変身の時-02
と。ここで自己紹介が済んだので、色々と聞きたい事を先輩に聞くことにしよう。
「じゃあ先輩、いくつか質問したいんですけど」
「うん。じゃあ、近くに酒場があるから、そこで話しましょう。皆さん、マネーはありますか?」
マネーとは、恐らくゲーム内通貨の事だろう。オレはメニュー画面を開き、そこに記載されているマネーを見ると、4000マネーがあった。
「カーラ達はさっきミライガ倒したおかげで5500マネーになってるわね。アタシなんかはさっきRINTOって奴倒したおかげで12800マネーっ」
「あれ? ミライガ倒すと1500貰えるのか?」
「多分死んだ事によって五分の一引かれてますわぁ」
「ふひ、初期は5000マネーだった……」
「死んだ事による弊害がここに……っ」
「それだけあれば、ご飯と宿泊は出来ます。じゃあ行きましょう」
先輩に連れられ、オレ達はアルゴーラの中心部にある一軒の酒場に入店。喧騒の中を歩み、八人ほどが座れる席に着いた所で店員が「水でーす」と乱雑に置いた。
マリア、オレ、先輩と座った席の対面に、ツクモ、エリ、カーラさんと座る。メニューを開くと全て日本語で書いてあるように見えたが、しかしマリアに聞くと「メニューの文字も英語に見えるわよ」と教えてくれたので、恐らくゲーム内の言語も全て翻訳されて視界に表示されるのだろう。
「えっとじゃあ……まずは場所が場所なんで、食事について聞きたいんですけど、このFDP内では、空腹って感じるんですか?」
「今の所、空腹を感じたことはないかなぁ……あ、でもご飯を食べた後は動きが若干良くなった感覚がするから、もしかしたら影響はあるのかも」
恐らくこのゲームにはHPという概念が無いので、内部的に体力の様なステータスがあるのだろう。で、日常生活やモンスターハント等をしていると、この体力が低下して身体能力を下げていくが、食事を摂る事で回復する……みたいな感じかも。この辺り可視化しなかったのには、何か理由があるのだろうか。
「リリナ氏、何かオススメはあるんすわぁ?」
「えっと、ルポー肉のステーキっていう料理は美味しかったです」
「み、味覚も感じるんだ、このゲーム……すごぉい、じゃあその内カーラさんの料理も、食べたい……ふひ」
「ハイッ! ミンナにワタシのリョーリタベさせマースッ!」
「じゃ、それ六人前頼んじゃいましょっか」
先ほど水を届けてくれた店員が近づいてきたので注文する。
すると自動でマネーが引かれていく。オレの合計マネーが2900マネーになった事を鑑みると、そのルポー肉のステーキとやらは1100マネーか。
「なら次の質問なんですけど……オレ達は今日、先輩たちの様なテスターを助け出す為に、このFDPにログインしたんですけど、先輩たちは既に二日、この世界で生活をしてますよね」
「うん……最初は、もう凄い事になってたよ。みんな、出してくれ、とか……助けて、とか……騒げるだけ騒いで、でもどうにもならなくて……仲には喧嘩して殴り合ってる人もいたりして、私も怖かったから、隅っこで縮こまってた」
そりゃあそうだろう。オレ達五人のように問題が発覚して乗り込んだのではなく、楽しい先行プレイの筈が、いきなりログアウトも出来ず、一年以内にクリアしないとみんな死ぬゲームになったのだから。
「でも何人かが『自発的に行動しよう!』みたいに皆を鼓舞してくれて、とりあえず先に進めるように全員で情報交換をしてたの。私は、あんまりゲームしないから教えてもらうだけだったんだけど、おかげでひとまず生活していく事は出来るようになったの。さっきの、えっと……リントさん? も、私にゲームのやり方を教えてくれる優しい人だなぁ、とは思ってたんだけど……」
「口説かれた、と」
「えっと、この街にいる女の子で余ってるのが私しかいなかったからだと思うんだけど……うん」
えへへ、と恥ずかしがって頬をかく。先輩は綺麗なんだから卑下する事ないのに。
「気になったんだけどさぁ、その余ってる女がリリナだけって、先行プレイのメンバーには他に女もいたんでしょ? そいつらは何してんの?」
「女の子に限りませんけど、ゲームのクリアを目指す【攻略組】と、攻略を諦めてこのアルゴーラで生活する事を選んだ【生活組】に別れました。さっきお水を持ってきてくれた店員さんも、生活組のアルバイトです」
やる気無さそうに店内をウロウロとしている青年を見据える。確かに日本人顔で、明らかに他のNPCとかと違ってゲームキャラというより現実の平凡そうな男だった。彼と目が合うと「ちっす」みたいな態度で頭を下げて来た。
「先輩はどっちに属したんです?」
「一応、攻略組。でも、足手まといになるから他の攻略組とは別れて、一人でプレイしてて」
所謂ソロプレイヤーという奴だ。正直こういうオンラインゲームの場合、初心者の時ほどマルチプレイでやった方が攻略の難易度は下がるものだが、しかし彼女はあまり人付き合いが得意では無いので、そうしてみんなと一緒に、という事がどうしても受け入れ辛かったのかもしれない。
と、そこで一応気になったので聞いてみる事にした。
「RINTOはどっちだったんです?」
「あの人も攻略組。だけど、他の攻略組メンバーは別の街に行ったんだけど、あの人は『オレは君と一緒にやりたいなぁ』って、私についてきてくれたの」
下心満載である。