変身の時-01
マリアを探しに行ったらマリアが主人公よろしく、ナンパされてた新庄先輩……リリナを助けてました。
いや、別にいいんだけど。むしろリリナを助けてくれて嬉しいんだけど、そういうのってオレがそういう役割を果たすべきなんじゃないかなぁ、とは思ったけど、よく考えるとオレは喧嘩も格闘技もしてないし、リングの使い方も全然わかっていないから、運動の一環で様々な格闘技を習っていたマリアが遭遇してよかったのかもしれない。
それはさておき。
「先輩が、無事でよかったです」
「うん……あ、ゴメンね急に抱き着いちゃって。嫌じゃなかった?」
「嫌なわけないじゃないですか。オレにとっちゃご褒美ですよ」
「? よくわからないけれど、良かった」
ちょっと本音が出かかってしまったが、気にしていないようで何よりだ。先輩は先ほどまでオレの胸で泣いていたが、しばらくすると気恥ずかしさからか離れ、頬を濡らす涙を拭った。
「マリアも、ありがとう。先輩を助けてくれて」
「……別に」
「あ、さっきはゴメン。勝手な事して」
「べっつにぃ? アタシそんな事で怒るほど気が小さくないしぃ、別にどうにも思ってないっつーのぉ」
「イヤ絶対怒ってるだろ……」
「怒ってないっつってんでしょ!?」
プイッと顔を逸らしたマリアはリリナの手を引いて「アイツらの所に戻るわよっ」とだけ言い残し、歩いて行ってしまう。
しかし今度は後ろから追いかけても特に何も言ってこないので、怒り自体は確かに収まってるのかもしれない。あまり深く考えない様にするか。
噴水広場に戻る為の道を歩んでいると、そこにはオレ達を追うように、しかしゆっくりと歩くツクモ、エリ、カーラさんの三人がいて、カーラがオレを見つけると笑顔で「リッカーっ」と手を振ってくれたので、オレも手を振り返した。
「あの、雨宮君。あの人たちは」
「オレがスカウトした仲間です。紹介しないとですね」
合流を果たしたオレ達、計六人。
まずはリリナへ、それぞれの自己紹介を行う。
「まずこっちのハゲが」
「オッスオラツクモ!」
「あ、えっと、私雨宮君と同じ学校で、同じ文芸部に所属している、新庄璃々那と言います」
「リッカ氏も隅に置けないっすわぁ。こんな可愛らしいガールフレンドがいるとは。嫉妬で髪の毛が全部なくなりそうっすわぁ」
「元々無いじゃんか」
「無慈悲な事実を突き付けられたンゴ。訴訟も辞さない」
ツクモは外観が怖い事もあり、先輩も最初はオレの背中に隠れながら挨拶をしていたものの、しかし物腰柔らかな感じから段々と慣れていき、最後には握手する事は出来た。
「で、この女性が」
「カーラデースッ! リリナはカワイイオンナのコデスねっ! アタラしいムスメのタンジョーデースッ!」
出会い頭にムギュッと先輩を抱きしめ、頭を撫でるカーラさん。彼女の柔らかな胸に顔を挟まれた先輩は最初こそ「ほわぁぁああ……っ」と顔を真っ赤にしていたが、次第に表情を虚ろにさせ、危うく眠ってしまう所で解放され、起きている事が可能となった。
と、最後にエリとの挨拶なのだが……エリは、先輩の表情をジッ、と見つめ、彼女の頭からつま先までを観察し、頭を抱えていた。
「エリ? どうしたんだ?」
「え、あ、あの……ご、ゴメン。多分、勘違いだと思う……あ、私エリ、です……その、普段可愛い女の子と付き合いないから、キモイと思うけど……是非、仲良くしてください……ふひっ」
「あ、いえ! エリさんとっても綺麗です! 私も、普段人付き合いとか苦手なので、仲良くして下さると、嬉しいです」
インドア同士、どこか通じる所があったか、二人は自己紹介の後に笑顔を交わしながら握手をした。
そして、次に先輩を助けた一番の功労者であるマリアだ。
「あー、アタシはマリア。マリア・フレデリックよ」
「さっきは本当にありがとうございました。マリアさん、強くてカッコ良かったですっ」
「そ、そう? まぁ、そう褒められるのは悪い気しないわねぇ」
ふふんと笑うマリア。彼女は普段人当りが強いのだが、なぜか先輩には態度が柔らかいな。
「所でさぁ、リリナはリッカと付き合ってんの?」
ホント脈絡なくいきなり変な事聞いてきたなコイツ。
「あの、さっきから皆さん、雨宮君の事をリッカって呼んでますけど、リッカって昔いたゲーマーさんの名前なんじゃ……」
「そうよ。で、コイツがそのリッカ」
人に指さすんじゃありません。
「黙っててすみません。オレがそのリッカだったんです」
「そうだったんだ。あ、じゃあリッカ君って呼んだ方がいいのかな?」
「オンラインゲームで本名を言うのは一応マナー違反なので、皆の名前はプレイヤーネームで呼んだ方がいいですね。オレは、どっちでもいいですよ」
「じゃ、じゃあリッカ君にしようかな……」
「んで、付き合ってんの? 付き合ってないの?」
話を逸らしたつもりだったのに、マリアはよほど人の色恋沙汰に興味があるのか、話を蒸し返してきやがった。
先輩は思い出したように顔を真っ赤にして、ブンブンと顔を横に勢いよく振りまくる。
「ま、まだ付き合ってないですっ! 私たちは、あくまで同じ部活の先輩後輩で……っ」
「まだ、って……あぁ、そういう事」
若干頬を膨らませたマリアがオレをジロリと睨んできたが、何も睨まれるような事はしてない。先輩の言う通り、オレ達はただの先輩後輩の関係だ。




