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変身の時-06

「オジサン、アイコンってどこにある?」


「ココ。アイコンは重要アイテムだしな」



 店主の座る場所に置かれるガラスケース内にズラリと並ぶアイコンと呼ばれるアイテム。それはビー玉サイズの小さな宝石に似た綺麗な石だが――



「ご、五万マネー……っ」


「私もまだ買えてないなぁ」



 一番安い値段のものでコレだ。流石に今は持ち合わせもないし、ひとまず金策に動く必要はあるが、その前に情報収集だ。



「リングって売ってる?」


「前にも似たような事聞かれたなぁ……リングなんて取り扱ってねぇぞ。婚約指輪なら二件隣にいけ」


「いや、武器の」


「そうそう、ソイツも同じような事聞いてきたよ。最近武器でリングなんてもんがあるのか? 問屋には無かったが」



 首を傾げた店主に、オレは思わず自分の指に装着したリングを見据える。



(リングは初期装備だけなのか、それとも初期の街だから実装していないだけなのか……)



 結論は出ず、店主に礼をしつつ、飾られている他の装備品を見て回る事にする。


防具は主に『自己体力を5%上げる』とか『耐久値を3%上げる』とか『毒耐性をアップ』とかの用途があるが、元々のステータスが見られない点からどの程度アップするのか実感が難しい所だ。



「おっ」



 と、そこで二つ、気になるものを発見した。


まずは防具だ。正直ステータスとしては『自己体力を3%上げる』だけの物だが、肩から膝下までを覆う黒いコートの様な装備だ。


 所々アクセントとして白のストライプがあり、完全に黒尽くめというわけではないが、基本が黒という色が良い。黒と白の組み合わせは陰キャだとか言われた事あるが知るか。黒が好きなのは男の性だ。


値段はお値打ちなのかどうなのか、2000マネーだ。まぁ自己体力を5%上げる防具が3800マネーなので高くは無いだろう。というかこっちは今の所手が出せない。


で、もう一つはシルバーアクセサリーだ。手に取って触ってみるが、どうやらアバターアイテムらしく、効果は何もない。


だが、その見た目が良かった。


プレート状の飾りが三個、ネックレスに掛かっているだけの安っぽい作りだが、しかしこれ自体は見覚えがある。



「ねぇ、リッカ。これって」



 試着室で着替えを終えたマリアが、オレが手に持ったアクセサリーを見て、驚いてくれる。



「ああ……雄一さん、覚えてたんだな」



これは、オレが母さんにプレゼントしてもらったアクセサリーと、同様のデザインだ。そして、同じものを母さんとペアにして、更に当時切磋琢磨し合ったマリアと母さんが出会った際に、彼女へ嬉々として渡したのだ。


 昔、雄一さんとこのネックレスの話をした。他愛もない会話の流れで「君は洒落たネックレスを付けているね」と聞いてきた事が始まりだったか。


母さんに買ってもらった事、お揃いにした事、さらにマリアにも同じデザインの物を母さんがプレゼントした事。


そんな話をすると、彼は微笑みながら「良い話だ」と頷いてくれた。


当時はただ「子供と他愛もない話をしただけだ」と思ったが、そんな小さな昔話を、こんなゲームで思い出させてくれるなんて、思いもよらなかった。


価格は安い。100マネー。オレはそのネックレスを三個と先ほど気にしたコートを持って、店主の所へ。


店主は「これ買った奴初めてだ」と呟きながらもマネーを自動的に徴収し、購入完了。


『N.0901〔装備屋で装備を購入しよう!〕』


コートを羽織って、手慣れた動きでネックレスを首にかける。


そして、マリアと先輩に、一つずつ渡す。



「マリアにも持っていて欲しい。あと、マリアにプレゼントしたのに先輩にプレゼントしないのは不公平なので、先輩にも」



 そういうと、マリアは微笑みながら「まぁ貰ってやるわよ」とだけ言い、オレと同じく手慣れたように首へかけ、先輩は顔を真っ赤にして驚いていた。



「そ、そそ、そんな! プレゼントなんて、私の方が先輩で……っ」


「貰ってください。ただの自己満足です」



 そう押し付けると、彼女は右往左往という表現が一番適切な動きで店内を歩き回った結果「嬢ちゃん埃散らさない」と店主に怒られ、結果として受け取ってくれた。



「リ、リッカ君っ!」


「はい?」


「つ、つけてくれる!?」


「良いですよ」



 彼女の背後に回って、その綺麗な肌に傷をつけない様にネックレスを付ける。


髪の毛をまとめる形で付けてしまったので、彼女の髪をそっと持ち上げ、ネックレスを首にかける。髪はそのまま静かに下ろし、少し残念な気持ちを抱きつつも、離した。



「はい」


「わぁ……っ、可愛いね、コレ」


「そうでしょうそうでしょう」



 店に用意された鏡で確認して、少し興奮気味の先輩。


さて、これで用も無くなった。店主の「またどうぞぉ」というやる気ない声に何も思う事は無く、満足気に店を出る三人。



「じゃあ外出て、ミライガ倒すか。マリアと先輩、付き合ってもらうけど、いいか?」


「別に良いって言ってるじゃん」


「う、うん。私なんかでよかったら、付き合うよ」



 同意も得たので、そのまま出入り口の門まで向かう。

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