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変身の時-07

 オレが先行して歩いていると、先輩は何やらマリアの手を引いて、話しかけていた。でも聞こえているんだよなぁ。



「あの、このネックレス、リッカ君どうして……?」


「アイツのママが、アイツにプレゼントしたデザインと同じだったから」


「じゃあ何でそれをマリアさんと私に……?」


「昔ね、アイツのママとアタシが会った事あって、その時にアイツのママが『リッカと同い年の可愛い女の子もいるのね!』って言いながら、余ってたのをアタシにくれたの。それを懐かしんだんじゃない?」


「私にくれた理由は……?」


「さぁ。さっきアイツが言ったように、アタシにはあげといてリリナにはあげないなんて不公平だからってのあるだろうけど……アイツのママ、もう死んじゃってるから」


「え」


「マリア、喋りすぎ」



 マリアの言葉が思ったよりも先走るので、オレが留める。マリアはどうやらオレに聞こえても良いように喋っていたらしいが、先輩は本気で聞かれていないと思っていたらしい。



「ご、ごめんねリッカ君! 突っ込んだ事を、本人にじゃなくて、マリアさんに聞いちゃって……!」



 慌てて謝罪する先輩。だが別に、オレも怒っているわけじゃない。勝手に人の事ペラペラ喋るマリアはどうかとは思うが。



「別にいいんですよ」



 とだけ先に言う。しかし、先輩はどこか「知りたい」と言わんばかりの表情をしていたので、オレも上手く言葉に出来るかどうかは分からないけれど、この胸にある気持ちを、打ち明ける事にする。



「マリアが言ったように、オレの母さんは、既に死んでます」


「それは、その……病気とかで?」


「ええ。ただのすい臓がんですよ。よくある話でしょう?」



 そう、本当によくある話だ。


オレが中学三年生の頃、母さんは体調を崩した。


しかし「大丈夫」と言い張って病院に行くことも無く、最終的には痛みに耐えきれず、倒れた。


 オレは母さんが倒れた時、アメリカのゲーム大会に出ていた。


連絡を聞いたのは、決勝戦直前で、対戦相手はマリアだった。


マリアは言った。



「アタシの負けにしといてやるからさっさと日本に帰れ」と。


「たった一人のママに最後のお別れも言えないなんて」と。



 まるで、自分の事のように、言ってくれた。



けれど、それを許さなかったのは、親父だった。



「お前が勝たなければ金にならない」と。


「母さんの最後に立ち合ったら金になるのか」と。



 オレは、二者の意見に板挟みにされ、結果として親父の圧力に打ち勝てず、決勝へ出て、マリアに敗北した。


親父に罵倒されながら、それでもオレは土下座して頼み込んで、一日早めた飛行機で日本へ帰った。


けれど、既に遅かったんだ。


母さんは、息を引き取っていた。


 看護師の人に最後の言葉を遺して。



『貴方の活躍を見届ける事が出来なくて、ゴメンね』



 この言葉が、母さんの最後に遺した言葉だったという。



「そのネックレスは、肌身離さず持っていた奴と同じデザインなんです。学校でもバレない様につけてました」


「アタシもね」


「そんな……そんな思い出のネックレスを、どうして、私に?」



 当然の疑問だろう。というか気持ち悪いと思われても仕方ない。


こんな母親を重ねるネックレスを、元々持っていたマリアならともかく、先輩は母さんに会った事も無いのだ。



「なんで、でしょうかね。多分、同じ数だけ、誰かに持っていてほしかったんだと思います」



 オレと、マリアと、母さんの三人分を、この世界で持っていたかった。


母さんの証と同じネックレスを――誰か三人に。



「先輩は、オレが尊敬する一人です。だからこそ、残るもう一個を渡すとしたら、カーラさんでもエリでも、ツクモでもなく、先輩に渡したいと考えたのも、事実です」



 そういうと、先輩はボッと表情を赤め、ネックレスの存在を喜んでくれた。



「そんなに、大切なネックレスなら、私も、大切にする……っ!」


「是非そうしてください」



 そう言って門の所まで戻って来た所で――マリアが少しだけ早歩きでオレの下へやってきて、オレへ小声で尋ねた。



「……アタシの事も、尊敬してくれてんの?」


「当たり前だ。勿論、カーラさんもエリもツクモも、オレは尊敬してる。でも一番尊敬してるのは誰だって聞かれたら、迷わずマリアと先輩の名前を挙げる程な」



 マリアは、ゲーマーの中で負けなしだったオレの前に突然現れた。


オレへ真っ先に勝負を挑んできて、最初は「なんだこの女」と思ったものだが、しかしその実力は確かで、勝利と敗北を幾度も味わった。


戦績は互角だったが、それはどちらも負けず嫌いだったから、どちらか負けた方が勝った方へ再戦を願い出て、相手を負かすの繰り返しだった。


そんな彼女と、ずっとゲームで遊んでいたいと思った。


だからオレは、マリアを尊敬している。



「お前は、オレに初めて敗北ってもんを教えてくれた。その真っすぐ目標へ突き進んでいく姿は、プロゲーマーを辞めた今でも尊敬してる」


「……そう。ま、悪い気はしないね」



 ニヒヒと笑ったマリアが、ようやく機嫌を直してくれた事を満足に思いつつ、オレ達は門を出て、ミライガを探し始めた。



 **



「街が何やら騒がしいっすわぁ……」



 ツクモはアルゴーラの街中で散歩を楽しんでいる中、周りのNPC達が騒ぎ、次々に家へと戻っていく姿を眺めていた。


そんなツクモにぶつかった一人の少女。恐らくまだ十歳にも満たない幼女で、ぶつかった拍子にお尻を地に付けた彼女へ、ツクモは手を伸ばした。



「大丈」


「ぎゃあああああオバケ――ッ!!」



 そう叫んで颯爽と逃げていくマッハスピードの幼女に拒絶され、ツクモは「涙目っすわぁ……」と言いながら空を仰ぎ見る。



「オーッ! ツクモこんなトコロにいたっスワァ?」


「カーラ氏、自分の語尾取らないで欲しいっすわぁー!」


「ソーリーソーリー!」



 笑いながらやってきたカーラの言葉にプンスカと怒る振りをしつつ、ツクモは「何やら街が騒がしいんですが、何があったか知ってるっすわぁ?」と尋ねると、カーラも何か思い出したように「オウッ!」と声をあげ、ポンと手と手を合わせた。



「セーカツグミのコに、サワガシーリユーをキキましたデースッ! ナニやらレイドボスがトージョーするらしいデスよっ!」


「レイドボス……実装されていたのか……っ!」



 レイドボスとは、「強襲」や「急襲」を意味するRaidから生まれた用語の一つであり、ゲームによってレイドバトルやレイドボス等と名称こそ異なるが、ほとんどのゲームでは「多数のプレイヤーが参加する事を前提とする攻略戦」を意味する。


 最近では名称として使用されない事も多いが、某有名ソーシャルゲームにおいてレイドバトルが実装された事により、用語として再び浸透したと言っても過言ではない。



「場所はどこに出現ですわぁ?」


「ち、近くの、森……だってさ……ふひ。この街、攻略組が、全然いないし……もしかしたら、討伐し損ねる、かも……」



 と、会話に割って入るエリ。彼女の言葉にツクモとカーラ、そしてエリは自分たちの装備を鑑みて、急いで装備屋へと向かうのだった。

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