最後の戦いへ-06
十秒毎にアイコンが排他されるシステムとなっているオレ達の武器は、今回の討伐では相性が若干悪い。
しかし、今回は参加メンバーも少ないため、そうした使い勝手の悪さも考慮に入れて行動しなければ、攻略は果たせない――!
「現状維持でそのまま進行してッ! アバルトとグランテの動きはかなり抑制出来てるっ!」
リリナを離れた位置にまで誘導し終えたエリが、マジックウェポンを手に持ちながら、今トリガーを引く。
正確無比に放たれる光弾は、全てマリアが既に打ち抜いていた個所に着弾する。
彼女の言葉通り、現状グランテとアバルトの二体は、攻撃という攻撃をしてきていない。
否、正確に言うと羽ばたきながらオレや彩斗に向けて、その翼を強く打ち付けようとはしてきているのだが、しかしそれを全て寸での所で避け、またその翼から放たれる風圧は、カーラの展開する風圧無効によって無力化され、意味をなしていないというのが正しいだろう。
しかし、そこで二対の龍が、動く。
凶咆と共に地面へ勢いよく着地した瞬間、地面から強く飛び上がってその体に噛みついたりなどをしていた、召喚した雑魚モンスターが踏みつぶされたり、着地した際の衝撃によって吹き飛ばされて死に絶えていく。
風圧無効を付与していても、その身に襲い掛かる暴風は、確かに髪の毛や衣服を揺らめかせ、心象的には動きがし辛くはなる。
オレと彩斗、二者へと向けて突撃してくる龍の腕部を、オレはフル・ダイブ・グランテの剣で受け止め、彩斗はフル・ダイブ・アバルトを振るった衝撃波で一瞬だけ動きを止め、その間に地面を転がり、避ける事で対処。
問題は――次の攻撃だ。
大きく口を開けた二対の龍が、それぞれ口から光と闇のビームにも似た光線を吐き出した。
それはグレイフル・バルのように一本線のビームではなく、拡散されるレーザーにも似たもので、エリとマリアが「マズい」と言葉を重ねた瞬間、カーラが動いた。
「バリアマウント――ッ!」
レーザーがオレ達の身体を貫く寸前、カーラが展開したバリアマウントの効力で、熱は拡散されて衝撃がオレ達を襲うだけに留まった。
全員が僅かに表情を歪めるも、しかし突然の事態に対処しきれなかった事による若干の動揺だ。
「エリ、今のは!?」
「、! まだ情報が足りないけど、撃つ寸前に首をグルンと回してた! それが撃つ時のモーションかもしれない!
カーラさん、そのモーション出てきたらバリアマウントをすぐに展開して!」
「オーケーデスッ!」
オレと彩斗はアタッカー故、全体を俯瞰で見る立場にいられない。故にオレと同等の観察眼を持つエリを後方に配置し、敵のモーションや動きに対処できるようにしてもらっている。
「んじゃあアタシは、追加ダメージ出せるようにしますか!」
「お願いマリア!」
「任せとけってっ!」
マリアが灼熱のアイコンを取り出し、リングへとかざし、フォームチェンジが行われる。両手両足を覆う装甲が展開されると同時に噴出される水蒸気が彼女の顔面にかかるものだから、首を振って払うようにする彼女は、凛々しく見える。
『Progressive Fire Active.』
プログレッシブ・フレイムへとチェンジしたマリアが、今度はウェポンガンに打撃のアイコンを装填する。
「エリ、デバフ頼んだ!」
「おっけーっ」
マリアの声に呼応するかの如く、エリがマジックウェポンを構えて、銃弾を合計四発放ち、それらがオレと彩斗を襲う龍の両目に着弾、僅かに動きを鈍らせた。
フリーズ故の氷結能力が展開された事を確認したマリアは、カーラの手を掴んだ後、飛び上がる彼女に引かれる形で宙を舞いつつ、弾丸を正確に四発、先ほどエリが撃ち込んだ個所へと撃ち、着弾。
元々フレイム形態となっている事も合わせ、打撃のアイコンを武器へ装填した結果、それなりのダメージが入ったのだろう。呻き声にも似た音が龍の口から溢れると、マリアがカーラに視線を向ける。
「カーラッ!」
「マッカせてくだサーイッ!」
カーラがマリアの身体を持ち上げ、高く空へと投げ飛ばす。
空中で身体をくるりと回しながら、予備のマガジンを取り出したマリアは、銃創から空のマガジンを地へ落とし、新たなマガジンを装填、落下までに撃てるだけの銃弾を、アバルトとグランテの双方に同数、同じ個所に撃ち込んでいく。
「――っし!」
上出来だと自分自身を褒めながら、今地面へと着地し、先ほど放棄した空のマガジンを回収したが――
「!」
カーラが、異変に気付き、バリアマウントを展開。
先ほどと同じくアバルトとグランテが首をぐるりと回しながら、口を大きく開いたのだが、問題は次の行動で、先ほどは拡散レーザーのような攻撃を全体に放ったけれど……今回の攻撃は違う。
――マリアへと首を向け、二本のレーザーが一直線に伸びたのだ。
彼女はあまりの殺気に思わず飛び退いたが、しかし一瞬遅かった。
カーラの展開したバリアマウントによって僅かに拡散されながらも、しかし衝撃や威力を殺しきれなかった二本のレーザーが、マリアの左腕を貫いた。
「マリアッ!!」
オレが叫ぶものの、しかし左腕をダラリと落としたマリアが唇をかみながらも前を向き、姿勢を正す。
「い、つ……っ! だ、大丈夫……っ! 軽い、やけどみてぇなモン……っ!」
「リッカ、前だッ!」
マリアに気を取られ過ぎていたオレに、彩斗の声が聞こえた。
反射故にフル・ダイブ・グランテを前面へ向けた事が幸いした。
再びグルリと首を回したアバルトが、オレに向けて放つレーザーは、奇跡的に前面へ展開したフル・ダイブ・グランテの剣が防ぎ、衝撃で吹き飛ばされるだけに留まった。
だが、ステージの中央にいた筈のオレが端にまで吹き飛ばされる勢いだったのだから、その威力がどれだけ高いかは察せよう。
バリアマウントは展開するタイミングがシビア故、オレの場合はバリアマウントによる威力拡散がされたなかった事も理由ではあるだろうが、それにしても防いだにも関わらずこれとは……!