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攻略組-02

変身を解除し、戦利品を確認する。


一体に付き500マネーの報酬と、恐らくミライガのドロップアイテムであろう『ミライガの鱗』と『ミライガの爪』を手に入れたオレは、朝の運動としては十分だと判断し、その場から立ち去ろうとする。


そんな時、遠くから銃声が聞こえた。


それは、歩いて五分ほどの場所でミライガを相手取るマリアの姿だった。


四体のミライガを相手に、動きを正確に読み取ってトリガーを引き、着弾地点を重点に狙い撃つ彼女の狙撃能力と、その身体能力を目の当たりにしたオレは、思わず近くに向かって鑑賞していたほどだった。


危なげなく、四体のミライガを倒す事に成功したマリアだったが、その顔つきは神妙だ。



「おはようマリア」


「おはよ、リッカ」


「先輩と仲良く抱き合って寝てたのに、こんな早起きするなんて勿体ないな」


「あの子って良い感じでお肉ついてるから寝心地良いのよねぇ」


「詳しく、詳しく」


「ヤーだ。あの子はアタシが嫁に貰うから」


「むぅ、ちょっとその花園に近づくのは申し訳ないな……」



 マリアも先輩も美人だから、つい彼女達が仲良くしていると嬉しいし絵になるから、その空間を壊したくないという感覚がない訳でもない。



「それより、早く帰りましょ。今日は彩斗の所へ情報共有しに行くんでしょ?」


「そうだな。朝食を食べて準備して、その【ミュージアム】って街に行くか」



 オレ達は並んで歩きだし、アルゴーラまで戻っていく。


他愛もない話をしながら、昔のように、笑い合って。




**



宿屋の受付前には、小さな食堂が設置されている。


オレとマリアが戻ると、既にオレ達以外の面々も、食堂での朝食へとしゃれこんでいて、オレ達も簡単なバイキングを取った上で、同席にかけた。


 朝の挨拶もそこそこに、まず現状の確認をする事に。



「さて、ひとまずオレ達にとっては一日、先輩にとっては三日経過しているわけだけど」


「状況はあんまりよろしくないっすわぁ」



 ツクモの言葉通り、現状はあまりよろしくない状況だ。


先行プレイヤー達にとっては残り約362日、オレ達救援組にとっては残り364日になっているこの状況は、絶望的とは言わないが、現状では情報が何もなさすぎる。



「そこで、昨日会った攻略組の長を務めているだろう彩斗と会い、情報共有を済ませたい所だ」


「ふひ、彩斗かぁ……あの子、素顔も見せないし、性別もわかんないからなぁ……」



 エリが皿いっぱいに盛られたソーセージを食べながら、かつての三星彩斗の事を思い出す。



「あの、彩斗さんって、どうして顔を出さないんでしょう……?」



 そこで、先輩――リリナがふと問うてきたので、オレ達は顔を合わせた上で「ああ」と頷き、先輩に説明する事に。



「今でこそ顔出しする配信者やゲーマーは増えてますけど、昔は顔を隠してたゲーマーって結構いたんです」


「え、そう、なの?」


「先輩が想像するのは、RINTOみたいな顔出しして人気もあるゲーマーとか配信者だと思いますけど、それこそ昔はゲーマーと言ったら一部の熱狂的なファンしかつかない、大抵の人が名前も知らない人が多くて」


「アイドルみたいな人ばかりじゃ、なかったんだ」


「勿論全員がそうだったわけじゃないんですけど、ゲームの大会中にマスク付けてたり着ぐるみみたいなので参戦、なんてのは、良くありましたよ」



 ただ、それにしたって三星彩斗は異常なまで、他者との交流を嫌ったゲーマーだったと言っても良い。


当時はあまり主流では無かった動画配信を行いつつも、しかし内容はゲームがメインで自分の声だけを乗せた動画で、顔出しをした事は一度もないし、大会に出場する際にも可能な限り露出の少ない鎧や衣服を着込んだ状態で、誰も素顔を見たことはない。


