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攻略組-01

 量子データとして生きている筈なのに、オレは夢を見ている。


これは、幼い頃の記憶だ。


十六歳の今も十分子供だと熟知しているが、それでも今から鑑みれば幼い頃、という時期は存在する。



小さなオレが、二画面携帯ゲームハードで遊んでいると、隣に座る母さんが手を叩いて喜んでくれる。


それだけが嬉しかった。


何て事ない、誰にでも出来る単純なゲームだったけれど、母さんが隣で見ていてくれる、オレがプレイしてクリアする事を喜んでくれる、そんな事だけが、オレの楽しみだったんだ。



オレは、母さんが喜んでくれる事が嬉しくて、ゲームを好きになった。


十二歳になる頃、ネットでゲーム実況動画を見て、プロゲーマーの活躍を目にして、オレもああなれば、母さんに喜んでもらえるのかな、なんて考えた。


だから、必死でゲームを覚えて、動画を撮影して、プロゲーマーになって、実況もして……そんな事をしていたら、天才ゲーマーなんて呼ばれる様になっていた。


親父はそんなオレの名前を売って自分の会社を大きくしたけれど、そんな事はどうでもいい。


これで、母さんも喜んでくれる。


オレは最強のゲーマーとなった。


誰もオレに叶う者はいない。


声高らかにそう叫んで――それでも。



母さんは、寂しそうな顔を、浮かべる。



どうして。


どうしてなんだ、母さん。


オレは、母さんの為に、こんなに強くなったんだよ。


それなのに、どうして母さんは、寂しそうなんだ?



そう問いかけようとした時、オレとは違う者の声が、響く。



「アンタがリッカね!」



 声は、オレと同い年の少女から発せられていた。



「アンタはアタシが倒す! アタシが最強になるんだっ!」



 眼をギラギラと輝かせた少女と、オレはどれだけ戦い続けたか。


それを問われれば、すぐに答える事が出来る。


五百十二勝・五百十二敗・三引き分け。


どちらも負けず嫌いで、どちからが負ければすぐにリベンジを申し込み、相手を打ち破って、今度はリベンジを申し込まれる……そんな風に戦っていると、自然に彼女と笑ってゲームをするようになっていた。



そして、ふと母さんの事を見ると。


母さんは喜んでくれていた。


ライバルが出来た事を、共に遊んでくれる友達が出来た事を。



――ああ、ようやくわかった。



母さんは、最強の称号を持つ子供が欲しかったわけじゃないんだ。



ただ、我が子が笑顔で遊んでくれる事だけが、嬉しかったんだ。



「マリア」


「何よ、リッカ」


「ありがとう」


「よくわかんないけど……ま、礼を言われりゃ、悪い気はしないわね」



 母さんは、後に亡くなってしまう。


 オレはゲームの世界から引退を決めた。


マリアを、泣かしてしまった。


その涙を、拭えなかった。



けれど、それでも。



マリアと友達になった事で、オレも母さんも救われたのだと。


その事実だけは、今でもオレの原動力になっている事は、間違いない。



**



目を醒ますと、そこはオレにとっての天国が広がっていた。


レギュラーサイズの小さなベッドに、インナー姿のマリアと先輩が寝転がって、寝息を立てている。互いに互いを抱き枕にしているような状況を見て、ふむんと顎に手をやり、観察してしまう。



「……ほう、これはこれで……」



 ちなみにオレがその間に挟まってるとかそういうお約束展開ではない。ベッドの近くにあったソファに寝転がって毛布一枚をかけていただけだ。


しかし、女の子同士がベッドで眠っているだけなのに、何かこう変に色っぽいのは何でだろう。どうせなら現実のシャツとパンツみたいなラフな格好で寝て貰っていたら、もっと絵になった事は間違いない。


ああ、ここにスマホとか写真を撮れる物がないのが悔やまれる。


 ゲームならスクショ機能とかないのかよ! と叫びたい気持ちを抑えつつ、オレは着替えを開始し、音を立てずに部屋を出る。


宿屋を出たオレは、まだ日の上がり切っていないアルゴーラの街を見渡す。


中央に位置する市場は既に開かれており、食事や買い物を楽しむ事が出来るし、その裏手を覗くともうしばらくの時間を経て開店する店の食材や物資などの搬入も行われている。


 だが、それらは無視して、オレはアルゴーラの門を出て、草原を歩んでいく。


ガサッと音を立てて、現れるミライガの姿。


その数は三。オレの視線に気づくと同時に、それらは脚部を素早く動かし、三方向に別れた。


オレは、先日彩斗より譲り受けた『駿足のアイコン』をリングへとかざす。



〈Progressive・ON〉



 機械音声と共に、オレも叫ぶ。



「プログレッシブ・オンッ!」



 頭上へと放り投げたアイコン。右手のリングを掲げると、リングは形を溶かして、オレへと纏われる。


装甲として展開された後、水蒸気のような物を噴出した後〈Progressive Run Quickly.〉という音声が流れると、それを合図に駆け出した。


ミライガは前方、左方、右方と三方向から一斉に襲い掛かるも、オレが地を強く蹴って跳び上がった結果、三体ともが獲物を見失ったと言わんばかりに首を傾げ、動かし、獲物の行方を探し始める。


しかし、上空へと舞っていたオレは、ウチの一体に向けて空中で身体を回転させると、そのまま蹴りつけて圧し殺し、着地と同時に右足を軸に左足を横薙ぎに振り回す事で、残る二体のミライガへ、蹴り込む。


一体の顎に叩き込まれた一撃はミライガの脳を揺らして動きを止めたものの、しかしもう一体は爪をブンと振り込んで、オレの胸部から腹部を切り裂こうとする。


しかし、その前にオレが振り込んだ二撃の拳が眼球に叩き込まれ、ギャエッと漏らされた声と共に、右手の拳を口内へ入れ込み、そのまま腰を捻って投げ飛ばす。


その勢いだけで死んだミライガ。残り一体の最後は、必殺技で決まりだ。



『プログレッシブ、ラストアクション』



 小さく口にした言葉と共に、三撃の蹴りを瞬時にその胴体に叩き込んだ後、僅かに浮いたミライガの腹部へ、光を収束させ、それをエネルギーとした右腕を強く振り込んだアッパーカットが直撃し、それが最後の一撃となった。

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