変身の時-04
「なら、自分たちが彼らに出来そうにない称号取得を目指す、というスタンスでよろしいんすわぁ?」
ツクモが口を挟む。そして彼の考えは最もだ。
「そうだな……もう少し情報収集の必要はあるけど、ある程度役割分担をして、オレ達も行動した方がいいだろう」
例えば、レトロゲームやボードゲーム等に強く、ゲームのバグ等を発見する事が上手いエリには『娯楽に関する称号』を。
例えば、調理師としての資格を持っているカーラさんには『食材に関する称号』を。
更に、ギャルゲやエロゲの知識が豊富なツクモには『恋愛における称号』を。
そして――こう言ったアクションゲームに長けるオレとマリアの二人で『狩りに関する称号』と『採取に関する称号』を同時に担当する、みたいな形だ。
「弱い順からモンスターの数を多く倒していく称号獲得は、攻略組に任せよう。そしてオレ達は、強力なモンスターを多く倒す事と同時に、他の分野に関する称号に手を付け、一つでも多くの称号獲得を目指す」
「無難な所ね。勿論、アタシならアンタよりも多く称号を手に入れてみせるけどね?」
マリアがオレへニヤリと口角を上げ、そしてオレも同じ笑みを浮かべて返す。
昔からマリアとは、こうして競い合ってきた。今回は特殊なパターンだけど、そうやって切磋琢磨して獲得合戦を続けていれば、五千個という数字も、不可能じゃない。
「オレ達は、五千個中の五個を見つけ出さなきゃいけない。けれど、それは例えばテストプレイヤーが二個、オレ達が三個見つけたって問題はない。
一人ひとり最善の獲得方法で一日も無駄にせず行動をすればいい」
「ジツにタンジュンメイカイデースッ!」
そう、カーラさんの言う通りだ。
「じゃあ、ここで仮の方針を決める。全員よく聞いてくれ」
オレの言葉に、五人の視線がオレへ向く。
「まずは、全員モンスター討伐を行う際、何か採取できるものがあれば、可能な限り見逃さず採取する事」
まだ採取というシステムを理解できてはいないが、恐らくダンジョンやフィールド内にはアイテムや宝箱等の物が落ちているのだろう。よくある称号としては「特定のアイテムを合計幾つ取得する」とかだ。
これを余さずに取得する方法としては、手当たり次第にアイテムを拾っていくしかない。そして傾向が分かってくればそれを共有し、取り逃しを防ぐ事も可能だ。
「次に、なるべく称号取得の傾向を分ける事」
「例えばどんな風によ?」
「エリが娯楽に関連してそうなクエストを、カーラさんが食材に関連してそうなクエストを、ツクモが恋愛に関連してそうなクエストを、みたいな感じだな。これはオレ達がバラバラにプレイしてたら『〇〇に関連しているクエストを〇〇回プレイ』みたいな称号を取り逃す可能性もある」
「同感。続けていいわよ」
途中マリアの質問が挟まったが、必要な質問だった。オレは彼女の言う通り続ける。
「そして――なるべくみんな別れてプレイを行うが、必要があれば声をかけ、協力を願い出る事」
「それは例えばどんなのっすわぁ?」
「例えば恋愛だけど、ツクモが手当たり次第に女の子に声かけたら事案だろ?」
「事案ですか……」
「事案だよ……」
なので、ツクモはどっちかというと「恋愛に関する称号はこう言うのもありそう」みたいなアイデアを出して欲しいと思う。それを誰が実行するかはともかく、考えられる物を手当たり次第に行っていけばいい。
「一応最後――使用武器は、よほど相性の悪いモンスターを相手にしない限り、今の武器で統一してプレイを頼む」
これは、オレがリングを選んだ理由でもあるが、特定の武器を複数回使用する、みたいな称号があり得ると踏んだからだ。
仮に攻略組が百二十人いれば基本はフォロー可能だろうが、彼らはもしかすると、モンスター討伐自体に力を入れた結果、この辺りを取得できない可能性もあり得る。
――まぁオレが一番不利なんだけど。リングの使い方が未だによくわかっていないし。
「以上。何か質問は?」
全員が無言だ。頷き「宜しい」と言った所で、店員がルポー肉のステーキを六人分持ってきて、オレは手を叩く。
「じゃ、ひとまず飯だ。頂きます」
『頂きます』
さて、そのルポー肉だが、見た感じ牛肉が近いかもしれない。脂身と肉の比率が上手く八対二で別れていて、見た目からして美味そうだ。
ナイフを入れるとスッと刃が通り、柔らかい。一口サイズに切り分け、フォークで刺し、口内へ。
歯で噛むと、一噛み毎に確かな歯ごたえを感じ、しかしマズい肉に共通する悪い食感ではない。
あまり脂っこさを感じさせない旨味もあり、弱火でじっくりと焼かれて旨味を逃がさぬように調理されている事が分かる。
「美味いなコレ、ルポー肉って事は、ルポーっていうモンスターから素材を獲得できるんですか?」
「あ、うん。ルポーっていう草食モンスターがいて、倒すとたまにお肉が宝箱の中に入っているの」
「んー、ギュウニクにチカいデスけど、アジはトリニクにもチカいフシギなカンジデスねぇ……コレは、ソテーとかニコミとかにもアイそうデース」
普段は調理師として生活しているカーラさんが、一口食べる毎に自分なりの調理方法を考えている。よしよし、カーラさんは正直この為に誘ったと言っても過言じゃないから、いい傾向だろう。
全員が食べ終わると、先輩を除いた全員の頭上に、称号取得のメニューが表示された。
『N.1001 Cランク〔初めての食事をしよう!〕』
食事も回数をこなす必要があるかもしれないが、毎日三食食事をしていれば食事回数の称号取得は難しくないだろうと考え、オレ達は立ち上がって店より退店した。