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チュートリアル-08

 オレは気が付くと、アルゴーラの噴水広場に立っていた。試しに履いている靴を脱いでみたり、そのまま噴水の水に足を付けてみたりした。


 流石に公衆の面前でインナーを脱ぐ事は憚られるけれど、裸にはなれるのかどうかは気になった。


噴水広場まで走って帰って来た四人に会釈をすると、それまで座っていた場所から立ち上がって、近づく。



「ア、アンタ大丈夫だったの!?」



 驚いたのは、一番素早かったマリアがオレの手を握り、体に触れ、オレの無事を喜んでくれた事だ。彼女の事だし「アイツ何やってんのよチュートリアルで死ぬとかムキーッ!!」とか言ってそうなのに。



「痛かったけど、ショック死する程では無いな。今ステータス画面とか見てみても、自分のHPとか載ってないし、あくまでその人間が持つ体力とか、所謂致死量の血液を認識して、それを超えると死亡扱いになるんだと思う」



 今回のチュートリアルバトルで一番知りたかった内容は、二つだ。


まずは痛覚。ユーザー間で起きた接触による痛みは現実に即した内容だったが、しかしモンスターに攻撃された時に受ける痛みは、針で刺される程度の痛みしかなかった。地味にイヤだ、位の痛みって事だ。


これを知れただけでも、精神的に楽が出来る。モンスターへ挑む度に死ぬほどの痛みを味わうんじゃ、恐怖で攻略どころではない。


 オレ達はゲーマーではあるけれど、自ら死ぬほどの痛みを味わいに行くほどの勇者じゃない。



「そして、もう一つ分かったな」


「し、死んでも……コンティニュー、出来る……っ」



 エリがオレの言いたい事を代弁してくれたので、頷く。


こう言った「ゲーム内に閉じ込められる」という状況の小説やゲームだと、死ぬとゲームオーバーとなり、実際に命を落とす事が多いものの、このゲームはそうじゃない。


コンティニューできる。そして、痛みはそほど苦痛ではない。



「これなら、イケる。五千個全てを取得できなくても、八割から九割の称号を取得する事は、この面々なら不可能じゃない」


「アンタ、それを知る為だけに、死んだっての……?」



 マリアが、何かバケモノを見るかのようにオレの事を見据えてくるので、それに頷く。



「必要な事だった」


「だ――だとしても、怖くないの!? だって、死んだらゲームオーバーになって、そのまま現実にも帰れず、ゲーム内にも帰れず、みたいな事になるかもしれなかったのに!?」


「もし死ぬことでログアウト出来るなら、もう一度このゲームをプレイしてその事実を皆に伝えればいい。皆死んでログアウトすれば円満解決。


 そして、最悪二度と帰れなかったら、皆には『死んだらコンティニュー不可』だと分からせる事が出来る。その為に絶対必要な事だった。


 けど、オレはその為に皆へ死んでくれとお願いする事は出来なかった。


このゲームへ皆を誘ったのは、オレなんだ。だから、この役目はオレが背負うべきだと考えた。それだけだよ」



 マリアは、オレの答えた言葉に――表情を真っ赤にして怒り、プイと顔を逸らして、歩いていく。



「どこ行くんだよ、マリア」


「街の散策! どこに何があるか、理解しとくに越した事ないでしょ!?」



 一理ある、と頷き、オレも追いかけようとするも。



「付いてくんなバーカッ!!」



 そう叫んだ彼女が、彼女自身気付いているのかわからないが、涙を流しながら睨んできたので、つい後ずさって、彼女の背中を見送ってしまう。



「せめて一言、相談位は欲しかったっすわぁ」



 ツクモがオレの後ろから声をかけてきた。しかし口調は、口癖の「すわぁ」はあるものの、真剣な声色だった。



「その二つを気にしてたのは、リッカ氏だけじゃないんすわぁ。多分、だからこそマリア氏も、リッカ氏が行った行為を理解は出来てはいるんすわぁ」


「理解できてるなら、何で怒るんだよ」


「あれは、怒ると同時に安心したんすわぁ。死んでない、消えてない、良かったと、それだけ喜んでいる。けれど、相談も無しに死んで、結果がどうなるかもわからず、不安にさせやがって、と思ってる事も事実っすわぁ」



 彼は、見た目だったり口調だったり多用するスラングだったりで、よく誤解をされる。けれど、オレはそんな彼と、ゲーマー時代も、何だったらゲーマーを辞める時も相談をする程、彼の事を信用している。


彼は「大人」なんだ。


子供のようにふるまう事はあれど、子供が間違っていたら、しっかり叱る事の出来る大人だ。


迷っている時に、考えを押し付けるのではなく、当人がどうしたいかを確認して、その道へ導く事の出来る大人だ。


だからこそ――マリアも、カーラも、エリも、オレも、ツクモの事を信用している。


そしてオレも――彼が本気で今、オレを叱ってくれていると分かるからこそ、自分の非を認める事が出来る。



「……ごめん」


「謝れたのなら、このままマリア氏の所に行くべきっすわぁ。彼女にも、謝らないと」


「そうだな、行ってくる」



 オレは三人から離れ、マリアが駆けていった街中へ向かう。


ツクモはそんなオレの背中を、ずっと見つめてくれていた。



「ふひ、……でも、ツクモさんが子供凝視してると、危ない奴に見えるの、なんでだろう……ふひひ」


「今シリアルな場面なんすわぁ!」


「ツクモ、シリアルタベたいのデスか?」



 ……そんな会話が聞こえて来たものの、無視してこのシリアルな空気を保ち、マリアを探す事にした。

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