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家族との訣別-06

「リリナッ!」


「大丈夫ですっ」



 マリアがリリナの名を呼び、彼女もまた平気だと返して、それぞれがミライガとメデスを一体ずつ葬っていく。


その間、彼女たちを観察するようにしていた彩斗は立ち上がり、一つのアイコンを取り出したのだ。



『……大変身』



 本来であれば、闇のアイコンを用いて変身を遂げ、プログレッシブ・デーモンとなった彼女には、最強に相応しい力が宿されている。


しかし、彩斗がフォームチェンジした姿は、先ほどまでのリリナと同じく、駿足のアイコンを用いて変身する、プログレッシブ・スピード。


その姿に、リリナはともかく、マリアが今メデスを撃ち倒すと同時に、舌打ちをしながら、同じ駿足のアイコンを取り出し、リングへかざす。



「チッ――こちちらデーモン対策してたっつーのにっ!」



〈Progressive Run quickly.〉


〈Progressive Run quickly.〉



 二者に流れる、プログレッシブ・スピードへの変身音。


そして二者は、互いに得物を握りながら、疾く駆ける。


二人の動きを目で追う事が出来ず、リリナはその一瞬で呆然とする事しかできなかったが、マリアと彩斗は違う。


そのゲームで鍛えた反射神経・動体視力を活かした二者の攻撃と対処、マリアが銃を構えた瞬間に双剣の一振りで弾き、弾かれた瞬間反対側の腕で構える銃を放ち、銃弾を避け、斬り込むが、銃創で叩きつける事により避け、弾頭を撃つ。



「ッ」



 一瞬の内に技術のアイコンを取り出したマリアと、打撃のアイコンを取り出した彩斗。二者がそれぞれの武器に取り出したアイコンを装填し、再び動き出すまでの間、リリナは汗を流しながら、必死で二者を目で追う。



元々、彩斗にはプログレッシブ・デーモンという最強の力が存在する。


だが、プログレッシブ・デーモンとしての力に付け入る隙が無いわけではない。


その高すぎる攻撃能力、そしてデーモン特有の斬撃は確かに脅威だが、しかし反面『強力かつ強固なだけで、各アイコンのような特出した技能を持っているわけではない』という点が付け入る隙なのだ。(一応雑魚モンスターを召喚すると言う手段もあるが、マリアやリリナのように成長したプレイヤー相手には効力が薄い)


その隙を埋める為に、デーモンにはフル・ダイブ・アバルトという追加装備があり、その装備にアイコンを装填する事によって最大二つのアイコン能力を引き出す事は可能だが、引き出せる時間は十秒間、使用制限がない事を考慮しても、事々に装填し直さなければならないと言う使い勝手の悪さが目立つ。


アバルト・グランテ戦の際は、その使い勝手の悪さを理解した上で、強力な力が必要だった。


しかし、今はマリアとリリナという少女たちが相手で、一撃の破壊力ではなく、彼女たちを翻弄し得る力が必要なだけだ。



――つまり、使い勝手の悪いデーモンに変身する理由は、それほどない。



彩斗がFDP内に残る選択をしたと聞きつけ、慌ててログインを果たしたリッカが、プログレッシブ・セイヴァーへと変身せず、スピードへと変身をした理由の一つもそうだし、彩斗がブローに変身した理由もそうだ。


ならば何故、マリアとリリナと相対する時、プログレッシブ・デーモンへと変身したのか。



それは、彼女たちを観察する為だ。



「君達は……というより、ログアウトした者たちは、この世界で死んでもリスタート可能になったみたいだね」


「ッ!」



 今、マリアの放つ銃撃を避けた彩斗が口にした言葉が、マリアの表情を僅かだが歪め、そしてその態度を見た瞬間、彩斗は笑う。



「やはりか。デーモンの脅威な力を見ても尚、モンスターを召喚し襲わせても、君たちは事務的に処理を行った」



 殆どの人間は、死という概念に正しく恐怖する。


かつてのリッカの様に、ただ死ぬ事に恐怖はあっても、誰かの為に死ねるのならばそれも良しと選べる存在も確かに存在するが、そうした者は殆どが異常者だ。


目の前で、自分に向けて銃口を向け、今トリガーを引くマリアという少女は違う。


彩斗のあまりに早すぎるスピードに、そしてそれに追随するマリアに、目で追いかける事がやっとなリリナという少女も違う。


死を正しく恐れ、恐れるからこそ、勇気と恐怖を天秤にかけ、天秤が僅かに勇気へ傾くからこそ、その勇気を振り絞り、戦う者達。


死を前にした時には震えるが、しかし最後まで戦う事を諦めぬ、勇者とも言える。



――そんな彼女たちが、一歩間違えれば人を蹂躙し得る力に変身し、攻撃を仕掛けてくる彩斗へ、恐怖せずに立ち向かえる筈がない。



つまり、彼女たちはこのFDPというゲーム内で死んだとしても、リスタートが可能という事――!



 今、技術のアイコンを装填して放たれた銃弾三発が、真っすぐではなく無軌道に射出されたが、しかし彩斗はその動きを見切り、双剣に展開されたトンファー状のギミックを稼働させ、叩き落すようにしてやり過ごし、マリアの顔面に向け、拳を突きつける。


急遽、ウェポンガンで防御へと移ろうとするマリアだが、その防御ごと殴りつける形で彼女を吹き飛ばすと、リリナが「マリアさんっ!」と叫び、彼女の事を気に掛ける。



「隙を見せたな」


「ハ……っ」



 リリナが気付いた瞬間、彩斗は右脚部でリリナの足を振り払い、地面へと倒れた彼女の胸部を右手に掴む剣の柄で殴打した。


表情を歪め、ゴフゴフと呼吸を求めて身体を丸めるリリナ、そんな彼女を見て激高するように彩斗を睨むマリアへ、彩斗は言う。



「安心しろ。君達はコンティニューできると分かっていても、気分が悪いから殺しはしない。……勿論マリア、君も殺さない」


「舐めんな――ッ!!」



 放たれる銃弾は五発、それで弾が全て無くなったか、空のマガジンを落としたマリアが、銃弾を操作しながら前進。


弾丸を避ける彩斗の移動した方向へと進み、銃で殴りつけようとでも考えていたのだろうが、彩斗にとっては彼女の考えも、また甘い。



「やはり君たちは、子供だ」


「――ッ!?」



 彩斗が駆けたのは、行動しようとするマリアの眼前。


勿論マリアも、考えていなかったわけではない。


銃弾の中を突っ切り、彩斗がこちらへと襲い掛かってくることも検討はしていた。



だが――ゲーム内での死が現実での死と同義である彼女が、そうした選択をすると思えなかったから、可能性から排除したのに、彼女はそれを成した。



 マリアの腕を取り、足を払い、背に乗せる様にして行われる一本背負い。


プログレッシブ・スピード特有の俊敏さ故、そのレンガ造りの地面へ叩きつけるスピードも速く、スピードが速ければ運動エネルギーも高く、その衝撃にマリアは、血を口から吐き出し、気を失う寸前にまで追い込まれた。



「がぁ……っ」


「私を殺さないようにしていたな」


「あふっ、ごほっ」


「それでは駄目なんだよ。君は、君たちは、自分たちが誰を相手にしているか、しっかりと理解していない。



 ――私は、君やリッカがゲーマーとして輝く前に、最強を拝命した女だぞ? 生半可な実力だと思ってもらっては困る」

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