大人の戦い-08
空から降り立つ女性が一人。
既にプログレッシブ・フレイムへと変身を遂げた彼女――ミサトの姿を見据えたエリは、今のビームで焼き払われてしまったスナイパーマジックを確認、予備として用意していた普段使用しているマジックウェポンの二丁拳銃を取り出し、構える。
「彩斗がカーラさんと長々話してたのは、ミサトさんが私を見つけるまでの時間稼ぎだったわけ」
「ええ。――ただ、彼女の質問にも本心は含まれていたのでしょうけれど」
「サヤカはどうしたのさ」
「今はホテルのベッドでぐっすりですよ」
「そう――良かった」
「良かった? 何が良かったと言うのです、エリさん」
「だってさぁ……私も人の子だから、実の母親がガチで殺し合ってる所なんて、見たい筈ないって分かるもんよ……っ」
マジックウェポンの装填口に、技術のアイコンをセットするエリと、彼女の行動を見据えて駿足のアイコンをリングへとかざすミサト。
〈Progressive Run quickly.〉
二秒ほど、視線と視線の交り合わせ、しかしエリが左手に持つマジックウェポンの銃口を下に向けながら放つ事が開戦合図となった。
銃口から二発に枝分かれした光弾が、まるでそれぞれ意思を持つかのように無軌道な動きを見せながら、最終的にはミサトへと目掛けて飛来していくが、しかし既にプログレッシブ・スピードへと変身を遂げているミサトは、高速で移動を開始するプレートを二枚使い、光弾の攻撃を受け止める。
しかし、既に二者は身体を動かし、互いに互いの拳を振るう。
エリがマジックウェポンを握る両の拳を振るい、その自身目掛けて振るわれる拳を、同じ拳ではじき返しながら応酬するミサト。
エリは肉弾戦闘に入りながらも隙を見計らい、銃口などを気にする事無く銃弾を放ち、放たれる度に二つに枝分かれ、それも二丁拳銃なものだから計四発の光弾が一斉にミサトを襲おうとするも、しかし拳同士の応酬を行いつつも、ミサトが正確に操るプレートが弾丸を全て受け切った。
今、ミサトの顔面目掛けて大振りに振り込まれた拳を寸での所で避けたミサトは、現在いる高層建築の屋上から突き落とすようにエリの腹部へと蹴り付ける。
だが、プログレッシブ・テクニックに変身しているが故、空中に滞空したエリが、今度は銃口をしっかりとミサトへと向けた上で、計十二発の銃弾を放っていく。
プレート数は残り二十一枚。それを使ってしまうと面倒だと判断したミサトは、フッと息を吐きながら高速で自身の身体を動かしながら光弾を全て避け、屋上から身を投げると同時に、技術のアイコンをリングへとかざす。
〈Progressive・UP〉
「フォームチェンジ」
〈Progressive Attack Technic.〉
プログレッシブ・テクニックへとフォームチェンジしたミサトは、滞空しながら銃弾を放つエリに接近し、その脚部を上段から振り下ろし、エリの右肩を強打させる。落下していく身体を制御しつつ、建造物の近くに居たNPC達と接触しないように着地したエリは、舌打ちしながら上空より襲い掛かるミサトに向けて、拳を振り込んだ。
ゴウン、と衝突する、プログレッシブ・テクニック同士の装甲が奏でる鈍い音を聞きながら、エリは高らかに叫ぶ。
「この……駄々っ子共ッ!!」
「駄々っ子で……結構ッ!!」
両脚部のスラスターを吹かしたエリの突撃がミサトの腹部を押して建造物の壁へと叩きつけられるも、しかしミサトは苦しそうな表情を浮かべながら左脚部をエリの右肩に叩きつけ、蹴ると同時に自由となった右腕の拳を胸部へ殴りつける
殴り飛ばされたエリが逃げ惑うNPC達をドミノ倒しで転倒させていき――そこでようやく、NPC達がここは危険だと判断し始める。
逃げ惑う人の流れ。
そんな流れの中、彩斗とカーラが視線を合わせたまま、動かずにいた。
何度NPCとぶつかったか分からない中、カーラと彩斗は、彩斗のリング、双剣の位置を確認し、思考を巡らせる。
(彩斗は何よりもまず、リングを狙う筈。リングがあれば、最低限変身による身体強化が受けられる)
息を吐きながら、今NPCが逃げる際に足で弾いたリングが宙へ舞った光景を見据えた二者が――動く。
プログレッシブ・フリーズ状態のまま、フォームチェンジをする余裕はないと判断したカーラが地を蹴り、今宙を舞っていたリングを取る為にジャンプ。
だが彩斗は――リングの方にではなく、思いの外近い場所にあった、自身の双剣目掛けて駆けだして、カーラの思考を乱したのだ。
「そっち――ッ!?」
思わず、彩斗の姿を目で追ってしまうカーラだったが、彩斗は双剣を一本、また一本と手に取ると、そのベルトに固定し、刃を抜いた。
「反撃開始だ……っ!」
逃げ惑う人々の間を縫うように、そして身を低くして人込みに紛れるよう行動を開始した彩斗の姿を見失ったカーラは、空中でリングをキャッチした後、NPC達と接触しないように着地したが、接触を気にしていた事が問題だった。
彼女の着地点を見計らっていた彩斗の振るう、二本の刃が、彩斗のリングを掴んだ右手装甲を強打し、動きを止めてしまったカーラの腹部目掛けて、双剣の柄で殴りつける。
グ、と殴打の衝撃に対して歯を食いしばって耐えたカーラだが、しかしそうしている内に、彩斗はリングをも拾い上げ、すぐに右手の中指に装着、更にリングへとかざすアイコンは、闇のアイコン。
〈Full Dive Progressive・ON〉
「ハイパー大変身……ッ!」
〈Progressive Advent Daemon.〉
漆黒の闇と形容し得る黒い光に包まれながら、全身を黒の装甲で包んだ彩斗――プログレッシブ・デーモンとしての彼女が、今頭部バイザーを光らせ、天に向けて手を掲げる。
ジジ――と青白いドットを輝かせながら出現した、三体のミライガ。
それは決してNPC達に襲い掛かる事は無いけれど、恐怖を煽る様にして嘶き、更に周囲から自主避難を促させ――既に、周囲にはほとんどNPCという存在はいなくなる。
既にその場は、カーラとエリ、彩斗とミサトという四人だけのフィールドとなった。
『形勢逆転だな』
「形勢逆転……? 冗談、まだまだいけるよ。ね、カーラさん」
「ええ。確かに作戦は失敗しましたが、しかしまだやれます」
「いいえ、ここまでです。――この騒動ではサヤカが起きてしまいますからね。すぐにでも終わらせてあげましょう」