 そんな彩斗は、忘れもしない二千十四年に引退を表明した。丁度六年前程だ。


彩斗の引退と共に、あの人の偽物がたくさん登場したレベルだった。



「ワタシのドーガにはイッカイデてくれましたヨ?」


「あの時はネットが祭りでしたね……」



 一度だけカーラさんの配信にゲスト出演してくれた事があったが、しかしそっちはゲームの方ではなく料理の方で、カーラさんの助手的な扱いだったため、目立った活躍自体は無かったが、それでも引退した彩斗が登場したという事もあり、SNS上で大反響を起こした事もある。



「参加した大会は、よほどの事が無ければ必ず優勝を掻っ攫い、彩斗の動画内で登場した商品の売上は前年度比較で二百パーセント上昇、動画広告収入だけでも人間数十人は遊んで暮らせる額を手に入れたとされています」


「そんなに有名な人だったんだ……」


「まぁ、アタシとリッカも負けなしだけどねぇ」


「ふひ、収入だけなら、私も負けてないし……っ」


「ドーガサイセースーならワタシもマけてませんヨーッ!」



 オレ達はそういう集団だからこそここにいる。けど、攻略組に彩斗がいると分かっただけでも御の字だ。



「ひとまずオレ達が知っている内容と、彩斗が率いる攻略組の知っている内容をすり合わせて、今後の攻略に役立てる。そうすれば現状打破に繋がる一手に繋がります」


「それがいいわね。それにアタシも彩斗とちょっと話をしてみたかったし、いい機会ね」



 オレとマリアは、丁度彩斗が引退した直後にゲーマーとして世に出たものだから、彩斗と話した事が一度もない。ちょっとした世間話だけでも聞いてみたいものだ。



「じゃあそのミュージアムって街に全員で行くんすわぁ?」


「いや、それも考えたけど……行くのはオレとマリア、先輩の三人にしようと思う」


「ぶひっ!? ま、まさかの私捨てられる流れ!?」


「ムスコにスてられるハハデース!?」


「いやそうじゃなくて……勿論今後は三人にも一緒に行動をしてもらう事はあると思うけど、三人は先日言ったように娯楽や食材や恋愛に関する称号集めに集中してほしいんだ」



 その為、今は一緒に行動をする事は好ましくない。何も情報を得られていない状況なら、三人には狩りやモンスターと対峙する以外のアクションを起こして欲しい。



「後は分散する事で多角的な情報を取得できるチャンス、って事ですわぁ?」


「そうだな。アルゴーラの街に集中する理由はないけれど、けれどここでしか手に入れる事の出来ない称号があるかもしれない。だからそう言ったものを見つけてほしい」



 ツクモが要約してくれたので頷き、三人もそれに同意してくれた。



「えっと、私もリッカ君やマリアさんに、付いていっていいの……?」


「先輩が良ければですけどね」



 オレの言葉に、彼女は顔を赤めながらもブンブンと頷いてくれる。



「わ、私が役に立つなら、どんどん使って欲しいな……っ」


『うっ……ふぅ』


「ツクモとエリ次それ言ったらお前らの頭カチ割るぞ」



 とだけ二者に警告すると、彼らは机の下に避難しだしたので無視する事にする。



「先輩はミュージアムの街に行った事はあるんですか?」


「行けてない……遠くは無いし、行けるとは思うんだけど、怖くて……」



 これだけリアルなゲームで外を歩けばモンスターに殺されかねない世界観はそりゃ怖いわな。



「じゃあ朝食の後、色々準備を整えて出発しましょうか」



 それが結論となり、オレ達は続けて朝食をとる事にする。


あまり朝ご飯は食べない派だけれど、こうして皆と食事をするという行為自体が楽しいので、苦ではないのが嬉しかった。

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