不意に足を取られ、底なし沼に少しずつ身体を沈めていたのだった。
『大丈夫ですか先輩――ああぁ、鬱蒼としたツタに絡まったぁ!?』
『いやリッカそうはならんでしょ』
『なっとるやろがいっ! ていうかこっち来るとお前も』
『うひゃあああぁ!? ちょ、アタシまで引っかかって宙吊りになったじゃないの!? 早く助けなさいよリッカ!?』
『いやそうはならんやろ!』
『なっとる! やろがいっ!!』
『あっぷ、あっぷ』
『あーっ! 先輩がヤバいっ! マリア、オレに絡まってるツタをウェポンで撃ってくれっ!』
『スカート翻ってパンツ見えるじゃないっ! こんな状況で撃てるかってのぉ!』
『いや先輩が沈んでマジヤベーんだってばっ! はよ撃てって!!』
こんな感じで正直阿鼻叫喚って言葉が似合う状況になったが、先輩は間一髪のところで助ける事が出来た。
**
「本当に心底どうでもいい内容だったね……」
「いやホントゴメンなさい……水浴びしたいんだけどどこか……」
「ああ、この街にも宿屋はあるが、とは言っても」
「どうせ、部屋の数が足りてないんだろ。知ってる」
何せオレとマリアと先輩が同室だったのは部屋の数が二部屋しか取れず、オレとツクモが別れて女子組に混ぜて貰ったという状況だったからだ。
現在は同じ街にプレイヤーが集中しているため、使用できる空き部屋が無い状況だからだ。
「……ふむ。なら私とミサトの家に行こう」
「え、家?」
「ああ。詳しくはそこで話すよ」
とにかくオレ達三人はあまり人前に出るべき格好をしていないし、そうでなくとも立ち話もなんだろう。
彩斗とミサトさんの後ろを続き、彩斗の言う『家』に辿り着く。
そこは、ミュージアムの街から少し離れた木造建築の一軒家だった。どこぞの避暑地にある別荘と言われれば納得してしまいそうなコテージとも言える場所に、オレ達三人は呆然としてしまう。
「さ、上がってくれ」
玄関を通り、まずはミサトさんがマリアと先輩の手を引き、シャワー室に案内した。オレは最後で構わないし、そこまで汚れていない。
「さて――ミサトが二人をお風呂に入れてくれている間に、私達で出来るお話をしようか」
と、そこで彩斗はおもむろに鎧を外し、その場で脱ぎ捨てた。
メニュー画面をタッチした彩斗。すると部屋の照明が落とされた後、オレの視界もほぼゼロになる。
布の擦れる様な音と共に、何かが落ちた。しかし視界が何もない状況なので、動く事もままならない。
しかし、すぐに視界は戻った。
目の前にいたのは、勿論彩斗だ。しかし先ほどまでの鎧姿とは異なり、薄手のパジャマと言うべき格好に変わり、顔を覆っていたマスクを、外した。