Full・Dive・Progressive-02
「――プログレッシブ、オンッ!」
叫び、手に構えていた赤の宝石――アイコンを上空へ放り投げる。
同時に、右手の中指に装着したリングを天に向けて掲げると、アイコンは解け、オレの身体をまとう様に広がった。
オレの身体にまとわれていく、赤の装甲。
それが両脚部、腰回り、胸周り、両腕とまとわれていき、最後にオレの顔面を、覆って――装甲の隙間からブシュッと、水蒸気の様なものを、吹かした。
ウィン――と稼働音を鳴らしながら、オレが身体全体を動かし、駆ける。
速度は人間のそれではない。
高速で移動を開始したオレが、今まさに氷結晶を押しのけ、立ち上がろうとしたガードルズの顎に、アッパーカットを決める。
浮き上がるガードルズ。そんな奴の腹部に向けて跳んだオレが、炎纏われる右腕部を全力で叩きつけ、更に洞窟の天井まで、飛ばす。
『全員、一斉攻撃だ!』
オレの声は僅かにこもっているが、しかし全員に問題なく聞こえている筈だ。
リリナが絶叫すると、彼女の歌声によって発せられた超音波がガードルズの鼓膜を破り。
カーラが杖を掲げると、漆黒の宝石から放たれた闇のボールが無数に生み出され、それらが一斉に襲い掛かる。
エリは二丁拳銃を構え、無造作に引き金を引く。二丁拳銃の銃口から放たれた光線は、それが単純な破壊力となり、ガードルズを貫いていく。
マリアは、六発のリボルバーに装填された銃弾を、全てガードルズの脳天に向けて放っている。しかも、銃弾が切れれば一秒で装填を終わらせ、手首をスナップさせてリボルバー持ち上げ、再び放っていく。
ツクモは何もしていない。「攻撃が届かないんすわぁ」
そしてオレは――
全員の攻撃が止んだ事を確認し、右脚部に纏う轟炎を認識すると、強く地面を蹴って、背部のスラスターからスラスターを吹かして――ガードルズの腹部へ、轟炎纏われる右脚部を、思い切り突き出した。
『プログレッシブ――ラスト・アクションッ!!』
叫ばれる必殺技。
同時にガードルズの腹部を突き破り、洞窟の天井に着地し――そこで、決着がついた。
爆散していくガードルズ。すると皆の頭上に電子画面のようなものが浮かび上がって『congratulations!』表記され、今回の報酬一覧を表示した。
『流石にトドメを刺すとMVP率上がるな』
「リッカはラストにトドメ刺しただけなのにぃ。アタシなんかどんだけ正確無比に銃弾撃ち込んだと思ってんのよっ! ゲームバランス絶対おかしいっ!」
「アラ、ガードルズのモモニク! これオイシーのカナ? ハハはアタラシーリョーリにチョーセンしマース!」
「ふひひひ、報酬金、たんまり……これで……ホスト通い、出来る……あ、違うのリッカ君ッ!! お姉さんは、若い男の子を応援しているだけなのぉおおっ!!」
『い、いや、エリの好きに使えばいいよ。それが称号に繋がるかもしれないしな』
「え、えへへ。またファンが増えた……でも、正直ここ、私達以外、誰も聞いてないような……?」
「まぁゲームですからな。所で私の報酬一割減ってるんですが、エリ氏ネコババしとりませんのん?」
「ふひ、バレた……っ!」
「おっ、おい待てい (江戸っ子)」
ツクモの報酬をネコババしていたエリが洞窟から抜け出し、それを追いかけるツクモ。
彼女達を追う様に、カーラが胸を揺らしつつ走っていく。
オレは、全身にまとわれていた装甲を解除して、上空に再び現れた赤のアイコンをキャッチし、ふぅと息を吐く。
リリナと。
マリアが。
そんなオレへと向け、手を差し出して、笑う。
「――行きましょう、リッカ君」
「――行くわよ、リッカ」
「――ああ。帰ろう」
オレ達は、洞窟を出て――その広大な大自然を、視界に捉える。
――この世界は、フル・ダイブ・プログレッシブ。
――オレ達はこの世界から抜け出す事の出来ないプレイヤーだ。
――それでも、オレ達は戦い続ける。
――少しでも早く、この世界から、抜け出すために。