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愛するという事-09

「他には何が問題と?」


「次にはやはり、リッカさんについてです。


 現状リッカさんの移動ルートは、バスラ農村からエパリス、エパリスからヴォールと順調に進行を進めていますが、しかし進行スピードがゆっくりであると考えられます。


私たちを追いかけるにしては、随分と余裕しゃくしゃくと言った様子ではありませんか?」


「ああー。それはリッカ氏の精神安定が目的ですわー」



 返答は、今サヤカの事を肩車しながら、その場を時計回りに走り回るツクモから放たれた。



「わーっ、ツクモさんグルグルーっ、頭ツルツルーッ」


「リッカ氏ー、多分なんですがー、彩斗氏の事だから、結局戦いの場はアルゴーラにするだろうって考えてるんじゃなかろうかと思うんすわぁーっ」


「ツクモさん次ははんたいに回ってーっ」


「任せろっすわーっ!」


「なるほど、私がリッカとの決着を着けたがっているから、きっと残り日数が僅かな時には追いつけることが出来る様な速度になると踏んでいると」


「そうそうーっ、ぜぇ、はぁ、ぜぇ……サ、サヤカ氏、ちょいタンマ……ツクモオジサン、疲れましたぞ……っ」



 一度サヤカを下ろすと、サヤカも満足した様子でミサトの下へと駆け寄り、彼女の胸に抱かれて収まった。



「ふぅ……えっと、まぁそれ以外にもリッカ氏の場合、現状一人なのか二人なのか三人なのか分かりかねますが、何にせよ皆さんがアルゴーラ近くに行けば、死んでリスタートして、いつでもアルゴーラに戻れる算段付けとりますからなぁ」


「……リッカは相変わらず無茶を考える。あんまりそうポンポン死なれたら、こちらとしても気持ちのいいモノじゃないのだがな」


「それはお互い様じゃありませんのん?」



 リッカ――というより、彩斗とミサトを除く、一度ログアウトを済ませた面々に関しては、ゲームオーバー後のリスタートが可能だ。故に、意図してダメージを受け続け、死ぬ事によってアルゴーラから再度出現するというシステムである。


リッカは以前からこういう場合、自ら死にに行ってリスタート、という傾向があった。


FDPという世界にログインしたての時も、リスタートが可能かどうかを確かめる為だけにミライガに意図して殺された事もあったし、かつてFDPという世界そのものがNPC化して、エパリスからアルゴーラまで転移して逃げた時にも、自ら死にに行ってアルゴーラまで追いつくという離れ業を行った。


確かに、死亡してリスタートする事によるデメリットはほとんどない。強いて言えば所持マネーから五分の一を減らされる事程度であるが、彼はもうすでに巨万の富とも言える程のマネーを所持している上、使用機会も限られている。


だがこの方法には、一つ小さな問題点が存在する。



 ――死亡時の表現が非常にリアリティがあり、その死亡する瞬間まで意識が鮮明であるからこそ、受ける心象的ショックが大きいのだ。



ツクモも一度死んでいるが――当時のショックは非常に大きく、今一度死ねと言われたら、恐怖で身がすくむ可能性もある。


FDPというゲームがもし今後、製品として発売される場合があるとしたら、この死亡時のリアリティを軽減させた方が良い。そうでなければ少なくとも子供にやらせようとする気はなくなる。



 ――だが、リッカならばやると、三人の意見は一致した。



「……ええ、リッカさんなら率先して死にますね。まず間違いなく」


「リッカはそうした死に対する恐怖心は薄いしな」



 彼も一切の恐怖を感じないというわけではない。今ミサトも「率先して死ぬ」と言ったが、それはあくまで必要があった場合に限定される。


現在も距離……というより攻略難易度なども含め、総合的に鑑みてもアルゴーラから世界樹の森を歩く三人に接敵した方が良いと言うのに、彼はわざわざ高難易度となるルートを通っている事からも、それが伺えるだろう。


だが――しかし、それは現時点で必要を迫られていないだけに過ぎない。


彼は必要であれば、リスタート可能な命を投げ出す事に戸惑いはない。


だからこそ、彼を表現する言葉としては、彩斗の言う「死に対する恐怖心が薄い」が一番近しいのだろう。



「なら、リッカとしては現状何を目的にゆっくりと進行をしていると?」


「さっき言ったでしょう? 気分転換ですよ。彼はゆっくりFDPって世界を歩む事によって、思い出とかを振り返りながら、自分の心を休めてるんすわ」


「気分転換をするのに最適なルートとは思えませんが……」


「ええ、なので恐らくですが、マリア氏とかリリナ氏は一緒じゃないでしょうな。多分、彼一人だ」



 ツクモはリッカの位置情報等は彩斗やミサトに伝えているが、しかしマリアやリリナと言った、リッカについてきた子達の情報までは与えていないし、二人もそれは気にしていない。


現状リングが無く、戦力的には一歩どころか何十歩と劣る彼女たちと戦う事になっても、彩斗とミサトのどちらか一人だけで対応は可能だろう。それだけ、リングというのは戦略に重要なアイテムであるのだ。



「リッカはそうした難所を一人で乗り越え、そしてその先で私が待つと、そう考えているのか?」


「そうとしか思えんでしょ。自分もリッカ氏がどう動くかはわかりませんでしたが、こうしてごく普通に順路をただ時間かけて歩いてる所を見るとね」


「私たちの救出に、それ程全力では無いという事なのでしょうか?」


「そうじゃない――あの子は、そう言うしがらみとか全部脇に置いて、ただ彩斗氏との戦いを全力で楽しむ為に、その心を昂らせてるんすよ」



 ただ、それだけの事だと。


ツクモは言い切ってから「元気百倍ツクモマンッ」と叫び、その声に合わせてサヤカがワクワク顔でツクモへとダイブし、ツクモがそれを抱き留め、再び肩車を行った。



「ねぇねぇツクモさんっ、リッカさんと彩斗ママがたたかうの!? 彩斗ママとリッカさん、どっちがつよい!?」


「それが分かんないんすわぁ。サヤカ氏はどっち応援します?」


「うー……彩斗ママにもかってほしいし、リッカさんもカッコよくかってほしいなぁ……」


「おいおいサヤカ、そこはママに勝ってほしいと言い切って欲しいな」



 彩斗はそうしたツクモの返答で満足したのか、ツクモとじゃれるサヤカに声をかけに行き、ツクモは一人立ち尽くすミサトの事を見据えて、サヤカの事を彩斗に任す。



「少し、ミサト氏と話をさせて欲しいんすわ」


「……分かった。ミサトもいいか?」


「ええ、私も、ツクモさんと少し、お話があります」



 では、と先に進んでいく彩斗と、彩斗に手を引かれて行くサヤカ。


サヤカに向けて、ツクモと一緒に手を振って見送り、その背中が小さく見える距離に遠ざかったところで、ツクモとミサトは向き直り、表情を引き締めた。



「後は自分に対する文句ですな」


「ええ。……彩斗は、目標を少し見失っています。あの人は残りの日数、サヤカの事を考えて行動せねばならぬというのに、今ではリッカさんの事ばかり」


「それを責めないであげて下さい――そうなる様に仕組んだのは、自分や、海藤雄一ですのでね」


「……ッ」



 これまで、彩斗は、時にミサトは、強大な敵を相手にしてきた。



マリア。


リリナ。


カーラ。


エリ。



彼女達は自分たちに出来る最善の戦いによって、彩斗を追い込んでいった。


そうした戦いを経て、それまで「サヤカと共にいる未来を歩む為」に戦っていた彩斗の心に、迷いというより、変化が生じた

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