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愛すると言う事-02

「……まぁ、何にせよ彩斗氏とミサト氏を見つけるのが先決ですの」



 ツクモとしては、まず真っ先に彼女たちが現在の潜伏先としている場所を特定する事が優先と考えていた。


リッカはマリアやリリナと共にまたFDPにログインし、現在はバスラ農村に建てた自宅にいるはずだし、これからエパリスにも訪れる筈だ。であれば、先んじてエパリスへ向かった自分が早々に行動し、彼が彩斗とミサトを見つけやすい状況を作り出す事が先決と踏んだのだ。


身体を起き上がらせ、ホテルを出る。都市特有の喧騒を感じながらグランドール大鍛冶場へと向かうと、そこにはグランドール大鍛冶場の頭であるグランツと、デンタリック商会鍛冶技術部門部長であるメリクスの二名が待っていた。



「お待ちしておりました」


「例の物はどうですかのん?」


「おう、バッチリだぜ。――しかしお前さんも物好きだな。こんな注文が来るたぁ思ってなかったぜ」



 彼らがいるのは工房の隅にある簡易応接間となっている空間で、熱気は届くものの、椅子と机が用意されて待合としても利用される。


 その机に差し出された一本の太刀。その鞘を抜きつつ刃を確認、綺麗な波紋を描いた良い刀である事が分かる。



「武器としての性能はそれなりにありますが、しかし対モンスター用としては弱くなってますよ」


「問題無しっすわ。そもそも対モンスター戦よりも、対人戦を想定した装備が欲しいと考えてただけですからな」


「対人戦っつーのは穏やかじゃねェな」


「自分もあんま戦いたくないんすけどねぇ」



 何にせよ依頼の物は受け取ったので、長居する理由も無い。代金を支払い、そのままグランドール大鍛冶場を後にした。



「残り十九日、遭遇したら戦闘になる事を考えても、残り日数は一日、猶予は欲しい」



 何しろFDPという世界は広大で、強大だ。


広さとしては三日四日もあれば全て回りきれてしまう程度であるが、しかしその道中には地域に応じたモンスターも多く発生している。


短時間の移動でどうにかなる距離であれば、最悪プログレッシブ・スピードに変身してモンスターに遭遇しないよう駆け抜けるという手もあるが、実はリングで変身をするのには非常に体力を消費する。


 多用して体力を消費した状態で彩斗やミサトと遭遇しても負ける事は必須であるので、可能な限りモンスターとの遭遇を避けつつ、ダンジョンでは体力を温存し、更に彩斗やミサトの場所を探るよりも前に体力回復に努める……等々、やらねばならぬことも多い。


そうと考えていたツクモが行くのは、エパリスを抜け、ヴォールへと向かう道。


山道を超えた先にある、ドレッド火山内部。山の中に作られた自然の洞窟を通る形となるが、その地中には高熱のマグマが通り、また所々で溶岩が噴出し、その肌が焼け尽くさんかと言わんばかりの熱をプレイヤーに感じさせる。



 ――しかし何よりも面倒なのは、その出現するモンスターの凶暴性だ。



ドレッド火山内部へと入り、数分程散策を行っていた時だった。


暑さに「熱盛ぃ……失礼しました、熱盛と出てしまいました……」等と誰も聞いていない独り言をしていた所、その背後を狙うかのように襲い掛かる小型モンスター。


ミライガの色違い個体と言われても納得してしまうほどの、黒を基本色とした鳥の様な小型モンスターで、名はドライガと呼ばれるらしいが、その時のツクモは「ひょーっ、ひょーっ!?」と叫びながら太刀を抜き放ち、その三個存在するアイコン装填スロットに駿足・灼熱・打撃のアイコンを装填し、振り切った。


疾く、打撃力の伴う、灼熱を纏った太刀の一振りは、一撃でドライガを真っ二つに焼き切り、絶命させるほどの力を有している。



「ああーっ、ビビった! マジで自分ホラゲ関係は苦手なんでやめてくだされホントッ」



 とは言っても、ツクモはその後冷静に刃を拭うと共に装填したアイコンを取り出し、そして自身が今装備する【参天眼・極】と呼ばれるサムライブレードの完成度に感心する。



「いやしかし、アイコン装填数が多いから選んだ武器でしたが、十分強いですやん」



 先日、彩斗とミサトの前に敗れ去ったエリであるが、今回ツクモの立てる作戦は基本的に彼女の想定した行動と似たようなものである。


装備品の多くは三つのいずれかに特化したものが多い。


攻撃能力が高い物。


補助性能が高い物。


そしてアイコン装填口が多く汎用性能が高い物。


元々エリはスナイパーマジックと呼ばれる、アイコン装填口が二つ装填出来る遠距離狙撃用マジックウェポンを装備し、人込みにある彩斗達を狙い撃つ事で彼女の身柄を抑えようとし、叶わなかった。


だが、その戦法自体には誤りなどなく、言ってしまえば「相手がモンスターでないのならば、対モンスターを想定した攻撃能力よりも汎用性を重視した方が良い」という事であり、事実彩斗達は後数歩の所まで追い詰められてしまっていた。


更に、エリは後にその装備をミサトの攻撃によって焼き払われてしまい、通常の対モンスター用装備に変えざるを得なかった。


つまり、有用性を十全に発揮できなくてもそれほどに追い込むことが出来たというのならば、それは十分な勝ち目がある事に相違はない。



「と言っても自分はブランクありますしなぁ。とりあえず大型モンスター討伐をそれなりにこなした上で挑戦する事も想定しなければなりませんな」



 刀をしまいながら、一体どんなモンスターがいるのか少しだけワクワクしつつ先へ進む彼だったが、しかし岩陰を曲がろうとした所で何かと足がぶつかり、前のめりに倒れながら手をつくと、柔らかい物に触れた。


むぎゅ、と触れた感触からして、生き物であるとは分かったけれど、しかしそれが雑魚モンスターなのか大型モンスターなのか、はたまたお色気アニメのようにラッキースケベなのかは彼自身判断がつかず、恐る恐ると言わんばかりに顔を上げる。



残念ながらラッキースケベでは無かった。


そして、雑魚モンスターというわけでもなさそうだ。なにせ少し顔を上げただけで全貌が見えぬのだから、少なくとも十数メートルはあるだろう。



――更に残念なことに、メチャクチャ怒っているようにしか見えなかった。

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